アマネラ:7
「最悪だ! ホントに最低で最悪だ!」
宇宙船フライングパン・ゼロワンの整備士ガーリオンの吐き捨てるような怒鳴り声にアマネラのインカムが震える。
「ゴメンて~。仕方なかったんだから勘弁してよ~」
情けない調子でかえしながら操縦桿を操るアマネラ。彼女の声がいつもより違って聞こえるのは、洗濯バサミで鼻を摘まんでいるせい。
遡ること半時、ガーリオン達の帰還を待っていた宇宙船フライングパン・ゼロワンに乗り込んできたのは、ガーリオン達ではなく宇宙海賊ワルイヤンの残党だった。
ディエゴ青年を誘拐して小惑星SG5103429に潜伏していた宇宙海賊達は、フライングパンの面々が襲撃してきた当初彼等を舐めてかかっていた。たかが小型宇宙船の一機で迎撃態勢万全の自分達にどれほど立ち向かえるものかと。
そんな舐めた態度と迎撃態勢が仇となり、フライングパン・ゼロワンを傷付けたことで船の火器管制担当ガーリオンの怒りを買った宇宙海賊達はけちょんけちょんに叩かれ、万全の筈だった迎撃装置と脱出手段である自分達の船を失った。おまけに惑星基地へと降りてきたガーリオンとイボチを返り討ちにする事もままならず、一方的に制圧されてしまった。
それならば奪い返すまで、と思ったかどうかはわからないが、ガーリオン達と入れ替りで海賊の数人がフライングパン・ゼロワンに乗り込んできた。
そして……。
「ったく、大事なアイアンブレイブブルーバードを血塗れゲロまみれにしやがって。帰ったらタダじゃおかねぇ」
インカムから響くガーリオンの言葉の通り、アマネラの座席の後ろで血塗れゲロまみれのまま気絶している海賊達が転がっている。
宇宙海賊達が操縦室に入った瞬間、アマネラが宇宙船を急発進させ錐揉み飛行を敢行した。結果、何の支えもない侵入者は壁から天井、床面と満遍なく叩きつけられ、フライングパン社の緊急時対応マニュアルの成功例が三回中三回から四回中四回に更新されることになった。
アマネラは背後に広がるモザイク処理をかけたくなるような阿鼻叫喚を視界に捉え、陰鬱な溜め息を吐く。
「タダじゃおかないかどうかは置いといて、掃除は皆でしようね。いやホント、マジ、お願いしますから」
「とニモかくニモ、まずは私達が帰還してカラノ話デス。アマネラ、回収ポイントには到着できそうデスカ?」
イボチの問いかけにアマネラは各モニターや計器に視線を飛ばしつつ低く唸る。
「お尻にくっついている奴等を連れてっていいなら、余裕」
「良いわけあるか! 保安局の先方隊だろうが、そいつ等は!」
インカム越しに怒鳴られたアマネラが向けた目線の先。レーダーモニター中央に映るフライングパン・ゼロワンの後方に取り付いた二つの機影には、イボチが宇宙連邦保安局船団からこっそりと回収した機体データコードが表示されている。
「わかってますってば! だからこうして逃げ回ってんだからねっ、と!」
そう言いながら操縦桿を倒すアマネラ。フライングパン・ゼロワンは後方からの銃撃をひらりとかわしつつ快走する。
本音を言えば、アマネラもさっさと踵を返して追ってくる二機を撃墜しイボチ達の元へ向かいたい。だが、保安局船団の先方隊二機は手練れらしく、彼女の反撃の糸口を塞ぐように執拗に詰められている。
或いは、口の悪い鳥人のように宇宙船の火器を余すことなく使いこなせれば。或いは、紳士な火星人のように逆転の奇策を捻り出せたならば。引きずり込まれたジリ貧の消耗戦の最中、アマネラは自身の胸中によぎった弱気を嘲るように笑みを浮かべる。
「ちょーっと待っててね、お二人さん。チョイと遅れるけど必ず迎えに行くから」
