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ReTake2222回目の安田悠太という世界線  作者: 平瀬川神木
第8章 社会人時代前編 大きな転機
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第45話 第5節 僕が壊れるのはいつも響子コーチのこと

 洋服が嘔吐物で汚れているし、気分も良くないから会いたくないと言ったけど、すぐに来いと言われて、電車に乗って20分くらいの駅に着いた。


 駅前にはこう子さんのお姉さんとお母さんが立っていた。

「悠太ぁ、ひどいわね」お姉さんが言った。

「すみません、頭が割れそうなので大きな声はやめてください」僕は小さい声で言った。

 お母さんが公衆トイレに行って、タオルを水で濡らしてきてくれた。お母さんは無言で僕の汚れた洋服を拭き始めた。

「やめてください。大丈夫ですから。タオル汚れちゃうから……」僕が言っても、お母さんは無言で拭き続けた。


 それを見ながらお姉さんが言った。「悠太、どこにいたのよ?」

「どこかのビルの非常口で、寝ちゃっていました」僕はしかめっ面のままで言った。

 お姉さんが続けた。「響子から昨日の夜に電話があったわ。泣きながらね。三橋君、大学の時の元カレ?それと会っているところを悠太君に見られた。これから悠太君の家に行くから、遅くなっても心配しないでくれって」


 僕は嫌なことを思い出した。頭の痛みで薄れていた記憶だ。お母さんはタオルを裏返にして、きれいな方で僕の口の周りや顔を拭いてくれている。僕は頭がガンガンしている。お母さんはタオルを止めて僕の目を見て言った。


「三橋君と響子は本当にもう終わっているから。何にもなかったわよ」

 僕は眉間に最大のしわを寄せたままで言った。「何かあったとかなかったとか、どうでもいいです。今までだって何度もあったんだ。終わっているのに、ああやって会う。何かあったら相談するし、何かあったら相談にものる。おかしいじゃないですか?そんなにあの人が心配ならあの人と一緒になればいいんだ」


 お姉さんが腕組みをして言った。「気持ちはわからないじゃないけれど、響子は情に厚い子だから。冷たくできないんでしょ」

 僕は地面を見たままで言った。「だから、もういいですって。セックスしたとかしてないとか、もういいですよ。そうじゃないんだ。そうじゃないんだ……」僕は歩き出して改札口から駅舎内に入った。


 どこと決めていた訳じゃなかったけれど、なんとなく黒田さんと初めて会った冴子店長の海の家の海岸に向かっていた。駅から海岸への道をゆっくり歩いていくうちに、だんだんと頭痛は少なくなっていった。


 季節が違うから、海水浴場は閉鎖されていて、ビーチにはサーファーがたくさんいた。僕はあの時を思い出して、砂浜にひざを抱えて座っていた。


 これからどうしようかな……

 もう仕事もやめようかな……

 お父さんのいる札幌に行こうかな……

 響子コーチはやっぱり三橋さんが好きなんじゃないかな……

 それとも三橋さんのセックスが上手なのかな……

 忘れられない身体ってあるのかな……

 身体の相性が良いとかネットで見たことがあるしな……


 僕は取り留めもない事をぼんやり考えていた。


 そんな時に聞きなれた女性の声が聞こえた。「おぉ~?そこにいるのは悠太君ではないか?」

 後ろからぱっと覗き込むように現れたのは、僕が知る限り地球で一番美人の冴子店長だ。今は店長じゃなくて真理雄の奥さんか……


 冴子さんは僕の隣にドサッと音を立てて、足を投げ出して、両手を後ろについて空を見るように座った。


「どうしたの~?日焼けにでも来たのかな?そんな様子でもないわね~」

「こう子……響子コーチが、また元カレと歩いているところを見ちゃって……」僕がしょんぼりと話し出すと、冴子さんは元気に笑った。


「ははははは。悠太君がそんな風になる時は、いっつも響子さんだね~」

「笑い事じゃないですよ。ひどいです」

「ごめんごめん。ホント悠太君は響子さんに必死だね~」

「当たり前じゃないですか。僕は響子さんがこんなに好きなんだ。すっごく好きなんだ。僕はこんなに好きなのに……」

「好きなのにぃ?」


「僕はこんなに好きなのに、まだあの男とこっそり逢ってるなんて……」

「どこでそんな場面に出くわしちゃったのぉ?」

「僕のマッサージのバイトの後で、偶然……」


「あれぇ?悠太君まだバイトしていたのぉ?やめたんじゃなかったっけぇ?」

「やめましたよ。やめたけど、時々セラピストが休んだ時とかヘルプで行くんです……」

「そうだったんだね~。知らなかったよ。オイルマッサージの施術なんてアルバイト、響子さんはよくオッケーしてたね~。私なら嫌だなぁ~」


「……いや、まだ相談する前で……今日にでも相談しようかと……」

「あはははは。こっそりアルバイトの悠太君が、こっそり元カレと会っている響子さんと鉢合わせちゃったんだ~」

「全然違うじゃないですか。僕はバイトで、響子さんは元カレとプライベートで会ってたんですよ?」


「悠太君みたいに、突然呼ばれて相談されて、今夜あたり悠太君に相談しようと思っていたかもね~。運が悪いね~二人とも」

「そんな軽く言わないでくださいよ。全然違うんだから」

「悠太君は技師さんなんでしょ〜?アルバイト禁止なんでしょ〜?じゃあプライベートのお金稼ぎだよねぇ~?仕事って言えるのかなぁ?プライベートでオイルを塗った手で女の人に1時間も触りまくる悠太君と、もしかしたら余命宣告された元カレに、今までのお礼が言いたいと言われて会っていた響子さんと、どっちが正義なの〜?」


「いやどうせそんなんじゃないですよ。どうせまたどうでもいい相談という口実で、僕に偶然会わなかったら二人でラブホでやってたんだ」

「私から見たらぁ、悠太君もオイル塗った指でそのお客さんの事イかせてたんじゃないのぉ?って勘ぐっちゃうなぁ」

「そんな訳ないじゃないですか。そんなのひどい偏見ですよ」

「じゃあ悠太君が、どうせあの後ホテルに行ってやるつもりだったって言うのは偏見じゃないの〜?」


「僕はそんな事、一度もしていないけれど、響子さんは前科もあるし……」

「ははははは。やっぱりどれだけ心を入れ替えてもぉ、前科者はそんな目で見られて生きていかなきゃならんのだねぇ〜世間の冷たい風が身に染みるねぇ~」冴子さんはまた大笑いした。

「僕は、自分の人生かけて、こんなに好きなのに……あんな風に軽いことされるなんて……」


大切なお時間を割いていただきありがとうございました。わかりにくいところやご意見ご感想などいただければ幸いです。

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