アマネラ:3
『ーーお送りしました曲はアブ・ラミで『背脂Cha,Cha,Cha♪』でした。さて、ここからはリスナーさんからのお便りコーナー。まず最初のお便りは惑星ナガナシにお住まいのンジャブモさんからーー』
操縦室に流れるラジオの音声を聞き流しながら、アマネラはぼんやりと外部カメラに繋がったモニターを眺めていた。
モニターに映っているのは彼女の仲間であるラヒタ人のガーリオンと火星人のイボチ。各々宇宙服に身を包んだ彼等は、先程捕らえたばかりの宇宙船イージーキャメル・カスタムの機体表面に貼り付いたところだ。
誘拐されたディエゴと誘拐犯が乗っているであろう宇宙船を本船フライングパン・ゼロワンの電磁麻痺弾で動きを止めてアンカーで繋ぎ止めたのはいいものの、捕らえた宇宙船と通信を試みても何の音沙汰もない。
宇宙船の操縦士であるアマネラを残して、残りのクルー二人が沈黙する船の様子を探るべく向かったわけだが……。
「こちらガーリオン、今から船に入る。アマネラ、中に入った俺達が緊急信号出したらどうするかわかってんな」
アマネラの装着するインカムから響くガーリオンの声。その当人は今まさに宇宙船のハッチを開けようとしている。
「アンカーで宇宙船ごとおもいっきりブン回して、あんたたち諸ともバターにしてあげるわ」
「オウ。私の身体成分カラはバターは出来ないデスヨ」
アマネラの返答に間の抜けた悲鳴を上げる火星人。その声に鳥人の溜め息が重なる。
「ものの例えだ。いちいち真に受けんなよ、イボチ。一応振り回す前に一声かけてくれよな」
そう言いながらハッチの強制解放を試みるガーリオン。
ちなみに、アマネラの発した『何か起きたらブン回す』は冗談抜きで彼等の緊急手段である。一見突拍子もない対処法ではあるが、今のところ過去三回中三回はこれで生き延びてきたという実績がある。ついでに言えば、こんな出鱈目な方法を使う機会が過去に実際三度発生しているような仕事が彼等『フライングパン』の稼業である。
アマネラがカメラ越しに見守るなか、イボチとガーリオンによってロックが解除されハッチが口を開いた。慎重に中を伺いながら船内へと侵入するガーリオンにイボチが続く。
対してアマネラはと言えばいざという時に備えて操縦桿に手を添えてはいるが、今は他に出来ることがあるわけでなし。二人を信じて待つよりない。それでも何かするなら……。
「二人とも、中の人に失礼が無いようにね」
などと軽口混じりに二人を案じるくらいか。
「心配すんな。何せ俺達ゃあ、育ちの良い御坊っちゃまだぜ? あまりの礼儀正しさに先方様が恐れおののいちまうだろうさ」
「そうデスヨ、アマネラ。我々フライングパンの社員は紳士淑女でアルコトが雇用条件なのデスカラ」
「え? マジでか? だったらウチの採用審査ガバガバじゃねぇか」
イボチの嘘か本当かわからない言葉と、それに動じるガーリオンの声。それらがアマネラのインカムから聞こえ、その裏では二人の動く音がガサゴソと鳴り続いている。
「一発でディエゴ坊っちゃんに辿り着ければいいんだけどね……」
片手を操縦桿に添えたまま他の計器類を操作していたアマネラの口から、叶わないであろう願望が漏れる。インカムの向こうで聞き拾ったガーリオンが無理な望みだとばかりに唸って返してきた。
「生憎とそう上手くはいかなさそうだな。ここまで外れどころか人っ子一人見当たらん。イボチ、この先が操縦室で良かったか?」
「ハイ。モントイが業務用に多少船内を改装してイルようデスガ、操縦室の配置マデは変えラレナイでショウ」
「上等、最低でも操縦士がいる筈だ。締め上げて事情を聞こうじゃねぇか」
ガーリオンの声の背後で鳴った銃を構える音がやけにはっきりとアマネラの耳に響く。
数秒の静寂の後、アマネラの耳に届くドアロックの外れる電子音とドアのスライド音。そこに重なるように響くガーリオン達の部屋に駆け込む音。そして再び訪れる静寂。
「オウ……」「ああ、畜生……」
イボチとガーリオンの声に操縦桿を持つアマネラの手に力が入る。
「回す?」
「止せ、止めろ! 回すんじゃねぇ!」
