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ReTake2222回目の安田悠太という世界線  作者: 平瀬川神木
第3章 高校時代前編 海の家でのアルバイト

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第15話 第4節 花火大会は花火を見るあなたを見る為のもの

 みっちゃんが僕に言った。「どうせ皆んな花火が上がっている間は何も注文しないから、安田君も花火を見てきなよぉ」

 僕は冴子店長を見ると、頷きながら指で外を指した。外に出ると、ライフセーバー達も皆んな外に出てきていた。

 一番端に空を見上げる響子コーチを見つけた。僕は響子コーチの隣まで走った。

 僕は仕事中だったから、エプロンをしたまま夜空を見上げた。隣にはライフセーバーのユニフォームを着たままの響子コーチがいた。


 火薬が爆発する凄い音圧と共に。花火が本格的に始まった。

「すごいキレイ……」響子コーチがつぶやいた。

 

 ――ドドォ~ン、バァ~ン、パラパラパラパラ

 

 皮膚で感じる花火の音はとても大きく迫力があったけど、僕は響子コーチの声を、つぶやきを一つも聞き逃したくなかった。

 僕は花火じゃなくて、色々な色の花火が染める響子コーチの横顔を……

 花火が変えさせる響子コーチの表情を……息をのんでずっと見ていた。


 響子コーチのどんなことも、一つも見逃さないように、ただただじっと、響子コーチの横顔を見ていた。


 響子コーチは何度かチラッと僕を見て、その全部で僕と目が合うので笑いながら僕を見た。

「悠太君、『うえうえ』。花火を見なきゃ。せっかくなんだから」

 僕はそれでも響子コーチから目を離さずに言った。

「僕は今日ここで、僕と花火を見ている響子コーチを見ていたいです。響子コーチが驚いて口を開けたり、嬉しそうに目を開いたり、そんな響子コーチを見ていたいです」

 響子コーチは僕と花火を交互に見ながら言った。「私の事はいつだって見られるけれど、花火は年イチなんだから」


 僕は首を横に振りながら言った。「今日の響子コーチは一生に1回です」

 僕を見た響子コーチは首を左右に振りながら、花火に視線を戻した。


 それからも色々な花火が上がるたびに、響子コーチは子供のように喜んで、うれしい顔や驚いた顔をした。僕は僕に「録画機能」が付いていない事を、心から残念に思った。


 沢山の大迫力の花火がクライマックスに入った頃、花火をじっと見ながら響子コーチは小さな声でつぶやいた。


「私じゃ悠太君には不釣り合いだよ……」僕はその言葉の意味を確かめたい気持ちを必死に抑えた。そして花火の音で聞こえていないフリをした。


 僕はただ、おなかに響く迫力ある花火の音の中で、響子コーチの横顔を見つめ、響子コーチの言葉に耳を傾け、響子コーチに僕のすべてを傾けていたこの夜を、忘れる事はないと思った。


 次の日も、僕が海の家に着くと真理雄がいた。

「どうしたの?」僕が驚いて聞くと真理雄は相変わらずモジモジして言った。

「うん、昨日勉強がはかどったし、花火もきれいだったし、高校生の夏を満喫できたし。もうしばらく来てみようと思ったんだ」

「花火は今日はやらないよ?それでもいいの?」

「うん、問題ないよ」真理雄は僕を見ずに、海とか教科書とかを見ていた。


 今日も外に出て、みっちゃんと仕事をしている。響子コーチはお昼までに3回パトロールに出た。みっちゃんが笑いながら言った。

「悠太君はさぁ、あの人がパトロールに出ると本当にうれしそうだね〜。上野動物園で初めてパンダを見たような顔をするね〜」僕は恥ずかしくなった。


 店が忙しくなるお昼ごろに、冴子店長のお父さんが真理雄に言った。「真理雄!テラス席にこれ運んでくれ!」真理雄はさっと席を立って、上手に料理を3つ持ってテラス席に届けた。僕より上手だ。その後も、冴子店長のお父さんは、真理雄をアルバイトのように使っていた。


