表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ReTake2222回目の安田悠太という世界線  作者: 平瀬川神木
第3章 高校時代前編 海の家でのアルバイト

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/60

第12話 第1節 初めての履歴書、初めての面接

 響子コーチがライフセーバーとして働く海水浴場で僕も働きたい。少しでもそばにいたくて、ネットでアルバイトを探したが、夏休み期間中だけ、高校一年生の僕が昼だけで働けるところが無い。求人情報では見つからなかったけれど、観光情報から、年齢条件などが書いていない募集情報を見つけた。


 その海の家に、アルバイト応募の電話をすると、喋り方が荒っぽく怖そうな「おじさん」と電話がつながった。交通費が高くなるから、遠くに住んでる人は雇えないと言われた。どうしてもこの海の家で働きたいと粘っていると、どんどん口調が荒くなり「なぜウチで働きたいのか正直に言え」と言われたので、本当の事を話した。


「つまりは好きな女が働いているから、この海水浴場で働きたい。あんちゃんが見つけた、たった一つのアルバイト先が、ウチの海の家だったって事だな?」と確認されたので、このままだと「仕事は遊びじゃない!」と怒られて電話を切られてしまうと思い、言い訳を考えたけれど、「何とか言え!」と凄まれて「そうです!」と勢いで返したら面接の日取りが決まった。


 なぜ本当の事を言ったら、面接をしてくれる流れになったのかはわからないけれど、とにかく頑張って面接に合格しようと思った。僕はアルバイトをするのも初めてだから、面接も初めてになる。

 

 ネットで調べると、電車でかかる移動時間は1時間半くらいとなっていたので、2時間前に家を出た。まだ海の家は完成していないから、その海の家を経営する「かんなみ」という民宿に来るように言われた。家を出て1時間半後にはその民宿の前にいた。汚れを隠すために何度も白いペンキで塗られたような2階建ての大きな建物。


 高級旅館のような和風ではない、昭和な和風の建物には大きな看板で「漁師民宿かんなみ」と書いてあり、1階の入り口ガラスドアには「神波漁師食堂」と書かれている。どうやら宿泊者以外でも入れる食堂?レストラン?のような飲食店になっている。

 

 約束の20分前には着いていたのでお店の前で待っていると、民宿の脇の大きな駐車場の奥の方から、腰のあたりまである長い髪の毛の、肩から下にウェーブがかかっているような髪型の、向上コーチより若く見える、たぶん20代前半くらいの凄い美人の女性が声をかけて来た。

 僕は響子コーチ以外好きにならないけれど、テレビや映画で見る、どの女優さんよりもずっと奇麗な人だ。背は向上コーチと同じくらいで響子コーチより小さめだから165センチ位。なんだかすごくまぶしいものを見ている感じで、目を閉じてしまいそうになる。

「もしかして安田君かなぁ?」

「はい、そうです。安田悠太です。僕の特技は水泳です。高校1年生で――」僕がここまで言うと、この美人が笑いながら話を遮った。


「うんうん。まだ面接じゃないから、自己紹介はしなくていいですよぉ。こっちから中に入りなぁ」手招きをしたので僕は小走りでそちらに行った。

 

 ちゃぶ台がある和室に案内されたので、正座でキョロキョロ部屋を見回していると、白髪の短い髪をオールバックのようにした、60歳くらいの日焼けした肌の、目元のしわが深い小柄なおじいさん?おじさん?が入ってきた。

 

「あんちゃんが安田君か?」座布団に座りながら聞いてきた。


 とても緊張しながら僕は言った。「はいそうです。安田悠太と言います。これが履歴書です。特技は水泳です。高校1年生です。まじめに頑張ります」

「そんな事より安田君よぉ、ライフセーバーに好きな女がいて、その女追っかけて来たってのは本当だろうなぁ?」とても迫力のある目でギロリと僕の目を見た。


「はい、すみません。こういう理由でアルバイトを希望するのはダメなのかもしれないですけれど、どうしても響子コーチ、えぇと、僕の好きな女性のそばにいたいので、どうか働かせてください。お願いします」僕はちゃぶ台にぶつけるくらいの勢いで頭を下げた。

「もしそれが絵空事だったら承知しねぇからな。神様仏様に誓えるってなら安田君の事を雇ってやるよ」僕は本当にうれしくなった。


「ありがとうございます。なんでもやります。がんばります」こうやって僕の夏のアルバイト先が響子コーチの近くで決まった。


 夏休みに入りアルバイトが始まった。僕がアルバイトをすることになった海水浴場は、神奈川県の人気が高いスポットだ。朝7時に起きて、7時半には家を出る。僕が海の家に到着する9時には、既に店長や他の人は働いている。店は8時からやっており、9時過ぎくらいから海水浴のお客さんが増え始める。本当は17時までと言われていたが、面接のときにスイミングの都合で15時までとお願いしたうえで働かせてもらえることになっていた。


 初めの3日間はお店の中で掃除をしたり、厨房で洗い物をしたりしていたが、今日からは外に出てお客さんを呼び込んだり、パラソルを埋めたりする手伝いもする。昨日までは外に出ていなかったし、生まれて初めての「仕事」で余裕もなかったから、響子コーチが働く監視事務所を気にする時間はなかった。


 だけど今日から外で呼び込みをやっていれば、絶対にバレてしまうだろうとは思っている。少しでも響子コーチのそばにいたい、という想いでこのアルバイトを始めたけど、僕がそばにいる事を響子コーチにも知って欲しい気持ちはあるし、僕の存在をアピールすれば、響子コーチ狙いの男も面倒くさがって少しは減るんじゃないかとも思っている。