両足のペダルと手にした操縦桿を操作しながら片手で手元の機器を操作すると、大きく息を吸い込む。
「さぁて、いっちょ本気でやったりましょうか! れっつ、ぱーりー! ヒーハー!」
アマネラの声と同時にフライングパン・ゼロワンは機体を回転させながら急旋回する。空虚な宇宙空間を逃げ回っていた宇宙船の進路を、ガーリオン達がいる小惑星に向けると一気に加速させた。
当然のようにアマネラを追っていた二機も同じ軌道を描いて彼女を追う。
背後から断続的に発射される機銃をかわしつつ、尚も小惑星SG5103429へ突進するフライングパン・ゼロワン。それを追いかけている保安局船団の二機と徐々に差が開き始めた。
追うもの追われるもの、全体的な機体性能を問われれば前者の追うもの、保安局船団先方隊の二機が僅かに勝る。ならば操縦者の技量によって差が開いたのか。否、双方小惑星に向かってほぼ一直線に飛ばすだけの操縦に、技量の差は付きにくい。
フライングパン・ゼロワンと先方隊二機の差が広がっていく理由は、ひとえに操縦者の心持ちと言えた。
無論、先方隊二機が臆病などではない。前を行くアマネラが、良く言えばクソが付く程に度胸がある。悪く言えば命知らずのおバカさんなのだ。刻一刻と迫る小惑星の地上を眼前に、理由もわからず仕掛けられたチキンレースに乗る事をヨシとする程、先方隊二機の操縦者はイカれていない。
「どうしたどうした、宇宙連邦のワンちゃん達! そんなんじゃお姉さん逃げきっちゃうぞ!」
そう吠えるアマネラの操縦によって船が意味もなく右へ左へと踊る姿は、追う先方隊にも挑発と捉えられただろう。それでも開いていく後続の二機との距離をレーダーで見ながら軽く舌打ちするアマネラ。
その舌打ちは臆病な二機への侮蔑が混ざっていたが、こちらの思惑に乗ってこなかった彼等の慎重さを恨んでのものでもあった。
チキンレースを敢行したアマネラの胆力はさておいて、この状況に先方隊二機を引きずり込んだのは無策無謀からの事ではなかった。彼女なりの裁量による一計あってのことだ。もっとも、その裁量はどんぶり勘定の域を超えないのだが。
「えぇい、なるようになるか!」
先方隊二機との距離感に一抹の不安を抱きながら、アマネラは火器管制のキーパネル上に左手を走らせた。
小惑星の地表に向かって自殺行為のように突き進むフライングパン・ゼロワン。その飛行に、後続の先方隊二機は付き合いきれないとばかりに各々回避旋回する。
「恨むならあなた達んトコの凄腕整備士達を恨みなよ!」
二機の姿を見送ると、アマネラは即座にパネルに表示されたアンカーを起動させた。
フライングパン・ゼロワンから射出されたアンカーは小惑星の岩山に突き刺さり、同時に旋回を始めた船を仕様外の急旋回へと誘う。
地面に向かう直進の勢いを無理矢理横の曲線に修正しようとするアマネラの身体を強烈な重力が襲う。その背後で折り重なっていた宇宙海賊達が、急旋回の勢いそのままに操縦室の壁へと飛んでいく。
そして、飛ばされた宇宙海賊達が壁にその身体をぶつけた瞬間、それとは違う衝撃がフライングパン・ゼロワンに走る。それと同じくしてアマネラにかかっていた急旋回の重力が軽くなった。
「ぐげぇっ!」
軽減された重力の理由をすぐさま察知したアマネラの口から、踏み潰されたカエルのような悲鳴が漏れ出る。
宇宙連邦保安局船団の整備士とガーリオンの整備により、フライングパン・ゼロワンのアンカーはアマネラの無茶な飛行にも耐えうる能力を発揮した。ただ、宇宙船の急旋回の反動をアンカー越しに受ける岩山は別の話だった。