 席に戻ってなぜか嬉しそうに教科書を読んでいる真理雄に僕は言った。「真理雄、真理雄もお客さんなんだし、勉強できなくなっちゃうから、僕が運ぶよ」

 真理雄は首を横に振りながら言った。「全然大丈夫だよ。じっとしていると集中力が切れちゃうから、適度に身体を動かしたほうがいいんだ」

 僕は思った。こんなにうれしそうな真理雄は初めて見たかもしれない。真理雄はウェイターに向いているのかな?「わかったよ。でも嫌だったら言ってね。僕がうまい事、冴子店長に言うからさ」


 真理雄はすごい勢いで、首を左右に振った。「ぜんぜんぜんぜん大丈夫だよ。僕の勉強のためにも、僕の気晴らしを取らないでよ」

「わ、わかったよ……」僕はわからなかったけど、わかったと伝えた。


 次の日も、その次の日も、真理雄は海の家に僕より早く来ていた。


「真理雄君はさぁ、開店少し前に来てさぁ、開店準備を手伝ってくれるんだよ。船長と一緒に車で食材運んだりもしてくれてさぁ、俺、楽になっちゃった」と驚きの現状をみっちゃんが教えてくれた。

 みっちゃんは、冴子店長のお父さんのことを船長と呼ぶ。真理雄はウェイターというよりか、海の家や飲食店の運営が楽しいと感じているのか?

 自分の全部をかけて1人でも多くの人命を救うって言ってたのに。

 でも、楽しいことが見つかるのはいいことなのかな……僕はこの件については、真理雄に突っ込まないようにした。


 そんなある日、昼前位に篤と健治、外岡雅と佐久間花恵という男女4人組が海の家に来た。どうやら真理雄が毎日来ていることを知って、自分たちも夏休みに海水浴に行こうとなったらしい。

 この日以降、僕が中学生の選手コースで一緒に泳いでいた友達もよく来るようになった。そしてそれぞれが、その友達もつれてきたりするようになって、地元のいかついおじさんばかりだったこのお店は、だんだん平均年齢が若くなっていった。

 

 響子コーチも何度か昼ご飯を食べに来てくれた。僕はその都度、次回のおすすめを熱弁していた。響子コーチもスクール生がいることに初めは驚いていたけれど、だんだん当たり前になってきたようだ。


 高校生男子には敷居が高過ぎて、冴子店長と話すことはあまりなかったが、高校生女子は、何かにつけて冴子店長に相談を持ち掛けるようになっていた。ちょっとした占いのお店のようになっている。

 そのほとんどは恋愛に関する相談で、これだけ美人な冴子店長は、きっとたくさんの恋愛経験をしているだろうとみんな思っていた。


 冴子店長のアドバイスは、ちょっと変わった内容の事が多くて、さすが僕ら高校生にはわからない、大人の恋愛をたくさんしてきたんだろうなぁ、という感じだった。冴子店長の恋愛論を聞きたくて、冴子店長が相談に乗っている時には、地元のいかついおじさんたちも、静かに聞き耳を立てている。

 

 僕の楽しい毎日は何も変わらずに、パラソルを立てたり、料理を運んだり、クロールで泳いだり、ジムトレをやったり。


 テラス席に座っていた、高校生くらいの女子3人組のお客さんに、注文された料理を持って行った。何度か来てくれているお客さんだ。

「お待たせしました。シーフードドリアのセットとシーフードオムライスのセット。フィッシュバーガーのセットになります」先に飲み物とサラダは持ってきていたので、メインを同時に3つ運んだ。

 3人組の1人が、1番手前に座っている女の子に言った。「ほら!はやく!」

 言われた女の子は、一瞬僕を見た後で、目をそらしてテーブルの上に手紙を乗せて言った。


「あの、これ読んでください」そういうと両手で顔を覆った。

「ん?はい、わかりました」僕はその手紙を手に取って、テーブルを離れた。お客さんがたくさんいる時間だったので、僕はその手紙をエプロンのポケットに入れて、ほかの料理を運んでいた。


大切なお時間を割いていただきありがとうございました。わかりにくいところやご意見ご感想などいただければ幸いです。

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