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アマネラ:4

 アマネラは宇宙服に着替え終えると、自身の持ち場である操縦席に座った。


 本音を言えば、宇宙服を着たまま宇宙船を操縦するのは服がかさばり少々苦手。出来れば普段着兼仕事着のいつも通りの服装でいたい。ただ、今回はイボチがそれを許さなかった。


「ココから先ハこの操縦室も安全デハないノデス」


 そう言って問答無用で宇宙服を着るように指示を通した。もちろん、もう一人のクルーであるガーリオンも当然そう言い渡され、一度脱いだ宇宙服に改めて羽根を収めている。


「やれやれ、ヴェスタ商会の御曹司を助けるはずがこっちが窮地に陥っちまうとはなぁ。罠に嵌めてきた海賊……確かワルイヤンっつったか? 絶対許さねぇ」


「彼等が例の小惑星に降リタという情報はヴェスタ商会に回しマシタ。ダイナ氏から宇宙連邦保安局に掛け合って我々の安全を確保シテくれれば良いのデスガ……」


「望み薄よね」


「デスネ。自力でコノ状況を乗り切らざるを得ナイデス」


 髪をまとめ直しつつあっさりと言うアマネラに、フムと唸るイボチ。唸りながらもイボチの触手達は忙しなくキーパッドを駆使して難解な計算を続けている。


「しっかし、イボチも思い切ったもんだよなぁ。そりゃあ、逃げも隠れも出来ない状況ではあったんだがよ」


 ガーリオンは呆れたような感心したような調子で言ってイボチの前に並ぶモニター群を覗いた。


 操縦一辺倒のアマネラにはもちろんのこと、ガーリオンにも理解不能な計算式やプログラム言語の羅列が並ぶモニターの中で唯一目に見えて理解できる画面が一つ。広域レーダー画像が映された画面には、自機であるフライングパン・ゼロワンと宇宙連邦保安局の船団が表示されており、船団はイボチが計算した予想進路上をこちらに向かって進行中。そして、現状停滞しているフライングパン・ゼロワンの予定進路は船団に向けて伸ばされている。


「先程も言いマシタが、保安局はこの空域一帯を改メテ捜索するでショウ。壊れたフリをしてジッとしていてもトドメを刺されるダケデス。かと言って今から全力で逃げても追跡サレレバ燃料の残量で負けマス」


「まあ、イージーキャメルを追うのに結構飛ばしたからね。追いかけっこの最中にガス欠するわ」


 イボチの説明に燃料メーターを一瞥したアマネラが同意する。


「船団をギリギリまで引き寄せた上で煙幕を張って猛ダッシュで突貫。あちらさんが体勢を立て直して反転して追跡を始める迄に逃げ切る。他人事として聞きゃあ馬鹿なんじゃないかと思うような作戦だな」


「私もソウ思いマス」


「てめぇで言ってりゃ世話ねぇな」


 呆れ笑いのガーリオン。乾いた笑いを聞きながらイボチは触手で頭を掻いた。


「船団の予測進路カラ推奨される突入経路を算出シマシタ。モチロン状況次第でルートは変わりマスガ……。ソレもコミでアマネラの操縦ナラバ航行可能だと判断シマス」


 そう言ってイボチがキーパッドを操作すると、三人の正面モニターに周辺の空域マップが表示された。そのマップを横断するように群れて展開する宇宙連邦保安局の船団のアイコン達。そして、船団の間近に一点青く印されたフライングパン・ゼロワンのアイコン。


