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ReTake2222回目の安田悠太という世界線  作者: 平瀬川神木
第4章 高校時代中編 大人になるということ

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第22話 第6節 もう一度ちゃんと響子コーチへの告白

「この夏は初めてのアルバイトを経験したり、色んなことがありました。いろんな人に迷惑をかけた夏だったけれど、僕なりに色々な事を知ることができた時間でした」

 響子コーチは食べるのを止めて言った。「私は悠太君を傷つけるようなことをしちゃったからね。偉そうなことは言えないよ」


「すごく投げやりな気持ちになって、全部終わりにしちゃいたいような、そんな時に助けてくれた人がいます。その人は僕に鏡を見せてくれました。僕が響子コーチをすごく好きでいるのと同じくらい、僕を好きでいてくれる人です。その人の言葉や態度を見ていて。僕の響子コーチに対する行動や言動は、独りよがりだったとすごく反省しました。響子コーチ」僕は一度話を止めて、じっと響子コーチの瞳を見つめた。

 

「なぁに?」響子コーチは僕を見た。

「僕は響子コーチのことが好きです。すごく好きです。本当に好きです。僕にとって大切なのは響子コーチが幸せだと感じてくれる事です。だから僕は、人前で響子コーチのことが好きだ、ってことを言うのはやめました。三橋さんにも言われたのがキッカケですが、僕がそれを言いふらすことによって、響子コーチに降りかかる何かを生んでいることに気が付きました。僕は自分が気持ち良くなりたかっただけなのかもしれないって気が付きました。だから人前では言わない事に決めました。でもそれは、僕の気持ちが無くなったわけではなくて、僕が自分の気持ちより響子コーチを優先したに過ぎないってことを、ちゃんと知っておいてほしいです」

響子コーチは少し驚いた顔をした。「大人になったんだねぇ」


「僕を好きでいてくれる人に手を差し伸べられた時に、僕はその手をつかんでしまいそうになりました。結局はつかまなかったけど、それでも人は苦しい時に誰かに手を差し出されると、その手に頼りたくなる、流されたくなる気持ちがわかりました。響子コーチが三橋さんとそうなったのは、どんな気持ちなのか僕にはわからないことだけど、僕はそう感じました。だから、僕は強くなって響子コーチが苦しい時に、僕が手を差し出せるようになりたいって心から思いました。響子コーチがどの差し出された手を選ぶのか、僕には口出しできないけれど、僕はいつでもそんな気持ちでいるってことを知っておいてください」

「……」響子コーチは黙っていた。


 「それと、できれば僕の親に会ってほしいです。僕のことをもっと知ってほしい。響子コーチの家族にも会いたいです。響子コーチのことももっと知りたい。響子コーチにとって僕が何歳になったら、三橋さんが言っていた社会的責任とかの問題がなくなるのかわからないけれど、これから強くなるので、僕が社会人になったら、僕と結婚を前提に付き合ってください」

 響子コーチはうつむいて、テーブルの下の床をじっと見ていた。


「あのね、悠太君。なんていうか、それが悠太君らしい一生懸命さというか、真面目さというか、一途というか……それはわかるんだけれどね、極端だよ。極端すぎる。悠太君は自分をまだ子供だと思っていて、私を大人だっていう前提で話しているけれど、私だって全然大人なんかじゃないんだよ。社会に出れば21,22なんてガキ同然なわけでさ。実際自分でも、なすべきことをなさずに、したい事を優先する事なんかしょっちゅうでさ、そういう意味では悠太君の方がずっと大人だと感じているよ。だからさ、何て言ったらいいか難しいけれど、焦らないで欲しいんだよね。今までお付き合いした人だって、その人の親に会ったことなんてないしさ。まだ高校生の悠太君に、親にあって欲しいって言われても、これからの私はどんな風になっていくのかもわからないし、悠太君がどんな風になっているかもわからないじゃん。だからね、あんまり先の事を言われても、正直……困るよ」

 響子コーチは床を見たままで、言葉を探しながら話した。僕はずっと響子コーチを見つめたままだった。


「響子コーチ」

「ん?」響子コーチは顔を上げてくれた。「なぁに?」


 僕はうれしくて笑顔になってしまった。それを見て響子コーチが言った。「そういうのずるいよ。もう。ずるいよ」響子コーチはまた床に目を落とした。


 僕はもう一度響子コーチを見つめ続けたまま言った。「響子コーチ」

「だから何ですか?」響子コーチは赤くなった顔を僕に向けてくれた。


「僕は響子コーチがどうしようもなく好きです。本当に好きです。大好きです。これはこれからもずっと変わりません。僕のこの気持ちは、僕が勝手に抱いている気持ちであって、響子コーチには関係ありません。響子コーチも僕を好きになってくれれば、それはもう……それはもう最高なことですが、僕は響子コーチが大好きなので、響子コーチの毎日が幸せであればそれでいいと思っています。だから僕は、自分の気持ちを一方的に押し付けるつもりはありません。でも、僕の気持ちもちゃんと伝えておかなければ、僕が僕を裏切ることになっちゃいます。だからもう一度言います。僕が社会人になった時に、もし響子コーチが嫌でなければ、僕と結婚を前提に付き合ってください。お願いします」僕はテーブルにおでこが当たるまで頭を下げて、右手を響子コーチの方に出した。


 30秒か1分か。実際の時間はどのくらいたったのかわからないけれど、僕的には1時間くらい手を出して待った。

 僕の右手がフワッと暖かくなって、顔を上げると響子コーチが両手で僕の右手を握ってくれている。その手を動かしながら、響子コーチは言った。

「もう頭は上げてちょうだい。今日この場で、悠太君と付き合う事を約束することはできないよ。でも、もしタイミングっていう名前の神様が、悠太君が社会人になって、それでも私の事を好きでいてくれて、私が悠太君の気持ちに応えることが出来る状態だった時には、お付き合いをしてみましょう。約束は何もできないけれど、拒否している訳じゃないって感じで、今日は許してもらえないかな?」響子コーチの両手の温かさは、僕を天まで昇らせる。僕はこれからも頑張って、そのタイミングが来た時に、響子コーチに選んでもらえる男になりたい。そう思った。


大切なお時間を割いていただきありがとうございました。わかりにくいところやご意見ご感想などいただければ幸いです。

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