アマネラの問いにガーリオンの慌てた声がそれを拒んだ。
「なぁに? いったい何があったっての?」
「問題ありまセン。状況的ニハ私達が考慮してイタ可能性の一つデスヨ」
「問題どころか、結局船内に誰もいやしねぇ。俺達ゃあ勇敢にも最新鋭の自動航行と自動迎撃装置様相手にドンパチやりあっていただけってわけだ」
ガーリオン達が突入した操縦室は無人で、自動航行の状態を示すメインモニターには外部衝撃による緊急停止の異常表示。状況からこの異常を作ったのはアマネラ達で間違いないだろう。
「あぁもう! なんでもかんでも自動システムなんかに頼っちゃうから、こんな面倒な手間が増えちゃうのよ!」
アマネラは心から忌々しいと叫び、操縦桿から放した手で帽子ごと髪を掻きむしる。
「おまえさんの考えも大概偏っているとは思うが、今だけは同感だ。ったく、ディエゴ達が何処に消えたか手がかり探しからやり直しだな」
「そうデスネ。ひとまズ、絞り込みカラ始めまショウ」
ガーリオンの言葉に同意を示したイボチ。それから何やらキーパッドを操作する音がインカム越しにアマネラの耳に響いてくる。
「絞り込みねぇ……。航行記録でも引っ張ってるのかしら?」
「御明察の通りだ。流石は飛行士やってるだけはあらぁな。まあ、参考になるかどうかは中身を見てみんことにゃあ、わからんが……」
「記録は参考にナルト思いマスヨ。誘拐事件の発生後サササキ・スペースポートを出タ船は五機。その内ギモーブに向けて出発シタのは私達とコノ船だけデス」
「とかなんとか言っちゃって、実はこっちは陽動で残りの三機のどれかが本命とかってコトは無いわよね」
アマネラの指摘にイボチは「否定はシマセン」と言いつつ尚もキー操作を続ける。
「残りの三機、並びにサササキ・スペースポートにもダイナの手の者が捜索に出てイマス。ソチラに進展が見られレバこちらニモ連絡が入る手筈デス。アマネラ、通信に何か反応はありマスカ?」
そう言われてアマネラは眼前のモニター郡の一つに視線を向ける。
この宇宙船フライングパン・ゼロワンの通信系統を管理する端末の処理情報が表示された画面。今現在ガーリオン達と会話している無線状況はもちろん良好。外部との通信状況も問題無し。その外部通信の枠に、新着のメッセージを報せるアイコンを見付けた。
「ん? 一件連絡が入って……いや、これはただの最新ニュースの案内か。イボチが言う他からの連絡は無……あ、ヤバ」
「なんだ。どうした?」
アマネラの一声にガーリオンが問う。彼女が思わずそれを吐露した理由は、誘拐騒動に関係無しと切り捨てた新着のニュースにあった。
「臨時ニュース。宇宙連邦保安局の連中がこっちに向かってる。なんでも、宇宙海賊の残党がこの空域にいるってたれ込みがあったらしいわよ」
インカム越しにガーリオンとイボチの慌てる様子が伺えた。
無理もない。現状のアマネラ達は個人運送の宇宙船に電磁麻痺弾を撃ち込んで停止させた挙げ句、アンカーで拘束した上に船内へ踏み入っている。相手は誘拐犯の可能性が高く、しかもこちらも危うく迎撃されかけて応戦した上での事なのだか、事情を知らない者が今のアマネラ達を見れば彼女達こそが宇宙海賊に見えることだろう。
事情を話したところで宇宙連邦保安局が素直に聞き入れてくれるとも思えない。寧ろ、言い逃れする暇さえ与えられずに船を撃ち落とされかねない。臨時ニュースを聞いたガーリオンとイボチが慌てたくなるのも良くわかる。
「ったく、こうもタイミング良く騎兵隊御一行様の御出陣とは偶然なわけねぇよな。俺達ゃまんまと誘拐犯どもに嵌められたわけだ、くそったれめ」
撤収準備に取りかかっているのだろう。悪態をつくガーリオンの声の後ろがガサゴソと騒々しい。
「ディエゴ君誘拐の件について説明すれば聞いてもらえたりは……」
「連中は宇宙海賊掃討が最優先だ。もし誘拐犯が宇宙海賊の残党ってんなら、人質ごと容赦なく撃つだろうさ」
「だよねぇ。ディエゴ君も可哀想に」