 マップ上の各アイコンからはイボチが予測した進路を示す赤の破線が表示されており、フライングパン・ゼロワンの破線だけが一際乱れた軌道を示していた。


 その出鱈目な線を眺めながらアマネラが唸る。


「うん、無理とは言わないわよ。誰が最初に吐くかはわからないけど」


「そんなチキンレースには乗りたかねぇなぁ」


 頭上を仰ぎ見てぼやくガーリオン。時として空を舞う事もある有翼のラヒタ人と言えども、終始アクロバット飛行を強制されてはさすがに身が持たない。


「泣き言並べてもやるしかないわよ。ほら、さっさと逃げ支度するわよ、ガーリオン」


「お生憎様だ、コンチキショー。こっちはボタン押すだけで磁気煙幕噴射するトコまで準備済ましてんだよ。後は好き勝手に愚痴らせろい」


「準備万端は流石デスガ、愚痴は控えて下サイ。もうスグ船団が行動開始線を越えマス」


 ガーリオンにそう告げるイボチの触手が指し示す先。船団の最前列がフライングパン・ゼロワンに接近しつつある。


「イボチのゴーサインでエンジン点火からトップスピードまで一気に引き上げるわ。二人共、しっかりシートに座ってないと首持ってかれるわよ」


「オウ、気を付けマショウ。ガーリオン、磁気煙幕排出用意……」


「おうさ」


 ガーリオンの応答を最後に操縦室内に広がる短くも長い沈黙。押し黙った三人は、眼前のモニターの中で動く船団のアイコンを見ながら行動開始の時機を待つ。


 やがて、船団の行方を追っていたイボチが演奏始めの指揮者よろしく触手を振り上げた。


「ガーリオン、排出開始」


「ヨッシャ!」


 危険な作戦内容を感じさせないイボチの普段通りの落ち着いた合図。指示に応じたガーリオンによってフライングパン・ゼロワンの砲身から乱射された球が宇宙船の周囲で次々に破裂する。


 そして、破裂した球の効果を示すようにアマネラ達の正面モニターに映されたレーダー画像がノイズに包まれた。


「今です、アマネラ」


「ハイな!」


 発声と共に手際良く各装置を操作していくアマネラ。磁気煙幕の中で故障機体のように静止していたフライングパン・ゼロワンは直ぐ様その息を吹き返す。


 先の宣言通りアマネラの操縦によって急速に推進力を増すフライングパン・ゼロワンは、急に機首を翻しそのまま船団に向かって飛び出した。


 スタートダッシュは一直線。展開された磁気煙幕の中にいる間はレーダーが使い物にならないが、当然保安局の船団のレーダーからも姿が消せる。宇宙船の反応消失に異変を感じて動き出す戦艦も船団の中にはいたが、他の船に情報が広がるより早くフライングパン・ゼロワンは駆け出していた。


「初手は上々。煙幕から出るぞ!」


 未だにノイズで覆われたレーダー画面と機体カメラが映し出す周辺映像を見比べながらガーリオンが叫ぶ。


 その声さえも置いていく勢いで疾走していたフライングパン・ゼロワンは直後に煙幕に包まれたエリアを飛び出した。それを証明するようにレーダー画面のノイズが消え、代わりに宇宙連邦保安局の船団を示す反応が画面を覆う。即座に各艦の照準に入った事を報せる警告音がけたたましく鳴り響いた。


 カメラとレーダーが映す機影の群れ。耳障りな警報。高速で飛行するフライングパン・ゼロワンの振動。アマネラは自身の肌にひりつく感覚を覚えて嬉しそうに笑みを浮かべる。


「おっけー、れっつだーんす……さぁ、行くわよッ!」


 言うが早いか足元のペダルを踏み込み操縦桿を傾けるアマネラ。それに呼応してフライングパン・ゼロワンは軌跡をよじらせながら急旋回した。そして、操縦室に鳴り響いた警告音が嘘ではなかった事を示すように、直前までフライングパン・ゼロワンの飛行していた軌道上を船団の機関砲の銃撃か交差する。


「そうだろうなとは思っちゃいたが、本当に警告も糞も無しの即射殺かよ」


「イエ。全く何も無かったワケデハなく通信は送られてきマシタヨ。もっとも警告デハなく『撃ち落とす』という宣戦布告デシタガ……」


「そいつは御丁寧なこったな、クソッタレめ!」


 仲間の会話を尻目に暴れ馬と化したフライングパン・ゼロワンを駆るアマネラ。


 銃砲撃の射線上に相手の僚機を入れて発砲を妨げ、四方八方機体を振って照準を逸らす。周囲に並ぶ保安局の宇宙戦艦の進路とその武装の射角の隙間を縫うようにして飛行していくルートは、丁度イボチが算出した推奨経路と今のところ合致している。


 褒めるべきは回避ルートをここまで計算しきったイボチか、その経路通り飛んでみせているアマネラか。或いは、それを可能にしたガーリオンの整備手腕。はたまたこの無茶に対応出来るフライングパン・ゼロワンの機体性能。なんにせよ驚異的な運と狂気的な飛行で船団の攻勢をぎりぎり避けていく。