衝撃に耐えきれなくなった岩肌が瓦解し、アンカーを吐き出した。アンカーの受け手を失ったフライングパン・ゼロワンは旋回運動から解放され、ハンマー投げよろしくその軌道を直線のそれへと変える。
問題なのは旋回しきっていなかった機体の向かう先が、まだ小惑星の地面に向いていることだ。
「んにゃろぅっ!」
アマネラは声を上げ、慌ただしく四肢を動かす。彼女の両足が踏むペダルと両手が掴む操縦桿にリンクしたフライングパン・ゼロワンは、さながらコブラの如く機首をせり上げ機体を反転させた。
そのまま進行方向へと向けられた推進機が、宇宙船の勢いを相殺するべく最大出力で火を吹く。突如反転した操縦室内のあらゆるものが宙を舞い、血塗れの宇宙海賊達が正面モニターに叩きつけられた。
「これだからやりたくなかったのよ! えぇい、止まれぇ!」
正面モニターにベッタリと付いた血痕に悪態を吐くアマネラ。
彼女の必死の制御に応えたフライングパン・ゼロワンは辛くも地表を前にして激突を免れ、推進機から噴き出す火柱で地面を抉りながら再び飛躍する。
この出鱈目な飛行を見て呆気にとられたのか、はたまた単純に回避が間に合わなかったのか。宇宙連邦保安局の先方隊二機のうち一機が、小惑星から隆起していた岩肌を引っかけて地表を転げ回り爆散した。残る一機も避けた方角がフライングパン・ゼロワンの軌道と大きくずれて距離が離れていく。
これ幸いと一路ガーリオン達との合流地点を目指すアマネラ。レーダーに映る先方隊一機のマーカーが追跡に転じること無く撤退していく様子を一瞥し小さく息を吐いた。
「オッケー、先方隊は離れたわ。回収に向かうわね」
インカムのマイクに彼女がそう告げると、通信越しに聞き慣れた声が返ってきた。
「そいつは何よりだ。何よりなんだか、とっとと船に戻りたい俺と大惨事な船内を見たくない俺がさっきから喧嘩してんだよなぁ」
「気持ちはオ察しシマスガ、連邦保安局の船団は最早目前マデ迫ってイマス。諦めて乗船を選んで下サイ。幸い船内掃除の人員もイマスカラ」
「え? それって僕も頭数に入っているってことですか?」
イボチの発言を隣で聞いていたであろうディエゴの問いをマイクが拾う。
「悪いな、若旦那。ウチは少数精鋭と言えば聞こえがいいだけの人手不足なんだ。特に今は血とゲロにまみれた船内を掃除するヤツを大歓迎している最中でな。専属清掃員としてウチに就職したいなら紹介手数料は安くしとくぜ」
「雇いタイなら、アナタの給金から支払ッテ頂きマスヨ」
ガーリオンの言葉の真偽は知れず。イボチの一言に鳥人の整備員は「ホント冗談が通じねぇなぁ」と漏らした。
「雇用するかはサテオキ。ディエゴ、我が社が少数なのは事実デス。一時とは言エド、快適な船内生活を過ごすナラ船内の清掃は協力シテ下サイ」
「拾ってもらった命です。掃除を手伝うくらい喜んで」
インカムの向こう側のやり取りが続けられる間も、アマネラの駆るフライングパン・ゼロワンはモニター上に映るガーリオン達のアイコンに順調に近付いていた。
「回収地点に入るわよ。近寄りすぎてワルキューレの逆噴射に巻き込まれないでよ」
そう警告しつつアマネラは減速操作に入る。
「ワルキューレ?」
聞き覚えのない名に思わず反応するディエゴ。
「俺達の船アイアンブレイブブルーバードの事だ」
「そうデスが違いマス。フライングパン・ゼロワンなのデス」
「え? え? どれ?」
先のアマネラの逃走劇など無かったかのような呑気なやり取りを繰り広げる男達。そんな彼等の回収地点に到着したアマネラが宇宙船フライングパン・ゼロワンを止めると、慣性のなすがままに宇宙海賊達が操縦室を舞った。
