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アマネラ:6

『ーーお送りしました曲は惑星ナガナシにお住まいのンジャブモさんからのリクエストで、銀河駅長の『夏の大三角関係』でした。続いてのコーナーはDJエマノンの超新星発見!ーー』


 操縦室に流れるラジオの音声を聞き流しながら、アマネラは宇宙船フライングパン・ゼロワンの計器類のチェックに手を焼いていた。


 常日頃操縦している機体だ。チェック項目は心得ているし、出来ないとも言わない。ただ、普段三人でこなしているところを一人で全部片付けるとなれば手間取るのも無理の無い話。


 もちろんガーリオンとイボチが機体チェックをサボっている訳ではない。彼等は彼等で別の仕事の真っ最中なのだ。それを証明するように、ラジオの音声を掻き消す勢いでガーリオンの怒声がインカムから響いている。


「五月蝿いなぁ、ガーリオン。もうちょい静かにしてよ」


「うっせぇっ! コイツら大事なアイアンブレイブブルーバードに傷を付けやがったんだぞ! これが怒鳴らずにいられるか!」


 アマネラが上げた抗議の何倍ものガーリオンの声量に、彼女は顔をしかめて耳からインカムをずらした。


「フライングパン・ゼロワンだと言うノニ……」


 耳元からずれたインカムから辛うじて漏れ聞こえるイボチの訂正は、アマネラを始め誰も聞いていない。


 アマネラのインカムの向こう側。ガーリオンとイボチは小惑星SG5103429に突入していた。彼等の出発を見送ったアマネラは、小惑星近くにフライングパン・ゼロワンを停泊させて機体チェックに勤しみながら今に至る。


 小惑星で迎撃態勢を取る宇宙海賊との戦闘による宇宙船の被害は幸いにも軽微なもので済んだ。被弾した機体にはいくつもの銃創こそ付いたが、推進機等への被害は無く飛行への問題は無い。……少なくともアマネラの操縦感覚と現状の機体チェック上は問題無い。


 対する宇宙海賊が立て籠った小惑星側は、各部から煙を上げて戦火の傷痕痛ましい見た目に仕上がっている。


 先の戦闘で小惑星上に設置された兵器類は悉くフライングパン・ゼロワンにより破壊された。その課程で宇宙海賊の銃撃が一矢報いたことが火器管制を勤めるガーリオンの怒りを買った。加えて、一矢報いたのがアンカーを使った急旋回の直後という、そもそも彼の気分が絶賛悪化中なことも災いした。結果、半ば八つ当たりに近い彼の攻勢はイボチの推奨火力を軽く超え、必要以上に惑星施設が破壊されることとなった。


 イボチは未だ怒りの収まらない鳥人を引き連れて小惑星施設内の制圧に向かったわけだが……。


「ガーリオン、お気持ちは察しマスガもう少し落ち着いて下サイ。会う人会う人気絶させてイテはディエゴの居場所が掴めナイデス」


「殺してないだけマシだろ!」


 アマネラはインカム越しの会話を聞き流しつつ、メインモニターに映る小惑星地図を見る。


 誘拐されたディエゴが監禁されていると推測される場所の候補のうち、今のところ半数が空振りのバツ印が付けられている。二人を示すビーコンがバツ印から次の候補地へと移動していた。


「監禁場所の候補のうちこれでだいたい半分外れ、か。やっぱり虱潰しだと時間かかるわねぇ。ディエゴを見付ける前に連邦保安局が小惑星ごと吹き飛ばしちゃうかも」


 モニターに散乱する外れの証を指差し数えていたアマネラから思わず漏れた感想に、インカム越しのガーリオンが唸る。


「わーったよ! おいイボチ、ポジション変えっぞ。俺がバックアップに入るから、次の部屋はおまえが先に入れ」


 ガーリオン自身も遭遇した宇宙海賊達を悉く気絶させてしまっていることは一応気にしているらしい。だからと言って『気絶させないように気を付ける』ではなく『イボチに代わってもらう』を選ぶ辺りは、咄嗟に手加減できる程に冷静でもいられないらしい。


