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ReTake2222回目の安田悠太という世界線  作者: 平瀬川神木
第3章 高校時代前編 海の家でのアルバイト

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第14話 第3節 二人で買い物に行けるなんて!

 監視事務所の前には、ジャージを着た響子コーチがいた。僕は思わず満面の笑みになって走っていった。

「響子コーチ!僕は荷物持ちに来たんですが、中に入ればいいですか?」

 響子コーチは首を左右に振りながら言った。「隊長が若い荷物持ちを同行させるって言ってたけれど、まさかの悠太君かぁ。これから駅の方にあるマーケットに行って、一緒に買い物だよ」僕はフワフワと宙に浮くような気持ちになった。

「やった!響子コーチと買い物だ!!」僕の言葉を聞いた響子コーチは、笑いながらまた首を左右に振った。


 マーケットは歩いて15分くらいの距離にある。僕は本当に身体が軽くなって、ピョンピョン歩きながら色々なことを響子コーチに聞いたり伝えたりした。僕が本当に聞きたいこととは違うことばかりだし、僕が本当に響子コーチに伝えたいこととも違うけれど、少しでも響子コーチを知りたい気持ち、僕を知ってもらいたい気持ちから、色々なことを話した。


 響子コーチが小学生のころ、走る事が好きだったし速かったことや、中学生の時には陸上部に所属しつつ、スイミングスクールで泳いでいたこと。今は自分の選手としての才能には見切りをつけて、選手を支える専門家になろうと勉強をしていること。好きな女性アーティストとバンドも聞いた。食べ物はお肉が好きな事やファッションが好きで、帽子や靴をたくさん持っていることも聞いた。


 マーケットに着いても、色々な話をしていた。響子コーチはメモを見ながら僕が押しているカートに、色々な商品を入れていった。あっという間に時間が過ぎた。帰りには僕が全部の荷物を持った。響子コーチも持つと言ったけれど、僕は響子コーチに荷物は持たせない。どんなに重い荷物でも、僕が笑って持つために泳いだり砂浜でスコップを振り回しているのだ。

 響子コーチは後ろ手に組んで、僕の方を時々見て、話しの合間には八重歯の笑顔をくれた。僕は身体も荷物もとても軽く感じていたし、本当に幸せな時間だった。


 僕が監視事務所に荷物を運び終えると、響子コーチが言った。「ありがとうね。悠太君、重かったから手が真っ赤になってるよ」

 心配そうな響子コーチに握られた僕の手は、確かにビニール袋が食い込んだような跡が残っていたけれど、そんなのなんともない。響子コーチと一緒に街を歩いて、一緒に買い物に行けたことに比べれば。


「また響子コーチが買い物に行くときには、僕を荷物持ちに連れて行ってください」僕が言うと響子コーチは笑いながら、バイバイのように手を振った。

 海の家に戻ると、お昼時間のごった返した店内で、冴子店長やみっちゃんがてんてこ舞いだった。それでも成り立っているのがこの店の面白いところで、特にこの時間はお客さんのほとんどが冴子店長のファンだから、注文した料理を自分で厨房に取りに行ったり、食べ終わった食器を自分で厨房に届ける。みんな冴子店長の姿を見たいし、冴子店長と少しでも言葉を交わしたいから。


「ただいまもどりました」僕が言うと、厨房から顔を出した冴子店長は笑顔で言った。

「おかえり〜。ごくろうさまね~。ありがとうね〜」振り向くと、お店の全てのおじさん達が冴子店長の笑顔を見てニンマリしていた。

 後でみっちゃんから聞いたことだけど、海水浴場のライフセーバーの隊長は地元の人だから、何かしらの理由を見つけると、必要のないことまでも冴子店長に電話をしたり頼みごとをしに来たりして、困ったもんだと笑っていた。

 冴子店長が美人なおかげで、僕は響子コーチと買い物に行けたんだから、冴子店長が美人なことに感謝しなければと思った。風が吹けば桶屋が儲かるとはこの事だ。


 毎日安定した幸せな日々が過ぎていく。アルバイトも順調だし、スイミングクラブでもジムトレは響子コーチが付いてくれている。自由形の中長距離も、それなりのタイムを維持向上できている。正直に言うと、三橋コーチが辞めてからのスイミングクラブは、僕にとって本当に幸せな場所になっている。響子コーチは別れたって言ってたし、学校でも会わないって言ってたし。僕の気持ちがモヤモヤすることはなく、楽しい時間が過ぎている。


 練習が終わった後で、ロッカールームで着替えていると、真理雄が話しかけてきた。

「悠太君、来週なんだけど悠太君がバイトしている海の家に遊びに行っていい?」

「え?良いけど、どうしたの?」

「夏休み中の僕はこのクラブで競泳の練習をしているか、家で勉強ばっかりなんだけどさ、高校生の夏休みだから、僕もそれっぽいことしようと思ったんだ。土曜日は練習もないしね。ネットで調べたら、海の家はロッカーを有料で借りると、その海の家で休めるって書いてあったから、例えば僕が悠太君の海の家のロッカーを借りれば、海を見ながら海の家のテーブルで勉強できるのかな?って思ったんだけど。どうかな?」


「う〜ん。お昼時間はだいぶ騒がしいから、勉強に向いているかはわからないけれど、家族連れのお父さんとかは、子供や奥さんが海で遊んでいる時間も、ずっと店でビール飲んでいたりするから問題ないと思うよ」