「あ痛ァッ! カスッた!」


 もとい、多少被弾しながらも避けていく。


「鉄火場でこんだけ踊り狂っておいて駆動系に当ててねぇだけ立派だよ」


 周辺カメラのモニターを派手に彩る幾重もの火線と破裂する火花の中、ガーリオンは座席ごと振り回されながらも機体の損失状態の確認を続けていた。


 幸いにも大きな損傷の無い状態で早くも船団の半ばまで食い込んだ。ここまでの道程を鑑みれば、船団の残り半分を突っ切るのも不可能ではない。


 もっとも、相手がただの烏合の衆なら、の話なのだが……。


「こいつぁ、船団の両翼の動きが予想以上に早ぇな」


 レーダー画面に目を向けた鳥人の表情が曇る。同じくレーダー画面を見ていた火星人も困ったように触手で頭を掻いた。


「迂闊デシタ。相手方の指揮能力を些か下に見ていたヨウデス」


「いやいや、どっちかって言ったらうちらが下に見てたんじゃなくて、相手が上だったって感じじゃない? 実際さっきから攻撃の詰め方がハンパないんよ、ホント」


 その半端ない攻勢を辛うじて回避し続けながら言うアマネラ。スリルに酔ったように口元に笑みを浮かべて頬を紅潮させているが、途切れさせられない集中と暴れるような操縦で湧き出ている汗が尋常ではない。


 彼女の余裕の無い姿と想定より早い保安局船団の立て直しに、イボチは小さく唸った。


 ここまで被害軽微で済んではいるが、危険な綱渡りな事に変わりはない。そして、残り半分を切っていたはずの綱はフライングパン・ゼロワンを包囲するように展開していく保安局の各艦によってどんどん引き伸ばされており、辛うじてアマネラが辿ってきたイボチの逃走経路は間もなく途切れてしまう。


「コレ以上は無茶ではなく無理デスネ。作戦を変更シマス」


「異論は無ぇがトンズラ以外に出来ることがあんのか? 徹底抗戦なんぞ今以上の無謀だぞ」


 反論したものの言葉の通り、ガーリオンに異論が無い。鳥人はフライングパンのブレーン役の真意を計りかね、それからイボチが画面に指し示したそれに愕然とした。


「イボチ、おまえコレ! 船団の旗艦じゃねぇか! 打つ手が無ぇからってカミカゼでもする気かよ!」


 危機的状況に狂気に陥ったのかと慌てるガーリオンだが、イボチはキーパッドを操作しながらそうではないと触手を振って否定する。


「私は至って正気デス」


「イカれた野郎は決まってそう言い返すんだよ!」


「船団の包囲が想定ヨリ早いデス。でも包囲されたナラバ、開けさせレバ良いと思ったノデス」


「親玉を人質に取ろうってコト? ここまでのルート取りも滅茶苦茶だったけど、代案も大概滅茶苦茶だわ」


 そうボヤキながらもアマネラの操縦は元々イボチが描いていた突入経路から外れ、保安局の旗艦を目指し進み始めている。


「迅速な方向転換痛み入りマス、アマネラ。ガーリオン、アンカー用意ヲ。アトは当たりが出れば成功率が上がるノデスガ……」


「当たり?」


 ガーリオンは思わずイボチの言葉に鸚鵡返しに問いながらも、指示通りアンカー射出の準備していく。対するイボチは彼の問いに答えるより早く目的の物をレーダー画面から見付けると、触手でそれを指し示した。


「当たりデス。アマネラ、アレに当たりマショウ」


「「はあっ?!」」


 イボチの発言に、流石に今度こそ気が狂ったかと声を上げる二人。皮肉にもそれがアマネラの手を止めさせ、イボチが当たりと呼んだ物の直撃を誘うことになった。


 一瞬の当惑をついて襲い掛かった一撃によってフライングパン・ゼロワンの機体に衝撃が走る。そして、衝撃と同時に船を襲うもう一つの一撃。


「モニターが……電磁麻痺弾か!」


 当たりの一撃と同時に真っ黒になったモニター群と、同じく沈黙した機体の推進機。それから何が着弾したのかガーリオンは悟った。悟ったうえで、イボチが当たりと呼んだ意味も察した。


「まあ、俺達にとっちゃあ当たりだわな……」


「のんびりシテいないでシステムの再起動ヲ急いで下サイ、ガーリオン」


 ありったけの触手でフライングパン・ゼロワンの機器類を操作するイボチ。


 先のイージーキャメル・カスタムがそうであったように電磁麻痺弾を受けた機体は制御システムが停止する。復旧手順は宇宙船によって若干の差があるものの、総じて時間はかかる。世間一般の宇宙船は大なり小なり自動制御システムを積んでいる以上この沈黙の時間は免れない。