「仕方ないデスネェ。アマネラ、くれぐれも連邦保安局の船団が接近シタ時は報告して下サイネ」


「了解。計器チェック終わったら逃げ支度をしておくわ」


 そんなやり取りの後、ガーリオン達の配置が代わったことをビーコンが示す。


 計器類を確認する合間に、モニター上の二人を目で追うアマネラ。彼等のビーコンが次の目標付近まで到達した時にそれは起きた。


 アマネラのインカムに突如鳴り響いた銃声。


「オオゥッ!」


 いつもの感情が読めないイボチの口調とは明らかに違う悲鳴を想起させる声。


「ちょっ、イボチ! どうしたの!」


 イボチの声色と先の銃声がアマネラの脳裏で嫌な方向に結びつき、アマネラは慌てて応答を促した。耳を澄ませて返事を待つが、銃撃戦の最中で返事をする余裕もないらしい。


 時間にして五分にも満たないインカム越しの喧騒。焦れるアマネラに返事が返ってきたのは、銃声が鳴り止んで間もなくの事だった。


「おう、連絡遅れて悪かったな。ご推察だろうが海賊どもとやり合ってたんだ。大丈夫、イボチも俺も無事に生きてるよ」


「無事なものデスカ!」


 先程までの荒れた調子が薄れて幾分落ち着いた様子のガーリオン。その会話に割り込んできたのは、鳥人とは対称的に声をあらげた火星人。


「紳士的な対話サエ試みようとシナイあのヨウナ野蛮人には相応の躾が必要なのデス!」


 先程までのガーリオンのそれが移ったかのような剣幕のイボチ。面食らってどう話しかけたものか困惑するアマネラに「説明するとだな……」とガーリオンの通信が割り込んでくる。


「アイツらの最初の一発が運悪くイボチのシルクハットを撃ち抜いちまってなぁ……」


「ああ、それで……」


 ガーリオンの言葉でアマネラも察した。


 紳士であれをモットーとするイボチの、その紳士的象徴としているものの一つが傷つけられたのだ。紳士的に言うならば手袋を投げ付けられたようなもので、これはもう紳士な火星人も憤慨しようと言うもの。


「二人して何やってんだか……」


「一緒にしてくれるなよ。俺はここまでやってねぇ。あぁあぁ、今撃ち合った連中ったら、こりゃあ気絶してんだか死んでんだか……」


「撃ってきたカラニハ撃ち殺される覚悟をシテ当然デス」


 キッパリと言い捨てるイボチ。ガーリオンの見立ても考慮すれば今回の遭遇もディエゴ青年の所在を聞き出すことは不可能だろう。


「一応確認だけど、そこで伸びてる連中の中にディエゴ君はいないわよね」


 居たら居たで問題だ。


「骨格から何から整形したってんでもなけりゃあ、ここにゃ居ねぇな。さっさと次に行こう。イボチ、無理言って悪かった。俺が先に行くわ。後詰めを頼む」


 二人の配置が再び前後入れ代わり、小惑星内を進むこと五分。


「よぅし! 各チェック終了オールグリーンっと」


「計器点検お疲れ様デシタ、アマネラ。コチラハまた外れデス」


「ディエゴどころか賊一人いやしねぇ、完全にスッカラカンだ。こうなってくると候補予測自体が怪しく思えてきやがるな」


「予測から外れた部屋もクリアリングはしてイマス。そちらでディエゴが発見サレテいない以上、候補予測の信頼度が落チタと仮定スルのは早計デスヨ」


 機内のモニターでは、問答を続けるガーリオンとイボチのビーコンが再び動き始めている。アマネラは彼等の行動再開に合わせるように自身も機体の操作を始めた。


「そいじゃ、何時でも出せるようにしておくから荷物の回収ヨロシクね、お二人さん」


 宇宙船発進前の計器チェックは、つい今しがたまで行っていた計器類の点検で完了してしまっている。ともなればガーリオン達に宣言した発進準備も手早く終わってしまうもので、早々に準備を済ませてしまったアマネラは早速暇になった。


 手持ち無沙汰を紛らわすように、ラジオのチャンネルを変えようと伸ばした彼女の手がインカム越しに再び鳴り響いた銃声にビクリと止まる。


「ほい、本日何度目かの交戦開始だ。なんだな、ディエゴ勾留の予測地点にゃあだいたい海賊どもがいるな」


 銃撃戦が起きている割りにはのんびりした調子のガーリオンの声に、アマネラが小さく安堵の息を吐く。どうやら二人とも無事らしい。


「今度はちゃんとディエゴのいる場所を聞き出せるようにしてよ。このままじゃ、ホントに連邦保安局の船団が来ちゃう」


「それについてはもう安心。喜べ、目標発見だ。今、族の一人がディエゴ坊っちゃんのこめかみに銃口突き付けてんのが見えた」


「素直に喜べない状況ね、それ」


 会話の最中インカムから聞こえていた銃声が止み、ガーリオン達にがなる海賊の声が聞こえてくる。生憎アマネラには全ては聞き取れなかったが、漏れ聞こえた言葉で概ね理解はできた。


