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私は気づいてしまった。攻略対象者=地雷も、あと1人。いや、正確には悪役令嬢(小説ヒロイン)まで会ってしまうと、
「ヤバいんじゃね?」
「何がヤバいの?」
じぃーーー。もしかして一番の地雷と私、一緒に居ないか?
「ライ、マジで帰れ。ヤター、インスパー、ヒュー。残るはホーイとベルビナじゃん。これでデンジャー国へ行く前に会ったらフラグ立ちまくりの予感!小説前なのに何で王族と会ったり高位貴族と会うのよ!私、自慢だけどかなりの貧乏庶民なの、分かる?び・ん・ぼ・う!
ノリー様のおかげて財布はほっかほかだけど、そもそもお母さんと離れたのも、カモン国に居ると強制力が働いて学園へ入学しちまうのを避ける為じゃん。それなのに何故、私は王宮に居る?」
「会いたかったよー。サラー!ライー!」
チッ。インスピーめ!もしや腹黒予備軍か?
「何故、私達が分かったの?てか、グロウさんが私達の事。王都周辺を騎士団総動員で探してたって聞いたよ?」
騎士団長の部屋に軟禁された私とライは、キラキラ笑顔のインスピー殿下を目の前にしている。
「そうしないとサラは来ないでしょ?偶然ヒューとテイヤーに会った時。サラの話を聞いて、グロウに頼んだんだ」
んなこたぁ。当たり前だ!誰が来るか!そして犯人はヒューか!?
「兄上も来たがってたけど、婚約者が来てるからね。他の女性と会わすなんて出来ない。その代わり僕のお友達、ホーイを連れて来たよ!」
「地雷5号!いやぁぁぁー!!」
逃げよう。うん、それが良い!
「ホーイを知ってるの?凄いねサラ」
インスピー殿下の後ろに立つ無表情の眉がピクッと動いた。お前か、お前が地雷5号なのか?
「………………こんな女知らない」
「私もお前なんか知らないよ!能面張り付けた無表情で、将来腹黒確定じゃん。インスピー殿下も腹黒予備軍だしね!私なんて、お父さんが誰か教えて貰ってないのに、地雷5号は腹黒の癖にウジウジと自分の親の事を悩んでさ!本当の親に自分の気持ちが言えない弱虫が腹黒を語るのは、ちゃんちゃらおかしいわ!私はね、平和・イズ・ベスト!地雷も破滅も、ついでに自爆もご勘弁なのさ、て、事でインスピー殿下!あばよ!」
開いてた窓から飛び降りて、地雷達から逃げる!一階サイコー!
王宮を駆け抜ける私の隣をライは大人になって、付いて来ている。しかも浮いてるし!
『窓から出るとは思わなかった!本当にサラと一緒に居ると飽きないね』
「禿げろ!禿げてしまえ!てか出口どこよ!」
クッソー!後ろからグロウさんが追いかけてくる!
「サラさーん!待ってくださーい!」
待てるかぁ!!必死に走り出口らしき場所を発見!いざとなれば強行突破だな。
「そこを退いてー!!」
「サラさんを通すなー!!」
門の近くにいる兵士へグロウさんが叫ぶ。こりゃ強行突破確定じゃん。
杖を取り出し、地面を凍らす。ツルッツルになった地面へ立つ事は困難な兵士達。背後から迫るグロウさんもツルッツルに滑っている。チャンスは今だ!
「いっくぞー!!」
スイスイと足を交互に出して、門をくぐる。ノリー様と裏庭の池を凍らせて滑った事が懐かしいなー。
呑気にスイスイ進めば出口はすぐそこだ!!
「サラさーん!!」
ツルッツル滑るグロウさんと愉快な騎士団達へ大きく手を振り。
「アディオース!!」
******
何とか逃げる事に成功した私。
「新しい使用人はお前か?」
デンジャー国のラース家に使用人として働ける事に成功した。
「サラと申します!」
「ライと申します」
うん。お気付きかと思いますが地雷1号から逃れられなかった。
「うむ。クレ様とイジー様のお世話係とする」
紹介されたのは、双子の男の子。銀髪がクレ様。白髪がイジー様。年は私と同じで、もうすぐ13歳。
「ぶっさいくだな!」←クレ様
「そうか?可愛いよ」←イジー様
「ライはクレ様一択で。私はイジー様一択にするわ!」
高らかに宣言した私の頭をパチコーンと叩いたのは、クレ様だ!
「俺達二人の侍女だ。諦めろ」
ライは何が面白いのかゲラゲラ笑っているし、イジー様はクレ様に叩いちゃダメと言ってるけど、笑ってらっしゃるわよね?
「乙女に何すんのよ!」
「やるか!?」
木登り対決は引き分け。鬼ごっこはイジー様の圧勝。庭園の池を凍らせて滑った時は執事のアウトさんに見付かり四人で怒られた。
「お前、本当に女か?」←クレ様
「サラは絶壁だけど女だよ」←イジー様
「可愛いサラは、僕のお嫁さんにするから、二人は狙っちゃダメだよ?」
いや、確実に狙われて無い!ライはどうした?
「そ、そんな男みたいな奴!狙わねぇよ!」←クレ様
「俺はサラなら欲しいかなー」←イジー様
「私の理想は平凡なの!二人は貴族だから脱落!ついでにライも脱落!」
アハハハハハ!!
でも、ここラース家は居心地が良くて。四人で遊びまくってアウトさんに叱られる日々はめっちゃ楽しかった。
そして、3年が経ち。
「サラとライは学園へ通わないの?」
クレ様から言われたが、他国でも油断大敵!学園こわい。
「平民ですからね。お二方は見た目貴公子、中身は悪ガキ。とても制服がお似合いです」
「それは誉めて無いよね」
イジー様がのほほんと仰いますが、
「誰だよ!家庭教師の勉強まで強制してさ。おかげで二人の宿題まで押し付けて、その上学園まで一緒に行ったら何やらされるか分かったもんじゃない!」
使用人として働いていたはずが、二人の勉強嫌いのおかげで私までやらされたんだ!
「馬車の準備が出来ております。サラ、ライもお二方と共に学園へ行きなさい。向こうでは使用人を1人ずつ連れて行けますから。しっかりと頼みましたよ」
………………は?
「はぁ、もしかしてサラにだけ言ってませんでしたか?」
アウトさんが、ギロリと二人を見るとシレーっと横を向いた。
「あのー、学園ってここから通うのでは?」
馬車で30分の所にデンジャー国の学園があるよ?
「友好国であるカモン国のフォーチューン学園へ留学なさります」
…………マジ?ねぇ、マジなの?
「馬車で1週間あれば着きます。ライが荷物は積んでましたからサラのも大丈夫ですね」
「はい。もっちろんバッチリです」
ライーーー!お前もグルかーー!!
「行くぞ!」←クレ様
「行こうか」←イジー様
「楽しみだね」←ライ
「強制力!!まさか、ここまであるとは!!」
私の必死の抵抗虚しく、馬車はカモン国のフォーチューン学園へ向かうのであった。