 

「安田く~ん。まだ人が少ない時間から慣れた方が良いから、みっちゃんと外お願いね〜」

 この海の家の店長であるウルトラ美人の冴子店長が厨房の中から僕に声をかけてきた。

 面接の時、僕に手招きしてくれた、どの映画主演女優よりも美人な人であるこの冴子店長は、僕を面接して採用してくれた、しゃべり方の荒っぽい漁師民宿経営者の娘さんだ。


 みっちゃんは30代後半のずんぐりむっくりとしたおじさんである。まだ詳しくは知らないけれど、冴子さんの実家の漁師民宿食堂で働いている人で、朝早くから漁に出て、それが終わってから海の家を手伝っているらしい。冴子さんの方がずっと年下のはずだが、みっちゃんは冴子さんの弟のような感じだ。


 この3日間で分かった事がいくつかある。僕は「響子コーチが全て」だから関係ないけれど、冴子店長はとにかく美人でスタイルもすごい。なんか良い匂いもしている。

 そして冴子店長のお父さんやたくさんの地元のおじさん達は、お昼ご飯をここで食べる。

 ここは海水浴場の海の家であり、本来観光客相手の海の家のはずなのに、お昼ご飯の時間は、ほぼ地元のおじさん達で店が埋め尽くされる。夏の間だけ僕が面接を受けた「漁師食堂」が海岸に出張して、町の食堂が海岸に現れたような感じになっている。


 この海水浴場には20件くらいの海の家があり、この海の家も古い昔ながらの海の家というデザインではなく、「ビーチクラブ」と言った方がピッタリとくる、若い人が多いこの海水浴場にふさわしいデザインだ。

 白いペンキが塗られた横張板の壁と、ライムグリーンの屋根が涼しげなオシャレな建物だ。

 海の家は飲食を提供することと、ビーチパラソルや浮き輪を貸し出すことがメインと思われがちだが、それよりもロッカーや更衣室を使えたり、海の家で休んだり、トイレやシャワーを自由に使える1日滞在券のようなものがメインの売り上げとなるらしい。これを「ロッカーの貸し出し」と呼んでいる。


 それなのに実は漁師町が故の見た目がいかつい、地元のおじさんたちであふれているので、若い女性や、結果としてそれを目当てにした若い男性のお客さんが入ってきて、ロッカーを借りてくれることが少ない。若いカップルも少ない。だからおじさんたちが来る11時までに、どれだけの観光客にロッカーを貸せるかが、この海の家の1日の売り上げに直結している。

 

 外に出たみっちゃんは通る人通る人に、本当に人の良さそうな笑顔で、おいしいごはんの海の家ですよ~。漁師食堂が経営している海の家ですよ~。漁師が取った海の幸で作った、料理がおいしい自慢のお店にいらっしゃい。いらっしゃい。

 

 こんな感じで、お客さんを呼び込んでいる。毎年海の家の場所は、くじ引きで決まるらしいが、今年は中央入り口から東に2店舗目なので、わりと来たばかりのお客さんが捕まえやすい。

 中央入り口には監視事務所があり、そこがライフセーバーの詰め所なので響子コーチは2軒隣にいる事になる。外でみっちゃんの客寄せを見学していると、突然監視事務所から大きな声と共に男性ライフセーバーが海に向かって砂浜を猛ダッシュで走って行った。事故でもあったのかと思い、驚いてみっちゃんを見たが、野良猫でも見るように笑顔で見送っている。


 ライフセーバーが大きな声を出して猛ダッシュしていったのを見て僕は聞いた。

「みっちゃんさん。事故でもあったんですかね?」するとみちゃんは笑いながら答えた。

「そうじゃあないよぉ。10分おきにライフセーバーがパトロールに行くんだよ。大きな声で自分の名前言って、パトロールに行く方向を言って、行ってきま〜す。みたいなことを叫んでから出かけるんだ。本当に事故があったらもっと大人数で走っていくし、叫びもしないから緊張感がもっとあるよぉ」と教えてくれた。ライフセーバーも大変な仕事だと思った。プールの監視員のように、高い椅子に座っているだけかと思っていた。


 いや、実際はプールの監視員だって、高い椅子に座っているだけじゃないのだろうけれど、ライフセーバーのイメージ的に、あんなラグビー部のような感じとは想像していなかった。もっとこう湘南っぽい、もう少しチャラチャラした感じを想像していた。男性ライフセーバーは、すごい筋肉質で身体も大きくて迫力があるなと思った。


 その後もみっちゃんは、歩いている観光客に声をかけ続けていた。

 

 ビーチパラソルを借りたいという家族がいたので、みっちゃんに言われた通りにパラソルを抱え持って、みっちゃんと一緒に浜に出た。今日の風向きや潮の満ち引きの時間で場所を決め、砂浜に充電ドリルで穴をあけるまでがみっちゃんの仕事。パラソルを立てて、スコップで穴の隙間を砂で埋めるのは僕の仕事だ。


 太陽ギラギラの砂浜でのスコップ作業は大変だなと思ったら、また叫び声と共にライフセーバーが走っていった。驚いたことに今度は小柄な女性ライフセーバーだ。あれ?慌ててみっちゃんに質問をした。

 

「みっちゃんさん。女性のライフセーバーもパトロールに行くんですか?」

「あたりまえだよ~」笑いながら答えた。さっき走っていったのは小柄な女性だけど、響子コーチもパトロールに出るって事なのか?それともアルバイトはあんな事やらされないのかな。ちょっと心配になった。


大切なお時間を割いていただきありがとうございました。わかりにくいところやご意見ご感想などいただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