 そんなやり取りがあって、来週の土曜日は真理雄が遊びに来ることになった。


 翌週の土曜日いつものように僕が9時に海の家に着くと、店内に真理雄がいた。ビックリして真理雄に声をかけた。


「おはよう真理雄。早かったね」

「う、うん。おはよう。今日はよろしくね」真理雄の言葉はいつも自信に溢れてるというか、考えたうえでの言葉という感じだけれど、今日の真理雄はなんだかモジモジしてるというか、しどろもどろというか変な感じだ。


「大丈夫?なんかあった?」

「ううん、何も無いよ。いつも通りだよ」真理雄は僕をみるでも、教科書をみるでも、海を見るでもなく、宙に浮いたような目線で答えた。初めての場所で緊張してるのかな?と思って、それ以上真理雄に声をかけるのはやめておいた。


 いつものように、忙しくなるランチの時間までは、みっちゃんと外に出てパラソルの設置やかき氷販売をしていた。

 時々真理雄に目をやるが、場違いと言えば場違いなくらい、教科書を読んでいた。冴子店長に声をかけられると、真理雄はおかしな様子で飲み物を頼んだりしていた。


 今日は二度、響子コーチがパトロールに行くのを見届けて幸せだったが、いつもの三倍くらいパラソルを立てた気がする。かき氷もドリンクもいつもより売れている。

「今日はいつもより人が多いですね」みっちゃんに言うと、人差し指を空に向けて言った。

「今日は花火大会だからねぇ」

 僕はすっかり今日が花火大会であることを忘れていた。

 

 花火大会の日だって、いつものように地元のおじさん達でごった返したランチタイムが終わり、午後になって一落ち着きする時間になった。いつもだったらスイミングコーチの仕事があるから、仕事を上がっている響子コーチが、ライフセーバーのユニフォームのままで店に入ってきた。

「今日は花火大会で、私も夜まで仕事だからお昼ご飯を食べに来たよ」サングラスを外しながら、響子コーチは言った。僕は猛スピードで、店員の僕から見やすい場所に案内した。


 僕の後を歩いて店の中に進んだ響子コーチが真理雄に気がつき声をかけた。「あ!真理雄君だ!どうしたの?」

 真理雄がロボットのように言った。「こんにちは響子コーチこんにちは。今日は悠太君のアルバイト先で、高校生の夏らしい事と勉強を両立させています」

 響子コーチは少し首をかしげながら、感情が全く含まれないようなしゃべり方で答えた真理雄を見た。


 響子コーチが早足で前を歩く僕に追い付き、僕の耳元で小声で言った。「真理雄君、何かあったの?様子が変だけど……」

 僕も響子コーチの耳に顔を近づけて、小声で言った。「僕より早くから来てるんですけど、朝からロボ真理雄で……何かあったのかと聞いても、何もないって言うのでそれ以上は聞いてません」僕はここまで言って、響子コーチの耳に顔を近づけたままでいると、話の続きを待っていた響子コーチが顔をこちらに向けて、僕に話の続きを促すように「で?」と言った。


 僕と響子コーチの唇の距離は10センチくらいだった。僕は響子コーチの顔が目の前にあるので、心臓が破裂しそうなくらいドキドキしてた。

 響子コーチの顔のすぐそばで僕は言った。「真理雄についての話はそれだけだけど、キスして下さい」

 響子コーチは顔を赤くして、すぐに顔を離して言った。「バカ!悠太君のバカ!!」僕の脳みそは、響子コーチの麻薬にジャブジャブに浸されていた。


 冴子店長のランチはとても美味しく、響子コーチはライフセーバーの間でも評判のシーフードドリアを食べていた。頼まれてもいないのに、僕が勝手にセットにしたので、僕が作ったサラダも響子コーチは食べる事になる。

 自分が作ったものを響子コーチが食べる。それが響子コーチの一部になると考えると、心の底から嬉しい。


 もちろん冴子店長のドリアを完食し、僕が作ったサラダも完食してくれた。

 響子コーチに、料金はいただけないと申し出たのだが「そういう事はやめて」とピシャリと言われたので、単品料金だけを請求してセットの分は僕がこっそりおごった。


 響子コーチが笑顔で「美味しかった、また来ます」と冴子店長に言っていたので、僕がシーフードオムライスもおススメであることを伝えた。毎日だって来て欲しい。毎日僕が作ったサラダを食べてほしい。だからどれだけオムライスがおいしいか、その天国のような卵の半熟ぶりを熱弁した。

 

 夕方薄暗くなり始めた頃に、普段はランチの時間だけ集まる地元のおじさんたちが海の家に戻ってきていた。今日はおじさん達の奥さんや子供、お父さんやお母さん、つまりおじいちゃんとおばあちゃん達も、テラス席に集まって飲んだり食べたりしている。

 花火が目の前で上がるこの海水浴場で、家族サービスであろう。


 おじさんたちだけじゃなく、その家族達からも冴子店長は人気者である。

 冴子店長はとても大きな優しさで懐が深い。人間的な魅力にあふれる人だ。それでいて凄い美人だ。素晴らしい人間性にとんでもない美人というルックスのアドバンテージまでついている。地元の漁師食堂と民宿の看板娘さんということもあり、とてもみんなに愛されているキャラクターだ。


 ――ドッカ〜〜ン

 

 花火の号砲が鳴った。僕は思わず手を止めて、店の外を見た。


大切なお時間を割いていただきありがとうございました。わかりにくいところやご意見ご感想などいただければ幸いです。

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