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はぁ、詰んだ。
庶民で育った………訂正。
かなり貧乏な母子家庭で育った私は、野草採取に山へ入り、領主さまに見つかりダッシュで逃げて崖からダイブ。
……崖じゃなくちょっとした段差とも言う。
ぼうぼうの草の中だったから見付からずにほふく前進しながら帰路に着いた。
後頭部に見事なタンコブを母が見つけ楽しそうにパチコーン!と叩いた時、ぶっ倒れ全てを思い出したのだ。
どんな最後か覚えて無いけど、きっと死んだのよね。
『ヒロインなんかに負けません!』
ネット小説の題名。
内容は在り来たりながらも、ヒロインが最悪で悪役令嬢(小説のヒロイン)より、ヒロインのざまぁ見たさに読んでいた。
あらすじは、至ってシンプル。
公爵令嬢の悪役令嬢(小説のヒロイン)が、池ポチャして前世の記憶を思い出す。
『君に届け愛の唄』ってゲームの世界に転生して、自分が悪役令嬢と気付いたシェケナ公爵の長女ベルビナ嬢は、カモン国の第1王子であるインスパーの婚約者を辞退しようと動くが、ゲームの強制力なのか、婚約者に決定してしまう。
それならばと、ヒロインから離れようとするが、じわりじわりとベルビナ令嬢が悪者に仕立て上げられ、不気味なヒロインに恐怖する悪役令嬢。
攻略対象者は、
インスパー第1王子。
眉目秀麗、成績優秀、正義感が強すぎて周りとのすれ違いあり。完璧過ぎて人の痛みが分からない。
ゲームversion。
インスパー王子はヒロインの純粋な心に触れて、徐々に周りと信頼関係を築き。それを教えてくれたヒロインに惹かれていく。
小説version。
悪役令嬢(小説ヒロイン)から平手打ちを食らい、自分だけが生きている訳じゃない!!と叱られて目が覚める。それから悪役令嬢から目が離せなくなり惚れる。
現宰相の息子。
ヒャハー公爵家嫡男ホーイ。
モノクルを掛けたインテリ、成績優秀、腹黒だが小さい時の勘違いで自分を母の不貞の子どもだと思っている。父親が厳しくするのは母への報復だと信じている。
ゲームversion。
貧血で倒れた時、ヒロインに助けられたホーイの母親から、息子の話を聞き何とか誤解を解こうと奮闘する姿に惹かれていく。
小説version。
ホーイが誤解している事を知っている悪役令嬢(小説ヒロイン)は、ウジウジ悩む暇が有るなら直接聞いてこい!!と背中を押す(物理的に)。真実が分かり項垂れるホーイへ、良かった!と満面の笑みを見て惚れる。
現騎士団団長の息子。
ヤッホイ侯爵家嫡男ヒュー。
偉丈夫で男らしい。剣の腕は一流だが反面、他人との関わり方が分からず無口に思われている。それもあって周りから頼られるが本人は弱音を吐けない。
ゲームversion。
ヒロインから、強いだけの人なんて居ない。自分には弱い所も見せて?と優しくされ惹かれていく。
小説version。
悪役令嬢(小説ヒロイン)から強さって何だ?と問われ剣の事を言ったが、ヒューの胸を指差し。心の強さは弱音をさらけ出す事が出来る人だ!と言われ目が覚める。悪役令嬢を支えたいと思っているうちに惚れる。
現魔術団長の息子。
ヤリー伯爵家嫡男ヤター。
成績優秀、小柄な体躯で笑顔を絶やさないけどヤリー伯爵家の人間なのに魔力量が少ない事に劣等感を持つ。
ゲームversion。
ヤターの笑顔に違和感を感じたヒロインから優しくされるが、魔力量が多い人には自分の気持ちなんて理解出来ない!と反発してしまう。しかし、魔力量があっても技を出せないヒロインに指導して欲しいと言われ、自分がやるべき道を示してくれたヒロインに惹かれていく。
小説version。
悪役令嬢(小説ヒロイン)から、ハチャメチャな技を放たれてキレる。じゃあ教えなさいよ!と詰め寄られるが、自分が教えた事をひたむきに頑張る姿に惚れる。
で!小説の中に出るゲームヒロインは、精霊が見えてしかも命令も出来る。攻略対象者達が悪役令嬢(小説ヒロイン)へ憎悪を向けるように仕向け、しかもそれぞれのコンプレックスや劣等感を増幅させるように、彼らの両親や周りの感情を操り。ゲームヒロインが望むように精霊を使いまくると、次第に精霊が黒くなりゲームヒロインは、ラスボス化してしまう。
悪役令嬢(小説ヒロイン)が、4人の攻略対象者と共にラスボスを倒そうとするが、4人が悪役令嬢を守り死にそうになる!
そこで、悪役令嬢(小説ヒロイン)が聖女として覚醒!見事ラスボスを倒し4人を癒して……
クッソーー!!未完成で違う小説をupしてた作者!
でも私は倒されてしまうのは書いてあったよ。トホホ…
そして問題はまだある。今夜のたんぱく源にしようと捕まえたタヌキ。コレ多分精霊なんだよね。
だって母に見せたら、
『サラはとうとう幻覚まで見えるようになったのねー』
尻尾持って目の前でブラブラさせたのに。まさか見えないってオチとは。
でも、シメれば食べれる?精霊って美味しいかも知れない……
じっとタヌキを凝視してると、背後から肩を叩かれた。
「ソレ、食べないであげて」
薄い緑色の長い髪、深い緑色の瞳、背は高くどっから見ても美人な?
「男?女?まさかの両生類!!」
あ、顔がヒクヒクしていらっしゃる。だって見た目じゃ全く判別出来ないんだから、しょうがないよね?
「男だ!どこから見ても男だろう」
「そりゃ失礼しました。タヌキはあなたのペット?」
貴重なたんぱく源だったがヨダレを……涙を飲んでタヌキを男へ返した。
「君は精霊が見える希有な人間だね。僕が特別に加護をあげ「いや、結構です。さっさとお引き取り下さい」
いらん。心の底からいらん。だって精霊と仲良くしたら破滅まっしぐらじゃん。
「精霊王である僕の加護をあげ「だから、精霊王だろうと魔王だろうと何もいらないの。なっにが加護だよ、私はんなモノより、ここまで隠して持ってきた、貴重なたんぱく源を無くしたのに、今日も野草スープだけになっちゃったじゃない!しかも、小説通りなら、お母さんが死んじゃうし。そりゃあね。あのゲームヒロインには多少同情するよ?12歳でお母さんが亡くなり、孤児院では大人に媚び売ったのも、今考えれば生きてく為に考えた結果だもん。それをさ、勘違いしたゲームヒロインも悪いよ?でもさ、誰もゲームヒロインを助けないってどうなの?まぁ、私がゲームヒロインになっちゃったからには、手っ取り早く精霊に近付かない事が死亡リスクが一番少ないって思わない?」
「は?」
「て、事でさよならー」
ポカーンとする精霊王を残し家へ入ると、母はニコニコと野草スープを食卓へ運んでいた。