「可哀想は俺達もだ。事情がどうあれこっちは一般にまだ開放されていなかった空域に飛び込んじまってんだ。不審な船、それも宇宙海賊がいるかもしれん空域となりゃあ、奴等なら問答無用で撃ち落として当然ってもんだ。触らぬ神に祟りなし。三十六計逃げるが勝ちさね」
「了解したわ。こっちは直ぐに出られるようにしているから、なる早で戻ってきてよ」
言いながらアマネラは改めて計器類を確認しなおす。機体はアマネラの操作一つで即座に動く言わばアイドリング状態。レーダーで周囲を見ても連邦保安局はもちろん不審な機影は無し。ついでに火器管制もいつでも発射可能。
「お待タセしまシタ。ガーリオン、こちらヲお願いシマス。アマネラ、ガーリオンが戻り次第ギモーブ方面へ逃げテ下サイ。オット、くれぐれもアンカーは外さナイデ下サイネ」
「ガーリオンが戻ったらって……イボチはどうすんのさ」
「コノ船の停止シタ航行システムを再起動シマシタ。コレカラ航行予定進路を修正シテ宇宙連邦保安局の船団へのオトリにシテ、私達の逃走時間ヲ稼ぎマス」
「航路の修正ったって、そんなことする時間あるの?」
アマネラの脳裏に過った疑問がそのまま口に出る。
イボチがその手の作業に通じている事はアマネラも承知しているし、そもそもフライングパンの乗組員でその手の作業が一番得意なのがイボチだという事も充分理解している。
だからと言って、航空チケットをキャンセルして別便を取り直すのとはわけが違う。イージーキャメル・カスタムの所有者モントイ氏ならばまだしも、赤の他人が航行システムに介入して中身を細工するのは手間と時間がかかる作業だ。
「コチラのシステムでも先程ノ臨時ニュースを確認シマシタ。宇宙連邦保安局の船団はサササキ・スペースポート方面カラ進行してイマス。ギモーブ方向へ迎えバ時間は稼げるデショウ」
「幸か不幸か周りは大小のデブリだらけだ。極端な動きを見せなけりゃ保安局の広域レーダーにも引っ掛からんだろうさ。よぅし、帰ったぞアマネラ」
ガーリオンの帰還を証明するように、モニター上では彼を迎え入れるべく開けていたハッチの開放表示が閉鎖表示へと切り替わる。
「それじゃ、出発するわよイボチ」
「了解シマシタ。なるベク揺らさナイデ下サイネ」
「振り?」
「オウ! 違うノデス!」
「お前ら仲良しやってるのはいいが、さっさと出ようぜ。保安局の奴らが来んのも時間の問題だろ?」
呆れたような調子でそう言いながらガーリオンが操縦室に入ってくる。彼はやれやれとラヒタ人専用の宇宙服を脱ぎ、ぺちゃんこになった羽毛を直すべく身を捻った。
「心配しなくても操縦はキッチリやってるわ。それより、操縦室の中で羽根撒き散らさないでよ」
アマネラの言葉通り宇宙船は加速を感じさせない巧みな操作でスルスルと前へ進んでいる。
「心配しなくてもほいほい羽根が抜けるほど老けこんでねぇんだよ、俺は」
ガーリオンは自分の席にどかりと座り肩をほぐすように両翼をわさわさ回しているが羽根の一つも舞ってはいない。彼は一息つくと、ポケットからデータチップを摘まみ出して手元の電子機器に差し込んだ。
宇宙船の操縦一辺倒のアマネラとは違ってこの手の作業はガーリオンも一応出来る側の人員である。彼がキーパッドを操作していくと手元のモニターに周辺空域一帯のマップと不規則な曲線が展開された。
「よぅし、イージーキャメルのお散歩記録出せたぞ。俺達にじゃれついてた分までしっかり残ってらぁ」
前面から後ろへと流れていく宇宙空間。それを映す正面メインモニターの端にガーリオンの手元のモニターと同じ画面が映し出される。少し違うのは、不規則な曲線上を赤い丸がゆっくりとなぞっているというところ。
「この赤丸があの船ってコト?」
「おうさ。航行記録の逆回しなんだが……流石に等速じゃ時間がかかるな」
ガーリオンのキー操作で変則軌道上を走る赤丸の速度が二倍四倍と上がっていく。せわしなく動いていた赤丸であったが、ある一点で突然その動きを止めた。
「うん?」
そう声を漏らしたのはアマネラかガーリオンか。二人が見守るなか止まっていたマーカーは再び動きだし、サササキ・スペースポートの表示に真っ直ぐ向かっていく。
「こいつぁ……」
「そういうコトなんでしょね……」