 即ち、人質を殺されたくなければ武器を捨てて投降しろ。


「ホント喜べない状況ね、これ」


「やれやれ仕方ナイ。ガーリオン、時間稼ぎをお願いシマス」


 言うが早いかイボチのビーコンが銃撃戦の位置から離れ、隣の部屋へと移動する。


「ちょ、おいおい、こっちの返事くらい待っていけって……あぁもう、しゃーねぇなぁ。あー、聞けぇおまえらぁ! もうすぐ宇宙連邦保安局の船団がこの小惑星を制圧しに来やがる。人質を置いてさっさと逃げた方がいいぞー! え? 何? あー違う違う、俺達は保安局の先遣隊ってわけじゃねぇって! 言うなれば平和の使者……違うわ! おまえらの同業なんかじゃねぇ!」


 イボチの言うところの時間稼ぎなのだろう。ガーリオンが宇宙達に向かって声を張る。インカムから鳴り響く耳を打つようながなり声にアマネラは眉をしかめた。


「一応断っておくが、俺達は暴力沙汰は好まん! 穏便に話し合いといこうじゃねぇか!」


「ここまで会う奴会う奴シメといてよく言うわ……」


「うっせぃ、チャチャ入れんじゃねぇってんだ。あーいやこっちの独り言だ、気にすんな!」


 小声でアマネラに返したガーリオンがまた声を張る。


「さっきも言ったが俺達は保安局の先遣隊じゃねぇし保安局の犬でもねぇ! その人質さえ寄越してくれりゃあ、おまえ達を保安局に売るような真似もしねぇ! ここは穏便に済まそうじゃあねぇか! こんなことしてちゃあ、故郷のご両親も泣いちまうぞ! 何? 曾祖父さんの代から宇宙海賊稼業だぁ? おいおい、だったら尚更じゃねぇか! こんなケチ臭い真似してちゃあ先代先々代が泣いちまうぞ! 筋金入りの宇宙海賊様だってんなら、保安局の奴等に噛みつくくらいの威勢を見せちゃあどうだ!」


 捲し立てるラヒタ人の威勢に気圧されたのか、彼の発言に銃声が返されることはなかった。もとい、ガーリオンの講釈がどうこう以前に、宇宙海賊達には彼の発言を審議する余裕がなくなっていた。


「命が惜しけレバこちらの指示に従って下サイ。まず銃を下ろしまショウ。あぁ、ゆっくりとデスヨ」


 インカムに流れるイボチの言葉は、当然アマネラやガーリオンに向けられたものではない。


 アマネラの眺めるモニター画面。ガーリオンが入り口に立つ部屋の中、ディエゴを人質に籠城していた宇宙海賊達のさらに奥に、イボチのビーコンが点灯している。


 火星人の触手の数は個体差はあるが、成人とされる年代ならば三十本余り。その触手一つ一つに銃を持ったイボチが敵陣の背後に回れば、立て籠る海賊達の後頭部に銃口を突き付けることも苦ではない。


「イボチ、ダクト通るの早かったわね」


「紳士デスカラ」


 柔軟な身体を活かして隣室の通気ダクトから海賊達のいる部屋へ。イボチの一連の行動を随時モニターで眺めていたアマネラが感心して言うと、イボチはさも当然と返す。いや、紳士は関係無いだろう。