 宇宙船を駆る物達からすればこれは至って一般的で常識的な事で、宇宙連邦保安局の船団もまたこの常識の中にある。


 ここで一応宇宙連邦保安局の乗組員を擁護しておくと、彼等は決して慢心していたわけではない。寧ろ船団の集中砲火を嘲笑うように飛び回っていたフライングパン・ゼロワンを化け物として捉えて警戒さえしていた。


 そんな化け物にようやく当たったのがたまたま電磁麻痺弾だっただけで、寧ろ運良く電磁麻痺弾が当たった事をこれ幸いと、動けないフライングパン・ゼロワンに必殺の構えとばかりに各艦が銃口を向けて慎重に照準を合わせるのは自然な事なのだ。


 よもやまさかこの御時世に機体制御に自動システムを繋いでいない非常識がいるなど、それをいちいち考慮するのも非常識なほどなのだから。


「れっつろーる、ヒーハーッ!」


 掛け声と共に、不敵に笑いながら流れるような手付きでスイッチ類を操作しペダルを踏み込むアマネラ。それに合わせて寝たふりを決め込んでいたフライングパン・ゼロワンが、すぐさま飛び起きてフルスロットルでその場を飛び出した。


 機先を制された保安局の船団が慌てたように一斉砲火を試みるも撃った先に目標の船はなく、虚空に幾重もの火線が描かれていく。


「ッシャアッ! まんまと出し抜いてやったじゃねぇか!」


「喜ぶのはマダデス。火器管制のシステムが起動出来なくテハ、せっかくのアマネラの神業も水の泡デス」


 嬉々として叫ぶガーリオンを嗜めるようにイボチの触手が鳥人のモニターをペシペシと叩く。ガーリオンは言われるまでもないとそれを押し退けた。


「わかってら。旗艦に打ち込むアンカーとあわよくば仕返しの電磁麻痺弾。アマネラがゴールテープ切るまでに仕込んでみせるぜ」


「言ったわねガーリオン。最速最短で旗艦まで突っ込むわよ。土壇場で間に合いませんでしたは勘弁だからね」


「オウ、二人揃って頼もしいデスネ」


 アマネラの宣言通り、フライングパン・ゼロワンは船団の集中砲火を尻目に旗艦に向けて疾走する。


 迫り来るフライングパン・ゼロワンを迎撃せんと旗艦はもちろん周囲の船からも銃砲が轟き、無数の弾頭が機体表面のメタルブルーを掠め削っていく。その掠り傷のどれもが一手誤れば致命傷になり得た。操縦桿越しに伝わるその感覚にアマネラの動悸は早まり口元は快気につり上がる。


「旗艦ドラウド級に接近中。アマネラ、このまま艦首に向かッテ下サイ。ガーリオン、準備は出来そうデスカ?」


「弾倉は交換済み。照準機能はシステム復旧と同時に稼働できらぁ。そいつも復旧まで秒読み段階ってとこだな」


 その返答に偽り無しとばかりにガーリオンの片手はトリガーにかかっている。準備万端、あとは照準装置が起動して彼の目に撃つべき箇所を示すだけだ。


 照準ゴーグル越しに映る旗艦ドラウド級の姿を捉えていたガーリオン。その脳裏にふと懸念がよぎり、ゴーグルを外して操縦狂と化したアマネラを見る。


「なぁ、アマネラ。ドラウド級の艦首が何処だかわかってんのか?」


「任せて! 指示してくれたらそこまでぶっ飛ばすから!」


 刻一刻と旗艦ドラウド級に迫るなか、アマネラの返事に鳥人と火星人の動きが一瞬止まった。


「おい、イボチ! レーダー系のシステム復旧急げ! このままだとお構い無しに船に突っ込みかねんぞ、この暴走女は!」


「システム立ち上がりマシタ。アマネラ、正面モニターにマークを打ちマス。そちらに向かって下サイ」


 アマネラが向かうべき方向を示すべくイボチがあたふたと触手を操る。間もなくアマネラ達の正面モニターに映る旗艦の一点に青い円が印される。


「あの青いやつね!」


「違ぇッ! そいつは俺のアンカー打ち用! おまえは今点いた赤いほう!」


 ガーリオンに間違いを指摘されたものの、既にフライングパン・ゼロワンはアマネラの操縦によってアンカー狙撃点に向かって直進してしまっていた。青い円より僅かに遅れて旗艦に表示された赤丸に進路を変えるにも時既に遅く、進路を遮るように各艦からの銃撃が重なってくる。