ーーーーーー
「ったく忌々しい。二度と我々に関わるなと言ったろうが」
その老いた男の声の持ち主は宇宙連邦保安局船団の旗艦ドラウド級の乗組員。その艦の中でもブリッジの特等席とも言える艦長席に座していた。
彼の乗る旗艦ドラウド級を始めとする宇宙連邦保安局船団が向き合う小惑星SG5103429に不時着した機体フライングパン・ゼロワン。その機体はあちこちから白煙を上げ、眼前の船団を相手に戦える状態ではない事が見てとれた。
寧ろ、その機体状況を見るものが見れば激しい損傷を負いながらもその何れもが致命傷を免れ、その気になれば全力飛行こそ出来ないにせよまだまだ飛んでいられるであろう健在ぶりに感心するどころか奇怪にさえ感じるだろう。
「それにしても粘りも粘りたり一時間と二十七分とは、随分と手こずらせやがったもんだ」
旗艦から出撃した二機の先方隊がフライングパン・ゼロワンと遭遇してから今に至るまで。彼の愚痴った一時間二十七分という間、船団に包囲されながら集中砲火を回避し続けた宇宙船の飛行能力と操縦技術は称賛に値する。
「だからってコケにされっぱなしじゃあ保安局の名折れってんだ。二番、三番、四番艦、撃ち方用意。あの死にかけの子鼠に止めをさしてやれ」
そう言い放つ艦長の脇で、外部からの信号を伝える電子音が鳴った。
「艦長。そのフライングパン・ゼロワンから通信要請が入ってきています」
艦長は通信士のその報告に溜め息を吐く。
「繋ぐに及ばずだ、無視しろシーラン通信士。我々と奴等は別れの言葉を交わすような間柄じゃねぇさ。目標、子鼠。各艦、斜線予測を共有しろ。逃げられないようによく狙えよ」
「そう言わずに紳士的に話し合いマショウ、艦長。我々はアナタ方と歩み寄レルト信じていマスヨ」
艦長を宥めるように返してきた通信の声に、ブリッジにいた乗組員達がどよめいた。
「おい、シーラン!」
「わ、私じゃないです」
「エエ、彼女は何もしていまセン。彼女の手間を煩わせるのは忍びナカッタノデ、こちらで手配させて頂きマシタ」
通信先で起きている苛立つ艦長と慌てる通信士のやり取りにイボチが割って入る。あっさりと言ってのけたイボチに、ドラウド級艦長の感心とも呆れともとれる溜め息が漏れた。
「おいおいおい、連邦保安局の通信にちょっかいかけるたぁ、手前ぇ何者だよ」
フライングパン・ゼロワンのスピーカーが伝えるドラウド級艦長の驚嘆の声。
さもありなん、宇宙連邦保安局の施設、設備はその職務上あらゆる電子機器にハッキング対策として堅牢な防壁が敷かれており、ともすれば干渉した相手に反撃さえ実行する狂暴性を有している。もちろん旗艦ドラウド級の通信回線も類に漏れず、そこをあっさりと「越えてきた」と言われてしまっては防壁の立つ瀬がない。
声こそ艦長のそれしか聞こえてはこないが、動揺は旗艦ドラウド級のブリッジ内に広がっていることだろう。
そんな通信先の心境を察した様子もなく、イボチは眼前のパネルを操作しつつ話を続ける。
「保安局のセキュリティはどうやらクローマック社のシステムをベースに組んでいるヨウデスネ。少々時間はかかりまシタガ、サホド困難ではありまセン」
そこまで言ってイボチが「オウ、そう言エバ……」と思い出したとばかりに触手をペチッと打ち鳴らした。
「クローマック社と言エバ、先日あなた方が掃討作戦で撃退したコアク党と裏で繋がっていたトカいないトカ。アァ、コアク党の残党で今回ヴェスタ商会のボスの息子を誘拐した宇宙海賊ワルイヤンも、息がかかっているトカいないトカ」
「手前ぇ何を根拠に……」