「やれやれ、紳士な火星人様を怒らすから……というわけで、おまえら銃を捨ててとっとと人質を離せ! でないとそこのシルクハットよろしく頭に穴が開いちまうぞ!」


 ガーリオンのとどめの警告に観念した宇宙海賊達は、しぶしぶ武器を投げ捨てディエゴを解放した。


「オーライ、よくぞ御無事で。会いたかったぜディエゴ坊っちゃん」


「助けに来てくれてありがとう。でも、坊っちゃん呼びは止めてくれないか」


 ガーリオンの軽口に感謝と苦言を返すディエゴ青年。元来の性格か長らくの拘束からか、インカム越しに聞く彼の声は覇気に欠ける。


「そいじゃ、そいつらの見張りと拘束は頼むわ、イボチ! 俺はディエゴを船まで連れてく」


「承知しまシタ。私も片付き次第帰投シマス」


 ディエゴ救出作戦も撤収の行程に入り、終わりが見えてきたことに安堵するアマネラ。


 だが安堵も束の間、宇宙船の正面モニターを小惑星地図から周辺の空域に切り替えた途端、吐きかけた安堵の息を飲み込んだ。


「お二人さん、もといディエゴ入れて三人か。いや、どっちでもいいや。とにかく撤収、急いで!」


「そりゃ言われんでもそうするがよ。急にどうしたんだ、アマネラ?」


「タイムリミットが接近中よ。今のところまだ広域マップの端だけど、ヤル気満々で飛ばしてきてる」


 インカムのマイクに告げるアマネラの視線の先。周辺の広域マップ上に映っていたレーダー反応群に、データ照会の結果として宇宙連邦保安局船団の文字が表記される。


「オウ!」


「くそったれ、連邦保安局め! こういう時だけ仕事熱心になんじゃねぇってんだよ!」


 慌てる二人の声を聞きながら、アマネラはフライングパン・ゼロワンのスイッチ類を操作し船のハッチを解放した。


「発進準備もお迎えの準備も出来てるわ。あとはあなた達の仕事次第よ」


「だそうだ、急げよイボチ」


「ご心配ナク。アラカタ拘束を終えまシタので、直に合流シマスヨ」


 あまりの手際の良さに驚く声をあげる二人に「紳士デスカラ」と返すイボチ。先の海賊武装解除といい、触手の本数は伊達ではない。


 正面モニターで移動を続ける保安局の船団のレーダー反応を見るアマネラ。船団を示すマーカーの動きは早いが、ガーリオン達を回収して逃走する猶予はあると見ていいだろう。


 ただ、残念ながらイボチが拘束した海賊達からディエゴ誘拐の動機や手口を問い詰める暇は無い。彼等の目論見は何であれ、アマネラ達が逃走直後に連邦保安局が小惑星ごと綺麗さっぱり掃討する。むしろ悠長にしていては、あの世で直接彼等から理由を尋ねることになりかねない。


 余計な事を考えずに今は逃げることに専念すべき。アマネラを思案から引き戻した電子音は、フライングパン・ゼロワンのハッチが閉じた事を知らせるアナウンス音。


 抗争こそあったもののガーリオンとイボチは見事ディエゴを連れ帰った。あとは操縦者であるアマネラの仕事。


 そんな意気込みあったか否か。彼女は首を右へ左へと傾け少し強張った肩をほぐし、片手は操縦桿に手を添える。


 そこでアマネラの意思は先程とは別の疑念に立ち止まる。


 さっきの今でガーリオンが帰ってきたにしては、いくらなんでも早くはないか? ガーリオンが帰ったにしても、後に続くイボチの為にハッチは閉じないんじゃないのか? 逃走中にイボチがガーリオンと合流したのか? それならば、あの口の悪い鳥人と自称紳士火星人がインカム越しにそれとわかる会話をするんじゃないか?


 彼女の脳裏を駆ける疑問達を自ら解決するため、アマネラは正面モニターの表示を切り替えるべく操作パネルに手をかざす。そんな彼女の胸中を知ってか知らずか、一手早くアマネラの背後で操縦室の扉が開く。


 その瞬間、アマネラは躊躇無く操縦桿を倒した。

今回の出目は、二のそこそこダメージ受けつつ勝利。でした。下手に傷付けた分、却ってガーリオンがボコした気もします。ちなみにディエゴ発見までの部屋数でサイコロを振りました。一から五まではその部屋数で発見。四五は救出途中で、六なら時間切れで連邦保安局に介入されます。結果は三でギリギリ逃げ切りになりました。

この投稿ペースだとアマネラ編は年越し確定です。ままならないものですね。

さて、アマネラは操縦桿を倒しましたがどうなってしまうのか。サイコロを振りましょう。

一と二は宇宙船ぶん廻しで侵入してきた海賊撃退。三か四だと宇宙船ぶん廻しで帰ってきたガーリオン達大惨事。五と六では宇宙船ぶん廻している間に連邦保安局に撃たれる。各々偶数だと誰かが吐きます。誰が吐くかはその時にサイコロ振ります。

吐かせる意味あんのか? とも思いますが、よぎっちゃったものは仕方ない。

なんとか無事に結末に着地できますように。

そして賽は投げられる。

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