ガーリオンがマーカーの停止した座標を調べるべく更にキーパッドを操作する。
「小惑星……と言っても名前も付けられてねぇ。登録番号がSG5103429。昔、宇宙連邦保安局が搬送用中継拠点に使おうとしてお流れになってる」
「ソコでディエゴと誘拐犯が降リタト思ってよいでショウ」
二人の会話を聞いていたらしいイボチの推測がアマネラ達のインカムに響く。無論二人も同じ見解だ。
「全会一致だな。イボチを回収次第ここに向かってみるとして……そっちはどうだ、イボチ。いい加減この場から離れんと保安局の船団のレーダー網に引っ掛かるぞ」
「モウ終わりマス。私を回収スル用意をお願いシマ……オウ」
作業終了を告げかけたイボチが困り声をあげる。
「どうしたの?」
「噂をスレバ、デス。コチラのレーダーで宇宙連邦保安局の船団を検知シマシタ」
「こっちのレーダーは何の反応も無し、か。そっちの精度が良いのか検出範囲が広いのか。どのみち悠長にはしとれんわな。急げよ、イボチ」
「合点デス」
ガーリオンに急かされるように船からの脱出を始めるイボチ。アマネラ達がインカムに響く雑音から火星人の触手を蠢かせている姿を連想するなか、アマネラの手元の機器から警告音が鳴った。
彼女が何事かと視線を向けた先、フライングパン・ゼロワンを中心とした広域レーダーのモニター画面の端に先程までは存在しなかった無数の影か映されている。ガーリオンもその映像を見たのだろう。忌々しいとばかりに舌打ちをする。
「流星群……なわけないよねぇ」
「んなわけあるかい。こいつぁもう保安局の船団で間違いないだろうさ。加えて言うなら、俺達二機が検知出来てんだから、あちらさんも俺達の機影は捉えたと思ったほうがいい」
「宇宙船か小惑星か判別サレル前に逃げておきタイデスネ。ガーリオン、コチラ船ヲ脱出シマシタ。アンカーの接続ヲ切って下サイ」
「応ともさ」
イボチの合図でガーリオンが装置を操作し、イージーキャメル・カスタムに繋がっていたアンカーが外れる。固定を失った宇宙船は慣性に促されるまま宇宙空間を漂い始めた。
アマネラが外部カメラのモニターに視線を向けると、海を回遊するクラゲよろしくこちらに向かってくるイボチの姿が映っていた。そんなクラゲ星人、もとい火星人イボチの背後で浮遊していたイージーキャメル・カスタムの推進機が静かに動き始める。
「イージーキャメル・カスタムの運転再開を確認した。イボチよ、さっさと帰ってこねぇとそいつの出力に巻き込まれるぞ」
「オウ! モー少し、モー少しデ到着デス!」
ジタバタと宇宙空間を掻き分けて進むイボチがようやくフライングパン・ゼロワンのハッチに辿り着き、程無くしてイージーキャメル・カスタムの推進機が出力を上げていく。
「時間バッチリ計算通りデスネ」
イボチのその一言に、その割にはさっき慌ててなかったか? と内心ツッコむアマネラとガーリオン。そうと知らずか察した上でか、イボチは宇宙連邦保安局の船団がいる方角へと飛び立つイージーキャメル・カスタムに触手を振って見送ると悠々と船内へと帰還した。
「そいじゃ、あの最新鋭自動制御様が保安局にちょっかいかけている間に私達はこの空域から一時離脱ね」
「慌ててスピード上げるなよ。今の俺達は十中八九あっちのレーダーの範囲内なんだ。変な動きしたら即座に補足されちまう。ここは慣性で漂っている小惑星かデブリを装って抜き足差し足こそーっと……」
「簡単に言ってくれるんだから……」
ガーリオンの指示にやれやれと頭を振るアマネラ。その間も彼女の手足は操縦桿とフットペダルの微調整を行っている。
「やっぱりこういう微調整だと細かくブレるわね」
各計器に視線を飛ばしながら操縦を続けているアマネラの口から思わず操縦感覚の感想がこぼれ出た。
「そりゃあ最終調整する前に飛び出しちまったんだから当然さね。セミオートの補助を付けりゃあ少しは足しになるんだが……」
「やーよ。そこを自分の手で操ってこその操縦だもの」
「コノ一件が片付き次第、船屋オサフネにフライングパン・ゼロワンを持っていきまショウ」
