第25話 第3節 光陰矢の如し色々成り難し
高校二年生になり、ますます時間が早く流れていく。ゴールデンウィークが明けたくらいに、学校で僕から真理雄に相談した。
「今年も冴子店長の海の家でアルバイトしたいと思っているんだけど、どう思う?」
「どう思うも何も。もう悠太君が来ること前提で話が進んでいるよ」
「なんか真理雄の言い方は、冴子さんの家の子みたいな言い方だなぁ」
真理雄は「らしくない」ちょっとバカっぽい、そうだあれだ。健治がエロ話をするときのような笑顔で言った。「へへへ。僕が冴子さんに悠太君『確定』のことは言っておくよ」僕の中の真理雄像が、少し崩れた。
なんにしても夏のアルバイトは決まった。僕が早めにバイトの事を気にした理由は、なぜか百瀬コーチから、今年も響子コーチは去年と同じ海水浴場でライフセーバーのバイトをするって言ってたけれど、悠太も同じ海の家に行くのか?と聞かれたのがきっかけだった。僕が冴子さんの海の家でバイトをしていたことを知っているなんて。百瀬コーチは地味に情報通だと思った。
残念ではあったけれど、自由形の大会結果は地区予選では全距離表彰台に上がったけれど、相変わらず関東大会では表彰台にも立てなかった。今年も全国大会には出られなかったけれど、古岡コーチからは「3年生の来年が勝負だから、今年までは準備と思っていい。来年は全国目指そう」といわれた。
響子コーチからも、来年の為に今まで以上に頑張ろうと言われていた。
全国大会に出ることができると、冴子さんの海の家で働けなくなってしまうことを真理雄に相談すると、それは自分も同じだし、出てから悩もうと「たしなめ」られた。
31歳のはずの冴子店長は、去年よりさらに美人になっていて、みっちゃんのおなかも、去年より出っ張った気がした。
去年と同じ様に、僕は定期的に知らない女子から連絡先を渡されたりしたけれど、去年大人の階段を少し登った僕は、ちゃんと、丁寧に、希望にこたえられない理由を伝えて、ありがとうと伝えられた。
それが響子コーチの前でも嫌な気持にならずにちゃんと伝えられた。冴子店長に厨房で頭をなでてもらって「さっきは偉かったよ〜」と褒めてもらったり、みっちゃんからも「大人になったねぇ〜」と褒めて?もらったりもした。
冴子店長の美人度上昇とみっちゃんのおなか以外の変化は、真理雄が完全にバイトを通り越して、この店の子になっている点だ。僕の方が先輩なはずなのに、どんなに店が混んでも、僕やみっちゃんに的確な指示を出して、お客さんを必要以上に待たせることなくさばいていく。
お店内の配置や仕事の流れも、真理雄が出した多くの意見が取り入れられて、去年よりスムーズに働ける気がした。何より真理雄は、冴子店長のお父さんと、時々来るお母さんに「えらく」気に入られている。無料で手伝いをしていたからだろうか?それとも真理雄の頭の良さだろうか?
去年より若い人も来てくれたけれど、相変わらず地元の漁師関係の「いかついおじさん」たちが集まるお店は、順調に夏を乗り切った。
もちろん響子コーチのライフセーバーぶりもカッコよく可愛く、僕も18歳になったら、冴子店長の海の家ではなく、ライフセーバーとしてアルバイトしたいと狙っていた。
今のうちから隊長と仲良くなっておいた方が良いと思い、去年よりたくさん監視事務所にも行って、響子コーチだけじゃなく、隊長とも話しをした。
副隊長のかなりイケメンで普段はサーフショップの店長である押尾さんという人から、「モテモテ悠太」とあだ名をつけられたが、もう気にしない。「肝心な人からはモテない悠太」と、長いあだ名で呼ばれたときには、うまく返したかったけれど、否定できる現実ではなかったので、胸を張って「呼びましたか?」と答えた。
今年も花火を響子コーチと一緒に見ることができた。今年の響子コーチの横顔も本当に可愛くって、僕は花火を見ずにずっと響子コーチの横顔を見ていた。
響子コーチは笑いながら、僕と手をつなぎながら花火を見てくれた。僕は本当に幸せだった。
響子コーチと手をつないで花火を見たことは、僕にとってはすごく幸せだったし、手のぬくもりを感じながら、響子コーチの横顔を見ているのは、とてもドキドキする時間だった。
そうなんだけれど、最近ちょっと感じていることがある。それは響子コーチが僕に触れてくれることが増えたし、話しかけてくれたり、気にかけてくれることも増えたのだけれど、それは例えばお姉さんが弟の面倒を見ているような、お母さんが子供の世話をしているような……。
家族のような感覚なんじゃないか?と感じている。ストレッチの時に、響子コーチの体を僕の体に乗せることを避けていたような時に比べれば、今のほうが幸せなはずなんだけれど、なんだかあの頃の方が響子コーチと付き合える日が近い気がしていた。
僕は響子コーチと結婚したいので、家族になりたいと言い換えることもできるけれど、ちょっと違うんだよなぁという気持ちが強い。ドキドキラブラブな大事なところを飛ばしちゃっている気がしてならない。
夏休みが終わり高校2年の秋ごろから、水泳のトレーニングが結構キツくなった。僕が狙う大会は、学年別ではないので、3年生の時が1番結果を出せる可能性がある。
百瀬コーチ曰く、50歳の2年間は4%だけど15歳の2年間は15%の違いがあるという点と、1日単位での成長著しい15歳の2年は50歳のそれとは100倍の違いがあるとのことだ。だから今日1日を何気なく過ごすなと言っている。
その話の横で、古岡コーチが苦い顔をしていたのが、おもしろかった。
多分このクラブの高校生では、いや、大学生を入れても、僕のメニューは1番厳しいと思う。真理雄の学校内での学力は別格で1番だけど、それくらい別格で1番厳しいメニューだと思う。
まあ、僕は響子コーチのキスがかかっているし、毎日ストレッチで、背中に響子コーチの体温を感じて急速充電させてもらっているし、結果が出せると響子コーチが喜んでくれるし、全国優勝とかすれば、テレビで響子コーチのおかげ様でとか言えるし。
全く問題なくメニューはこなしていた。
大切なお時間を割いていただきありがとうございました。わかりにくいところやご意見ご感想などいただければ幸いです。