小説開始?! 3
あの一件から、クソ坊っちゃま達と一緒に寮の部屋にヒューは顔を出すようになってしまった。
「帰れ!ヘタレヒュー!」
「そんな事を言わないでよ」
チャラ男と化したヒューは、クソ坊っちゃま情報によると、
『家柄も実力も、女性の扱い方も良い優良物件』
頑張れ貴族令嬢達よ!
「ヒュー様!そこに居るのは分かっておりますのよ!!ネバー子爵アープがヒュー様をお迎えに上がりました!
兄のギブは、先にテイヤー様と屋敷へ向かわれましたー!!」
外から聞こえた声に窓を開けて下を覗くと、ザ・令嬢!の金髪のたて巻きロールが拡声器片手に叫んでいた。
「ヒュー、呼ばれてンぞ」
ヒューは部屋のソファから立ち上がり、出口へ向かう。
「何故バレた!犯人はお前達かー!!」
どうした?ん?
指差しゲラゲラ笑うクソ坊っちゃま達。
「サラは初見か?あのご令嬢は、ヒューの婚約者候補だよ」
イジー様に教えて貰い、再び窓の下を見て。
「アープ様!ヒューはここに居るぞー!窓から投げようかー?」
私の声が届いたのか、拡声器を口元へ当て、
「三階からですとー。怪我をなさいますからー、私が向かっても宜しいでしょーかー」
アープ様の言葉に、クソ坊っちゃま達の方へ振り向くと、ヒューを羽交い締めにして、にこやかに親指を立て頷いた。
「良いそうでーす!今から下へ参りまーす」
ルンルンで階下の入り口へ向かい、アープ様をまじまじと観察。スゲー美人じゃん!何の不満があるんだ?
「先ほどは、お声掛けありがとうございます」
微笑む姿は美少女だが、片手に拡声器。なんともシュールだなヲイ。
「お連れしました」
ガチャリと扉を開けると、一斉に窓を指差し。
「「残念!逃げたよ!」」
さすが双子。息ぴったりだ!
「ヒュー様!」
アープ様は部屋を飛び出し、きっとヒューを捕まえに行ったのだろう。
「かなり強烈なキャラだね。ありゃテイヤー様と良い勝負かも」
腕組みして、納得すると。クソ坊っちゃま達が学園内の事を教えてくれた。
ヒューは、アープ様の熱烈過ぎるアピールをどうすれば良いか分からないらしく。アープ様は猪突猛進、どこまでも突き進む性格らしい。
「なーんだ。愛されてンじゃん」
なんとも微笑ましい光景だ。校舎へ向かいヒューとアープ様の楽しい鬼ごっこが窓から見えた。
「うん。僕とサラみたいに彼らはラブラブだね」
後ろから腰に手を回してぎゅうぎゅうするライは、嬉しそうである。
「ラブラブ?ライは何を言ってンのかな?」
ペチペチと腕を叩いているが、離すつもりは無いらしい。
面倒くさいから、そのまま歩くとひっついたまま付いてくる。
「来週、カモン国の王子二人が部屋に遊びに来るから。準備しといてね」
イジー様!な、なんと!?
「インスパーとインスピーか!?奴らには用はねぇ!」
次から次に地雷の襲来やん。どうにかせねば!!
******
パーティーグッズのお店を侍女仲間に教えてもらい、髭メガネを買ってきた。痛い出費である。
「おかえりなさいませ、クソ坊っちゃま達と地雷なご兄弟様」
恭しく頭を下げ、主人と客人を出迎えた。
「ギャハハハハ!腹いてー!!」←クレ様
「それは反則!!ギャハハハハ!」←イジー様
「地雷?やっぱりサラかー!!」
あら?肉ダルマじゃなくなったね。腹黒インスピー殿下と見た目そっくり。
「会いたかったよー!」
抱きつこうとしたインスピーの腕を、テシッとはたき落とし、クイッとメガネを上げる。
「サラでは御座いません。私、ヒゲノメガネと申します。では、お茶の準備は完璧ですので、勝手にやりやがれで御座います」
ペコリと頭を下げ、いざ退室!!
「可愛らしい顔が見えないよ」
お腹をガシッと捕まえ足が宙ぶらりんになる。せっかく買った変装グッズをポイっと投げ捨てるのは、やはり。
「出たな!地雷1号!!」
「サラー、これ貸してー!ギャハハハハ」
クレ様のバカ笑いは無視して、ライに抗議開始だー!
「触るな!取るな!そして離さんか!!」
じたばたするけど、しっかりガッツリ腕が回り離れない。
「会いたかったよ」
肉ダルマ改め、インスパーが近寄る。私の頭へ伸ばした手をパチンと叩き落としたのはライだった。
「サラは僕のだって、言ってあるよね」
いや、承諾した覚えは一ミリも無いぞ。
「そうそう、兄上には婚約者のベルビナ嬢がいるよね。サラは私と結婚すれば良い」
とうとう来たか。小説ヒロインのベルビナ嬢!ここでインスパーの好感度が上がると精霊に何も指示してないけど、破滅まっしぐらじゃん。ムギュッと抱きしめている奴が一番地雷な精霊王なんだが。
「インスピーは王族だし、腹黒だし、結婚なんて有り得ん!てか、ベルビナ嬢ってどんな人?」
情報収集は大切。ざまぁされない為には、私が攻略対象者達へ興味が無いと信じてくれる人物じゃなければ、ヘイオーン国へ早々に逃げる準備もしなければならない。
「ん?ベルビナ嬢?至って普通のご令嬢かなー。どちらかと言えば大人しいタイプ」
…………?大人しい?
「サラとは逆で、庇護欲を刺激するタイプだね」
待てよ。インスピーの言ってる事が本当なら、電波のお花畑のとんでもねぇヒドインの可能性もあるのか?
思い出したのが、小説内のゲーム知識じゃなく、私と同じ小説を思い出したなら、この世界の真のヒロインは自分だと思って。
しかし、インスピーの言ってる事が真実で、この世界は小説に似た世界。本当に庇護欲を刺激するくらいか弱いご令嬢なら……
ヤバい!全く分かンない!
どっちだ?ヒドインか?ヒロインか?何も知らない普通のご令嬢か?