小説開始?! 1
来ちゃったよ、小説の舞台。フォーチューン学園!
「いってらっしゃいませ。クソ坊っちゃま方」
恭しく頭を下げるけど、逃げまくった先にまさか、落とし穴案件があったなんて……でも学生じゃなく侍女よ侍女!スタート時点がそもそも違う!
「いざとなれば逃げよう」
次こそ、ヘイオーン国へ旅立とう。途中、バーダお母さんの様子見もしてさ。
そう考えると、今からでもイケるんじゃない?そうよ、クソ坊っちゃま達が居ない間に脱出すれば、地雷軍団にも会わず、地雷1号からも逃げられそうじゃない?
「ヨッシャー!!」
「逃げられないよ。クレとイジーから監視を頼まれてるし、僕はサラの旦那だからね。傍を離れる訳無いよ」
相変わらず見た目だけはスゲー美貌で、今は美少年から美丈夫と身長も伸びて最初に会った頃の姿に近い。けど髪は後ろで縛り服は執事のアウトさんと同じ。どう考えても隣に並ぶと私は見劣りしてしまう。
「……ちょっと待てよ?何シレッと旦那発言してンのかな?そもそも異種族だよ?」
「僕と契りを交わせば大丈夫。ずーっと僕を楽しませてよ」
ニコニコしてるが、ライは恋愛的な意味じゃなく、面白いから私と一緒に居るだけ。なーにが悲しくて、んな奴の事を考えなきゃならないのさ!!
「寮生活は支えよう。クソ坊っちゃま達に、一応感謝は一ミリ位してるしね。でも、学園の中へは行かないし、地雷軍団とは極力会わない!」
タイミングが良かったとは言え。クソ坊っちゃま達があまりにもやんちゃで、ちょうど同じ位の年の使用人募集してたのも、めっちゃくちゃ募集に集まった中で、何故か一発採用(ライと一緒が条件)も、ついでにクソ坊っちゃま達とは雇用主と使用人じゃなく、幼なじみ状態でお互い遠慮無くやりたい放題出来たのも、考えるとライが『こっちの方に面白い事がありそう』と、引っ張ってくれたおかげで。
「そう考えるとラッキーなのかな?」
「よく分からないけど、ラッキーなんじゃない?」
自然に肩へ手をまわし、微笑んでるけど、ほら周りに居た侍女の皆さんバタバタ倒れてるじゃん。なんちゅー破壊力!
入学式が終わる前にクソ坊っちゃま達の準備でもしようかな。
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「ようこそカモン国へ、私はインスパー、こっちに居るのが私の友人達。
デンジャー国の王子二人と、共に学べる事を嬉しく思います」
「王子って内緒なんだよ、とくにうちの侍女にはね」←クレ様
「そうそう!貴族ってだけで逃げようとするからね。それより一年間宜しくね」←イジー様
双子は、インスパー達を見て内心ニヤニヤしてた。本来は王宮で暮らす二人がラース家に居るのは、デンジャー国の習わしで18歳になるまで、身分を明かす事はしない。使用人募集で偶然出逢ったのがサラとライだ。二人がカモン国から来た事、その道中で色々あった事を聞いていた俺達は、留学が決まった時。二人を屋敷へ置いて行くつもりだった。
だけど、深夜にライが訪ねて来て。
「留学には僕とサラを連れて行ってね。その方が面白いから」
面白いは正義!!しかも、今、目の前に居る人間の名前はライから聞いていた。
インスパー、ホーイ、ヒュー、ヤター。この四人は過去にサラとライに会っているらしい、しかもサラに好意を寄せた事もあるらしい。何とかサラをこの四人の前に突き出し、本性を見せてからかってやるのも良いな。
それより、俺達どちらかの婚約者として紹介する?でも、ライを敵に回したくないから却下だ。奴はサラを溺愛してる、サラ本人が微塵も気付いて無いのが俺達としては面白いけど。
普段の侍女服ですら可愛いのに、ドレスを着せて化粧なんかしたら、見た目だけは妖精だが、中身はものすごーい残念な奴!
財布の中身を数えてニターと笑い。森へ入れば魔獣だろうが、デカイ獣だろうが『冷凍肉!確保!』と叫ぶわ。
極めつけは、屋敷の裏庭の池を凍らせてツルッツル滑る遊びだ!確かに面白いが、普通の人間では考えられない魔力量って本人が気付いて無い。
挨拶を済ませ、寮へ帰ると残念な女サラから、
「クソ坊っちゃま達。おかえりなさいませ」
「屋敷に居た時みたいに呼んでよ。クソ坊っちゃまってサラは酷いな」
クレに続き俺も口を開く。
「まぁ、サラだしね。学園に通いたくなったらいつでも言って」
「行くかー!!ボケナスイジー!!」
フッフッフ。本当に残念な女だね。ライが居なかったら、やっぱりサラを手に入れたいなー。
「会えましたか?王子様」
ライが耳打ちする。油断ならない男だね、いつから気付いていたのか。
「皆さん、見目麗しの少年でしたよ。まだサラの事は言ってないけどねー」
「その四人の近くに居る令嬢にも、その内会えるかも。楽しみだね」
令嬢……今日の紹介には居なかったな。
「その令嬢は、サラの事を知っているのか?」
うーん。と唸り。
「僕も会った事は無いけどね」
ニコニコ笑っているが、ライは初めて会った時から、得体の知れない雰囲気がある。
「勘の良い子は好きだよ。一番はサラだけど、君たち二人を僕は気に入っているんだ」
瞳の奥にある、冷酷な光に俺は気付かないふりをした。