操縦室に入ってくるなり二人に話しかけるイボチ。それを聞いたガーリオンが、操縦に集中するアマネラの分も肩代わりしたと言わんばかりに大袈裟に歓喜の声を上げた。
「オサフネの親方んトコか! このところ御無沙汰してたからなぁ。久々にあの匠の妙技をお目にかかれるとはそいつぁ眼福、ありがてぇ!」
「喜ぶの早すぎよ、ガーリオン。それもこれもまずはここを逃げ切ってからって……あ、やば、くしゃみ出そう」
鼻の奥のむず痒さに堪えるように顔をしかめるアマネラ。モニター画面に反射する彼女の変顔に、今度は大袈裟に頭を振るガーリオン。
「おいおい。くしゃみ一つで操縦ミスるとか、んな古典的な喜劇ネタはいらねぇぞ」
「オウ! まずいデス!」
「イボチ、おまえもかよ!」
「違うノデス。宇宙連邦保安局の船団に接近したオトリがオトリにならなかったノデス」
イボチがそう言いながら触手で指し示したモニターのレーダー画像。アマネラ達の元から飛び立ったイージーキャメル・カスタム。その軌道を示す赤線が真っ直ぐ伸びた先にいるのが宇宙連邦保安局の船団だ。ただ赤線は保安局の船団の直前で途切れており、途切れた位置のバツ印とロストの文字がイージーキャメル・カスタムに何が起きたかを推察させた。
「マジでか?! 見敵必殺ったって容赦ないにも程度があんだろ!」
「私、あの迎撃システム相手に結構手を焼いたんだけどなぁ……」
瞬殺されたイージーキャメル・カスタムのロスト表示に苦い笑いを浮かべるアマネラ。
「お気にナサラズ、アマネラ。彼等は海賊討伐ヲ目的とシタ宇宙戦艦。コチラは民間企業の飛行船デス。殺意モ武装モ比較するヨウなレベルではアリマセン」
慰めにも聞こえるイボチの言葉はその実ただ純粋な戦力比較。戦闘を第一としないフライングパン・ゼロワンに喧嘩の強さを問う時点でお門違いな話。
「まぁ、正面切って当たりゃあどうなるかは良くわかったな。モントイのオッサンにゃ感謝だな。あの船が保険に入ってるのを祈るばかりだ」
「オジサンの心配より私達の心配をしようよ。なんか保安局の船って、こっちに向かってんじゃない? 私、これ間に合わないと思うんだけど……」
アマネラが慎重な操縦を続けながらチラリとレーダー画像を見て言う。
宇宙連邦保安局の船団は先程までロスト表示が出ていた地点を乗り越えてきており、そのままの進路で考えるなら船団の到達地点はアマネラ達がイージーキャメル・カスタムと別れた場所だ。
身を隠しながらこそこそと動いているフライングパン・ゼロワンに対し、宇宙海賊ぶっ飛ばすの勢いで突っ走る宇宙連邦保安局船団。その距離は目に見えて縮まってきている。船団が目標地点に到達後、その勢いのまま各船が周囲に展開すればアマネラの指摘通り追い付かれるだろう。
「俺もアマネラと同意見だ。イージーキャメルが連中を引っ掻き廻してくれてりゃ逃げる時間もあったんだろうが……。なぁ、イボチ。いっそのことフルスロットルでトンズラするか? でなけりゃ小惑星にへばりついて死んだ振りするか」
どちらを選んでも付いて回る大きなリスクに、提案した当のガーリオンも表情はすぐれない。提案されたイボチもまた当然リスクは心得ている。
「このフライングパンのボスはあなただわ、イボチ。私もガーリオンもあなたの判断に従う」
「オウ、コレは責任重大デスネェ……」
イボチはレーダー画像を見ながら触手で頭を掻いた。
今回の出目は六の宇宙連邦保安局強硬派の残党狩りでした。
ちなみに、作中の囮作戦の成功判定を行いました。奇数で成功、偶数で失敗。結果は本文の通りです。出目は二でした。
誘拐犯の罠で窮地に陥ってしまったアマネラ達がここからどうなるのか。早速サイコロを振って決めていきましょう。
一と二が死んだ振り作戦。三と四がアクセル全開で逃避行。五と六が意表を突いて連邦の船団を正面から突っ切ります。そして、各々奇数が成功で偶数が失敗とします。と、しますが……。これ、六引いたらアウトじゃん。
果たしてアマネラ達は無事に生き残れるのか。そして、伏せている二話目の出目が公表できるところまで話をすすめられるのか。
そして賽は投げられる。