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ReTake2222回目の安田悠太という世界線  作者: 平瀬川神木
第7章 大学時代後編 広がるそれぞれの世界
40/60

第40話 第6節 アレはアレのどこがそんなに良いのか?

 

 ――――


 スーピー スーピー


 動きが止まった響子コーチから小さな寝息が聞こえてきた。僕は両手で顔を隠して笑い出した。

 1人でその気になって興奮した「ウルトラ間抜け」な状態で大笑いしてしまった。

 笑い涙を拭いて、僕は起き上がって、響子コーチをかけ毛布をめくったベッドに寝かせて、おでこにキスをしてベッドから降りて掛布団をかけた。振り返ってもう一度ベッドに戻り、そっと掛布団をめくり、浴衣を開いてもう一度だけ乳首にキスをした。


 僕はテーブルの上を片づけた。響子コーチが飲んだワインの空瓶を見ると、小さな文字で「一般的なワインよりアルコール度数が高い為、飲酒にはご注意ください」と書かれていた。

「もう外でお酒を飲む事は禁止したいな……」僕は笑いながらつぶやいた。

 

 部屋の電気を消して、ベッドに入ったが、それはなかなか眠れる訳がない夜だった。


 朝起きると響子コーチは起きていて、かなり元気な様子だ。

「おはよう悠太君!昨日は寝ちゃったんだね。ごめんね、ゆっくり話す機会だったのに」

「何にも覚えていないんですか?いつもあんな風にお酒飲んで寝ちゃったり、記憶無くしたりするんですか?」

「ないない。寝た事も、記憶をなくした事もない。イビキうるさかった?」

 僕は笑った。響子コーチは「なになに?」と聞いてきたけど、何でもないと答えておいた。


 次の日は朝早めに出て、小さな峠を越えて修善寺で響子コーチの留学の安全祈願をして、狩野川沿いを走り、本格的な峠を登り、芦ノ湖に出て、箱根でお土産を買って、小田原に戻った。

 ほぼ予定通りの時間で到着して、輪行バッグに自転車を詰めて、電車に乗った。


 僕は電車の中で、本当に楽しかった事を伝えて、心からお礼を言った。

 ツーリングに行って、そんなにお礼を言われるのは変だよと響子コーチは言ったけれど、僕には本当に幸せな二日間だった。極秘特典のお尻もおっぱいも。


 響子コーチの留学先への旅立ちの日、どうしても空港で見送りがしたかった。

 

 親も来るからと言われたけれど、それでもどうしても行きたかった。

 響子コーチは親御さんの車で空港まで向かった。僕は電車を乗り継ぎ予定の2時間前には空港に到着していた。


 親御さんが見ている前で、握手をしてくれた響子コーチの手を両手で握って僕は言った。

「響子コーチへの想いは何にも変わりません。僕が14歳だったあの夏から、何1つ変わっていません。響子コーチが大好きです。言葉にすると、僕は響子コーチが好きです。大好きです。これ以外の言葉が見当たりません。僕は響子コーチが幸せである事を望んでいるし、響子コーチが嫌だと感じる全てを、響子コーチの周囲から排除したい。そしてもし叶うのであれば、響子コーチが僕を好きになってくれると、これほど素敵な事はないです。この気持ちはもう、中学生の時から何も変わっていません。だから、とにかく身体に気を付けてください。僕は響子コーチに恥じない毎日を送ります。待ってます。響子コーチにすべてをささげて待っています」

 

 響子コーチのお父さんとお母さん、お兄さんとお姉さんは驚いていた。響子コーチは照れくさそうな顔をしていた。

「わかったよ。身体には気を付けるね。悠太君も無理して倒れたりしないでね。しばらくの間は悠太君が倒れても、助けてあげられないんだからね」そう言うと、ご両親に手を振ってゲートへと消えていった。僕はずっと見送った。

 響子コーチが見えなくなって、屋上で飛行機を見送ろうと思っていたら、響子コーチのお父さんに声をかけられた。


「安田君だったね。良かったら一緒にコーヒーでも飲まないかい?」響子コーチの家族全員が僕を見た。

「でも響子コーチの乗った飛行機を屋上で……」僕が言いかけると遮られた。

「響子からは見えないから。さあ行こう」響子コーチのお父さんは、響子コーチのようにドライだ。


 響子コーチのご家族との対話は、想像よりも何百倍も楽しかった。

「安田君、え〜と?響子とはどこで?」

「はい。響子コーチが赴任したスイミングスクールの選手コースです」

「ああ、大学生の時にアルバイトをしていたスクールの。君は選手だったのかい?」

「はい、初めはブレスト、えぇと、平泳ぎの選手でしたが、響子コーチに勧められて自由形に転向しました」

「ほうほう、速かったのかい?」

「いえ、残念ですが僕には才能がなく、全国で7位どまりでした」

「それはすごいね。響子は全国大会に出場どころか、地方大会だって参加賞だったから」響子コーチのお父さんは、コーヒーを一口飲んで続けた。


「それはそうと、好きとかなんとか言っていたけど、あれは?」

「はい。僕は14歳の時に響子コーチに恋をしました。6年経った今でも続いています。響子コーチにはフラれっぱなしですが、迷惑にならない範囲で、あきらめずに好きでい続けています」お父さんは、小さく数回うなずきながら、もう一口コーヒーを飲みながら言った。


「そうか。いったいアレの何が良いんだね?」

「はい、僕を幸せにしてくれるところです。僕は響子コーチといると幸せになります。ですが僕が響子コーチを幸せにする方法を知りません。だから僕は響子コーチが選ぶ道を邪魔せず応援して、時には先回りして雑草を抜いたり、道を踏み固めたり出来たら良いなと思っています」


 お姉さんが口をはさんだ。「検査入院の時に毎日病院来てたアレでしょ」

 お母さんとお兄さんが言った。「ああ、アレか」

 お父さんがうなずいてから僕に言った。「で、アレのどこがいいんだい?」

「響子コーチといると、僕は幸せになります。響子コーチの声は僕を……」

 

 こんなやり取りが続いた後で、響子コーチの子供の頃の話や、お兄さんやお姉さんから聞いた、妹としての響子コーチの話が最高にチャーミングだった。

 帰りはご家族の車で僕の家まで送ってもらった。

 帰りの車の中でも、響子コーチの事や、僕の大学生活の話など、色々な事を話した。


 真理雄に今日あった事をSNSで報告すると、「実家に遊びに行きな」と短文が返ってきた。真理雄は一度ロックオンすると、攻撃を成功させるまで絶対に離さないから怖いと思った。僕も真理雄のまねをして、先に響子コーチの家族をロックオンする事に決めた。




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