艦長の苛立ちを圧し殺すような声がイボチに聞こえているのかどうか。イボチの抑揚の無い声は尚も続いていく。
「オウ、先の捕物デハ宇宙連邦保安局の幹部も何人かコアク党トノ癒着でショッピカレていマスネ。どうやら彼等にもクローマック社が関わっていたトカいないトカ」
「眉唾な話をさもそれらしく並べ立てやがったもんだ」
そう艦長が返すものの、保安局幹部が摘発された事実があるだけに歯切れは悪い。
「やれやれ。この調子じゃあ、俺までクローマックと裏で繋がってるとでもぬかされかねねぇ。そんなおっかない口は封じさせてもらおうかい。各艦、撃て」
その口上は最早悪党のそれと思わせる艦長。ただ、そうと思ったとしても艦長命令に逆らう乗組員はブリッジにはいないだろう。それは攻撃命令を言い渡された各艦に乗る者達も同じだ。
それでも、フライングパン・ゼロワンを狙っていたはずの二番、三番、四番艦の砲塔は旗艦ドラウド級へと旋回した。
「アァ、失礼。ソチラの管制システムに少々細工をサセテいただきマシタ」
自分達に砲身が向く光景に艦長達がリアクションするよりも早く、イボチがしれっと種を明かした。
「なんだと?」
「デスカラ。我が社の操縦士が必死に逃げ回ってくれてイル間にサクサクっト処理しまシタ。先程も言いマシタガ、クローマック社のシステムはセキュリティに問題ありデス」
そんなイボチが操作するモニタに映るのは、何かしらの工作が行われたであろう『更新完了』の文字。
「えぇえぇ、やってやりましたですわよ! こっちはもうクタクタよ! こんな逃亡不可能負け確定な状況でまだ生きているだけ奇跡よ!」
ひとしきり説明を終えたイボチの前の席で、今まで膨れっ面で黙っていたアマネラが嘆き散らした。
「ああ全くだ。おまえさんはホントに良くやった。まったくもって大した操縦士だよ」
彼女の剣幕に流石のガーリオンも普段の喧嘩腰は成りを潜め、アマネラを宥めるように声をかける。
普段は白く艶やかなガーリオンの羽毛は赤黒く汚れて毛羽立ち、一時間を越える逃走劇の過酷さを伝えていた。伝えていたが、今の鳥人的には自分の惨状や宇宙船の損傷を嘆くより「キー! 悔しぃ! こんな無理ゲーやってられるかー!!」と金切り声を上げる女を鎮める事を優先したくなる。それほどにアマネラは荒れていた。
この状況を悔しいと言う辺り、或いは自身の操縦でこの絶望的な包囲を離脱出来るとどこかで思っていたのだろうか。ガーリオンの脳裏にそんな疑問が浮かんだが、今それを彼女に尋ねるのは火に油どころか火薬を投げ込むようなものだと心に留める。
「失礼。後ろが賑やかなモノデ」
背後の怒声とそれを意に介さないイボチの平常運転に、艦長は毒気を抜かれたように大笑いを返した。
「いやいや、構うもんかい。その負けん気がお嬢ちゃんの腕っ節の原動力なんだろうさ。ここまでして仕留めきれなかったどころか、仲間に反撃の機会さえ作ってのけたんだ。実際、あんたの所のお嬢ちゃんはとんでもない操縦士だよ。こっちこそ立場をわきまえていなけりゃあ、あまりの悔しさに喚き散らしていたところだ」
「オウ、評価のお言葉を頂キ光栄の至りデス」
「だとよ。艦長のじい様に褒められてるぞ。良かったじゃねえか、アマネラ」
賛辞を送る艦長にイボチとガーリオンが応える。賛辞を受け取るべき当のアマネラは未だ膨れっ面である。
「それで、今や形勢は逆転し我々は銃口を突き付けられているわけだが、なんと言って命乞いをすりゃあいいのかね?」
銃口を突き付けられている割にはそれを感じさせない不遜な態度で問う艦長に、イボチはふむと思案した。
