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ReTake2222回目の安田悠太という世界線  作者: 平瀬川神木
第8章 社会人時代前編 大きな転機
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第47話 第7節 本当のところ

 こう子さんはマグカップを両手で持ったまま話し続けた。

「昨日はね、夕方に三橋から連絡があって、三橋は結婚して子供が3人いるんだけど、そのうちの1人が脳性麻痺を抱えているんだって。全部初めて知ったんだけど。それで今の病院の治療方針について納得いかない説明があって、その事で相談したいって言われたの。明日家族で病院に行って話をするから、その前にアドバイスが欲しいって言われて、悠太君に連絡しようと思ったのだけれど、帰ってきてから言おうと思っていたの。本当にもう何もないの。嫌な思いさせちゃうかもしれないけれど、私が入院したの、覚えてる?」


「もちろん。心臓の検査入院の時ね」

「そう。あの時に三橋もお見舞いに来たんだけど、その時も私の体を求めてきてね、ああ、こいつは本当に私の事を道具だと思っているんだなぁって感じて、完全に冷めたの。だからそれ以来何があっても、あいつとは何にもない。ただ今回は、脳性麻痺の子供の事、しかもリハビリの事でって話だったから、三橋の為じゃなくって、その子の為にできる事があるならって思ったの。だから、本当にごめんね。先に言うべきだった」こう子さんはうつむいた。


「こう子さん、顔を上げてよ。僕はこう子さんの顔、大好きなんだ。見えないのは淋しい。僕も嫌な思いをさせるかもしれない、言っていない事を話すね。こう子さんが前にトライアスロンチームのマッサージ師に、その……夢中みたいに僕に言った事があって」

「夢中なんて言ってない」

「うん、まあ僕の耳にはそう聞こえちゃったんだけど。それで僕は技師になるのをやめてマッサージ師になろうって思った時があって。真理雄に仕事としてじゃなくって、民間資格でも取って、響子コーチ専用特化型マッサージ師になれば良い話じゃんって言われたんだ。僕もそうかもしれないって思って、響子コーチ専用特化型マッサージ師になるための修行として、マッサージのアルバイトをしていたんだ」


「え?すっごい初耳」

「そうだね、言ってなかった。ごめん。それでね、病院はアルバイト禁止だから大学卒業の時にやめたんだけど、セラピストが病欠の時とか、月に1回あるかないかなんだけど、ヘルプに行ってたんだ。昨日はヘルプに行った帰りだった。僕も明日相談して、これからも続けるか、もうやめるか決めようと思ってた。だから同じだったね。ごめんなさい」僕は頭を下げた。


 こう子さんは僕の手を取って、僕の手を見ながら言った。「私たちはこんなに近くにいるのに、まだまだ知らない事だらけだね」顔を上げて僕の目を見てほほ笑んだ。八重歯の可愛い響子コーチの微笑み。僕はギュっと抱きしめた。


 僕はこう子さんの耳元で言った。「さっき結婚してくださいって言っていたけれど……」そこまで言うと、こう子さんがさっと僕から離れた。


 こう子さんは正座に座りなおして、手を床について言った。「不束者ではございますが、あなたの事が大好きです。私と結婚してください」

 僕はこう思った。夢なら覚めないで欲しいし、現実ならこのまま死にたいなぁ。


 こう子さんは僕にキスをくれようとしたけれど、僕が止めた。

「初めてお酒を飲んで、ゲロ吐きまくって、一晩ホームレスをやったままなので、せめて歯を磨かせてください」僕は土下座返しをした。

 僕は脱衣所で洋服を脱いだ。ゲロまみれになったこのシャツは、洗えばキレイになるのかな?さっきこう子さんの事、抱きしめちゃったけど汚しちゃってないかな?とりあえず洗濯カゴに入れた。


 バスルームに入りシャワーを出した。10秒くらいは水だ。温かいお湯が出てきたので、僕は立ったままでシャワーヘッドを壁に固定して頭からお湯を浴びた。

 

 この24時間は僕の人生でも最高に濃厚だったなぁ。お湯は僕の頭から足下まで、この丸1日で起こった色々な事のノイズを洗い流していった。


 僕はフツフツと笑いが込み上げてきた。こんな風に笑うべきではない場面だけど、笑いがとまらない。

 だってノイズが洗い流れていくと、僕の頭には響子コーチの言葉だけが何度もこだましていた。


 僕はとうとう、僕はとうとう、響子コーチと結婚できる。響子コーチと家族になれる。やった。やった。

「やったぁ〜」笑いながら声に出してしまった。

 

 ――ガチャ

 ドアの開く音がして振り向くと、そこには裸のこう子さんがいた。響子コーチとはスイミングクラブのシャワールームで、何度も一緒にシャワーを浴びたけれど、裸の響子コーチを目にしたのは、間違いなく初めてだった。


 僕は言葉を探せずに、絞り出したのは「キレイ……」だった。


 響子コーチは一歩進んでシャワーから出るお湯の束に入った。僕の身体と響子コーチの身体が密着した。

 今では僕の方が背が高いから、僕は響子コーチを見下ろすように見つめている。


 響子コーチは僕の胸に両手を置くと、少し背伸びをして僕にキスをしてくれようとした。

 「まだ歯を磨いてない……」僕が言いかけると、響子コーチは唇でそれを封じた。

 シャワーの音と、響子コーチの呼吸の音。シャワーから出るお湯と違う暖かさを持った響子コーチの体温。


 皮膚と皮膚が触れ合う感覚は、人生で初めてだ。

 好きな人と肌が触れ合うのは、こんなに気持ちが良いものなんだ……

 響子コーチは僕の首に腕を回して、もっと密着してキスが激しくなった。

 僕は勃起していたので、腰を少し引いた。

 響子コーチは、もっと体を強く寄せて、僕の勃起したアソコは、響子コーチのおなかに押し付けられた。


 強く激しいけれど、とても柔らかで、とろけるようなキス。

 お湯で温めると、溶けて形がなくなりそうな柔らかいキス。

 僕も自分の腕で練習したから、顔の力を全部抜いて、頭ごと動かして響子コーチの唇を追った。


大切なお時間を割いていただきありがとうございました。わかりにくいところやご意見ご感想などいただければ幸いです。

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