小説開始?! 2
平和を愛する女!我が名はサラ!
寮生活に少しずつ慣れてきた頃。侍女仲間から不穏な話を聞いた。
「サラちゃんは見た目だけは良いから気をつけなさいよ」
休憩室に入ると、いきなり言われ。
「ん?何が?てか、見た目だけはって!」
皆、ゲラゲラ笑ってるけど一体何の話だ?
「この前、寮に居る貴族のバカが、この子を部屋に連れ込もうとしてね。偶然近くに居たサラちゃんの旦那が助けてくれたらしいけど」
可愛らしい女の子が、その時を思い出したのか泣きそうな顔をしていた。
「旦那違うし!それよりバカ貴族って誰?」
この平和の使者サラが懲らしめてやる!
じっくり話を聞いたら侯爵家次男で、男爵家や子爵家出身の侍女は抗議出来ないらしい。
「クソ坊っちゃま達。おかえりなさいませ」
学園から帰ってきた二人に。昼間の話をして、バカ次男をどう懲らしめるかを相談した。
「そんな男なんてぶん殴れば良い!」←クレ様
「へぇー、それは少し遊んであげなきゃね」←イジー様
ぶん殴る!なんて素敵な提案!と思ったのにイジー様が私とクレ様の頭をパチコーンって殴る。解せん。
「囮作戦にしよう!」
イジー様の作戦は、かなり面白くてやる気アップした私は準備を始めた。
******
ランプを手に廊下を歩く侍女。
「こんな夜更けに出歩くなんて、もしかして俺に誘われたいのか?」
背後から声をかけた男は、侍女の腕を掴んだ。
「お前、ずいぶん冷たいな。俺がベッドで温めてやるよ」
男にニタリと笑って侍女の腕を引き部屋へ連れ込もうとした。
「私を温めてくれるの?嬉しい」
侍女の声を聞いた男は、ランプをかざして侍女の顔を見た!!
「ギャーーー!!」
「私を温めてくれないの?ねぇ」
侍女は叫ぶ男の身体の上へ馬乗りになった。
侍女には、目も鼻も口も無くふくよかな身体から冷たい水がポタポタと男の身体へ落ち、侍女の身体が崩れているように見えた!
「ば、ば、化け物!!止めろー!!」
「ほら、温めて下さいね」
冷たく冷気を吐き出す侍女の手が男の首へ伸びる。
「お願いだー!!助けてくれー!!」
その時、男の部屋に飛び込んで来たのは!!
「どうした!!大丈夫か!!」
男はすでに失禁……失礼。失神して意識が無い。
「チッ。クソ坊っちゃまじゃないのか!おい、計画と違うじゃん!!」
パカッとお面を取った私は、男の背後に居たゲラゲラ笑う三人を睨み付ける。
騒ぎを聞きつけ寮生達がわらわら集まってきた。
「ものすごい早さで廊下を駆け抜けていってさー」←クレ様
「そうなんだよ、止めようとは少し考えたけどね」←イジー様
「ん?サラなのか?」
ずかずか近寄りひょいっと両脇を持たれた私は、眼前にある顔を見て男がヒューだと気付いた。
「よ!久しぶり。あんまり会いたくなかったな。てか、計画台無しにしやがって!!」
降ろせー!!と暴れたらやっと地面に足が着いた。
「みなさーん!!こいつがか弱い私を部屋へ連れ込みましたー!!」
寮生達は何やらこそこそ話始めたが、失神した男を見るとクスクス笑っていた。
「面白かったけど、囮役は僕がやれば良かった」
ライがさっと私の身体を包んでいた氷を溶かして抱きしめる。
「直接は触られて無いよ。全身自分の魔力で包んだしね」
ニコニコしてる私とは逆に、ライは失神している男を見下ろす。
「これだけの騒ぎを起こしたんだ。こいつの身柄は私が引き取る」
ヒューの後ろから警備員が出て来て男を連れて行く。
「サラ、ライ。久しぶりだな、でも何で此処に?」
「俺達の使用人だからだ。うちの侍女が襲われた事。しっかり抗議すると伝えてくれ、行くぞ」
クレ様の言葉に、ヒューはびっくりした様子。友好国とは言え他国の留学生からの言葉は重かったのか軽く頭を下げたヒューを残し、私達はクソ坊っちゃま達の部屋へ戻った。
「ヒューにバレちゃったね」
ライの開口一番がソレか!?
「寮生に例の四人は居なかったじゃん」
そう、侍女仲間から情報収集はしていたのさ。
「それが、バカ男があちこち手を出して問題になってたみたい。まぁ成功率0らしいけど」
イジー様は隣でゲラゲラ笑っているクレ様を無視して教えてくれた。
学園内でも、下位貴族令嬢や平民へ色々やって監視対象になっていた。そこに侍女を連れ込もうとした話も上がり今回の件で学園から追放になる可能性大。
「まさかと思うけど、全て知った上での囮作戦?」
「当たり!サラは賢いね」
……こんな身近に腹黒が居たとは!いつも一緒に遊んでいたのに気付かなかった!
******
「サラ。元気だった?」
只今、ヒューと警備員さん達から事情聴取されとります。はい、すっかり囮作戦をそりゃ隅々まで話してしまいましたとさ。
「ハハ……元気よ。いやーあんなに上手く行くとは思ってなくてさ」
小説の攻略対象者。確かにカッコいいけどヘタレ時代を知ってる私から見れば、見目麗しの姿にも動揺はしない。
だが!!なんじゃ、この視線は?しかも距離感間違えてンじゃないの?
「何故、真横に座り腰に手をまわす?」
「だって、捕まえてないとサラは逃げるでしょ?」
誰だ?こんな事を言う奴だったか?
「これ、事情聴取よね?てか警備員さん達どこ行った!」
ふんわり抱き寄せられ、胸にポスンと囲われる。タグを思い出せ!あの小説タグに18禁は無かった……はず!!
「会いたかった。最初は生意気な女と思ったのに、一緒にマフィン食べてた時の笑顔が忘れられないんだ」
お、おぅ。旨かったぜ、あのマフィン。
「もし会えたら、捕まえて離さないって決めてた」
決めるな!どーした?マフィンに何か入ってたのか?それとも……
これが小説の強制力か!?
「いやいやいや、有り得ん。無口キャラはどうした?」
グイッと胸に手を当て離れようとするが、クッソー!かなり鍛えてンじゃん。
「はーい。そこまで。僕のサラを返して貰うよ」
ヒューの手から私を引き離したのは、地雷1号ライだった。
「やっぱり来たか。テイヤー姉さんが会いたがってたよ」
居たな!うん、かなり強烈なキャラ!
「嫌だよ。あんな煩い女性」
ムギュっと抱きしめンなよ!苦しいやんけ!鼻が、鼻が潰れる!
「ギブ!ちょ、離せライ!」
「ごめんねー」
軽いな、ヲイ!それよりも、
「耳の穴かっぽじって聞け!平凡がいいの!平民バンザイ、だから、あんた達と私は結婚しないの!」
フンッ!バタバタと部屋を出て、クソ坊っちゃま達の部屋へ戻った。侍女の仕事をしなきゃね、とりあえず掃除だ!