「当社の受ケタ依頼は拐われたディエゴ青年を奪還するコトデス。無事連れ帰るタメニモ私達の船の補修に協力願えまスカ?」
「船団の戦績に二度も泥を塗った奴等を懐に入れろと? 全くいい度胸だよ。自分達がそのまま船ごと無かったことにされるとは思わねぇのかね」
実行する気は無いにしてもイボチの無用心に苦言を呈する艦長。当然その警告にイボチは動じた様子はない。
「先ホド少し話しましタガ、クローマックと各宇宙海賊トノ裏の繋がりや宇宙連邦保安局との癒着、そのシステムの脆弱性とシステムの不法侵入者。保安局のシステムに侵入しているうチニ色々と情報ガ手に入りマシタ。弊社とシテは一連の諸悪の権化であるクローマックには興味がありマセン。宇宙船の補修費用の代金とシテお収め下サイ」
「手土産持参とはどこまでも抜かりの無ぇこった。それだけ揃ってりゃ我々の遠征の成果としても十二分だ。いいだろう、牽引用の船を出すから大人しく待ってろ」
艦長からの色好い返事に一番安堵したのは整備士ガーリオン。
「いやぁ、これでなんとか帰還の目処も立ったな。あの戦艦の整備士達の応援があるのは頼もしい限りだぜ。ほれ、アマネラ。いつまでもブスッとしてんじゃないよ。船室で伸びてるディエゴを連れてきてくれ。回収船が来る前にみんなで片付けられるもん片付けるぞ」
作業開始とばかりに席を立ったガーリオンはそう言って操縦室の壁際を翼で指す。彼の薄汚れた羽根が指し示したのは、これから片付けるモノ。まとめて縛り上げられた宇宙海賊達だった。
アマネラは先程までとは別の意味で不服そうな顔をしながらも、行動を起こすべくシートベルトを外した。
「あーあ、たまにはスマートかつクリーンな仕事がしたいものだわ」
血と汚物にまみれた操縦室を一瞥して嘆くアマネラ。その意見に同意したイボチがゆらゆらと頭を振る。
「同感デス。私達はこれほどにスマートかつクリーンかつ紳士なノニ、仕事は何故か荒事になってシマウ」
「イボチ、おまえの言う紳士ってやつの定義が俺には未だにわからねぇ」
アマネラは鳥人のボヤきに「同感だわ」と笑った。そして、操縦室の扉を開けつつ、思い出したように振り返る。
「あ、イボチ。お片付けの賑やかしにラジオつけてくれる?」
彼女の要望を拒む理由もないと、紳士火星人はすぐさま船内スピーカーとラジオ放送を接続した。
『ーーそろそろお時間となりました。ここまで放送を聞いてくださりありがとうございました。ラストはこの曲、ンジャブモで『飛べ! コンチヌ・エド』それじゃあ、また来週この時間にお会いしましょう。バイバイ』
今回の出目は六で宇宙船ぶん廻している間に連邦保安局に撃たれ、誰かが吐く。一部描写がカットされておりますが、詰め込みました。
今回も作中でサイコロ判定をやっておりまして、アンカーが外れた直後のコブラ描写で偶数成功奇数失敗で振りまして六で成功。止せばいいのにディエゴ達を回収後に逃げられたか判定を行い、偶数成功奇数失敗で一。
なんだか、終盤に私の出目が腐っていくのは仕様なのだろうか……。
因みに一話目の後書きで振ったサイコロの目『ヴェスタを妬む組織の嫌がらせ』も無理矢理回収しまして、トータル結果的に本文のような展開となりました。
さてさて今回でアマネラ編は終了です。毎度のことながら無理矢理着地のお話になりました。まあ、この作品はそういう仕様なのだということで。
前回更新からかなり間が空いてしまいまして、もう少しペースを安定させたいものですが、できるかどうかは微妙なところ。次の被害者、もとい主人公で書くつもりはありますので気長にお待ち頂けると幸いです。
それでは、いずれそのうち賽は投げられる。