「オウ。ここにキテ大変に厄介な状況デスネ」


 抑揚に乏しい声で傍目にわかりにくいが、その言動からどうやら困っているらしいイボチ。


 火星人が悩む間もアマネラは宇宙船を駆りつつ各モニターに視線を巡らせ、不敵に笑った。


「ダイジョブよ、イボチ! 赤マークまで行けばいいんでしょ? ガーリオン、射程入ったらアンカー打って!」


「オウ。このような状況デモ我が社のクルーは頼もシイ」


 二人のやりとりを聞きながらガーリオンが不安と諦めを混ぜた溜め息を吐く。


「やれやれ、嫌な予感しかしねぇなぁ。えぇい、なるようになれだ! 行くぞアマネラ!」


 再び照準ゴーグルを付けたガーリオンは目標が射程内に収まった瞬間トリガーを引いた。射出されたアンカーは、目標に直進していた機体の勢いも借りて寸分も狙いを狂わず旗艦ドラウド級のフレームに突き刺さる。


 アンカーを打ち出したフライングパン・ゼロワン本体はその身を翻して旗艦から離れるように旋回していく。自ら繋いだアンカーによって逃げられない状況で、アマネラのとったその軌道を見ていたガーリオンは彼女の意図を察知して叫んだ。


「やっぱりか! ろくなことしやがらねぇんだ、このアマは! イボチ、衝撃に備えとけ!」


 ガーリオンが言い切ると同時にこれまでで一番の衝撃が三人を襲う。無理もない、アンカーが限界まで伸びきったことで全力疾走していた勢いがフライングパン・ゼロワンにそのまま返ってきたのだ。


 あまりの衝撃に目を回すガーリオンとイボチを他所に、アマネラは眼前に星が舞い散るなか感覚だけで操縦桿を操りペダルを踏む。


 アンカーに引っ張られたフライングパン・ゼロワンは本来出来得ない軌道で旋回しながら旗艦ドラウド級に接近していった。


 正気の沙汰ではない。まさに狂気の沙汰と言える非常識な飛行経路で銃撃を回避していたフライングパン・ゼロワン。保安局の船団は旗艦に肉薄したその機体を旗艦ごと撃つわけにもいかず銃砲を沈黙させ見守るよりなかった。


 フライングパン・ゼロワンは旗艦ドラウド級と衝突する寸前に推進機の逆噴射と操舵で直撃を避ける。尚勢いの収まらない宇宙船は火花を散らしながら旗艦の表面を滑らせて漸く動きを止めた。


「ど、どうよ……。お望みの、マーク位置……艦首まで、来たわよ」


 宇宙船の停止と共にアドレナリンも止まったのか、肩で息をしながら疲弊した表情でアマネラが告げる。目を覚ましたガーリオンは頭を振るとゲッソリとした顔でモニターをチェックする。


「こんだけやらかして誰も死んでねぇってんだから大したもんだよ、チキショーめ。あぁ、まだクラックラしやがる……。おい、イボチ。目ぇ覚ませ」


 シートにぐったりしていたイボチはふらふらと触手を振ってみせた。


「オ、オォウ……覚めてマス。でも回ってマス」


「そいつぁ御愁傷様だ。早速だが旗艦に通信を入れてくれ。『今、我々のケツは貴殿の鼻っ柱に向いている。屁をこかれたくなければ交渉に応じるように』ってな」


「言葉選びがお下品よ、ガーリオン!」


 アマネラはそう叱ると宙に浮いていたドリンクボトルを掴んでガーリオンに投げつけた。

今回の出目は六の正面突破・失敗でした。まあ、ガーリオンったらお下品。

なんとか今のところ生き延びているアマネラ達ですが誘拐どころじゃなくなっていますね。ここからどう巻き返すのか、サイコロを振って決めていきましょう。

一と二は、未解放の空域を飛んでいたアマネラ達が悪いけど、旗艦まで押し込まれた保安局も失態ということで痛み分け。三と四では、宇宙海賊の情報提供の交換条件でディエゴ救出までの猶予を確保。五と六だと、連邦保安局と共同して救出作戦開始です。

そろそろ着地点も考えていきたいのだけれど、さて……。

そして賽は投げられる。

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