血に塗れた旅の末
おはようございます。
ある男の最後の大喧嘩のお話です。
山の奥、人が入らぬような天狗の領域。
そこにポツンとその一軒家が建っていた。
その家には一人の翁が住んでおり、秘境にてひっそりと生きていた。
来る日も来る日も茶を啜り、ここで鳥の声を聞いている。
何日も、何日もこうしているが彼は花の揺らめきを、鳥の鳴き声を、風の匂いを、月の動きを飽きることなく楽しんで生きてきた。
「何だか今日は、騒がしいな」
何処か忙しない鳥や風の匂いからこの山に何かが起こっていることを彼は悟った。
茶の入ったコップを置くと、杖を手元に近づける。
そうして聞こえてきた荒らしい足音の方へと目をやった。
「お主か。通りで騒がしいと思ったわ」
「佐藤」
「獣が唸るように呼ばんでも聞こえとるわ。どうした、今日は機嫌が悪いようだな」
やってきたのは見目麗しい令嬢としか言いようのない女性。
星の輝きのような白い髪を激しく揺らして彼を見つめている。
彼女の真紅の眼が彼を射殺さんとばかりに輝いている。
佐藤と呼ばれた彼はその並々ならぬ様子を見て呆れるように息を吐き、そして笑った。
聞き分けのない孫を見るかのように困ったように笑っている。
「お前、もうすぐだろ」
「何が、と聞くのは野暮か。そうだ。もうすぐだ」
野生味あふれる笑みで彼はいう。
深く皺の刻まれた顔であるが、彼に弱々しいという言葉は似合わないほどの迫力である。
その顔を受けて女性は強く歯を食いしばる。
そして鎖が流れるように止めることのできないように叫び話した。
「何故お前はそう笑えるんだ。死にたいのか。人間なら……生きたいというべきじゃないのか」
女性はそう言う。懇願にも似た悲痛な表情を浮かべている。
彼がもうすぐと言ったのは自分の察した死期であり、もうすぐ己が死ぬと彼は笑って言ったのだ。
それを聞いても彼はカッカッカと木炭を叩いたように笑うのみ。
「そう言われてもなぁ。儂はもう満足したのよ。足りた、と言うやつだな」
「……」
「そんな顔をするんじゃない。化生の類であるお主には見飽きた光景じゃろうて」
彼の言う通り彼女は物怪だ。
日本の物でなく海外の化け物で、名をヴァンパイア。日本の言葉で吸血鬼という。
長き世を生きる吸血鬼である彼女に死別などというものは数え切れないほど経験するものである。彼もそう思っていた。
だが答えはあまりにも痛ましい目の前の化生の顔である。
「……こんなもの、慣れるはずがなかろう」
「そう、か。それは申し訳ないな」
食いしばり何かに耐えるような彼女を見て彼は初めて顔を顰めた。
心の底からの謝罪であった。
彼は人を悲しませないように猫のように姿を隠した。
彼自身経験した死別というものをできるだけ少なくしたかった。
「ふふ……ふふふ、死が決まった事のように言うじゃないか」
「そうであろう?」
「私の、ヴァンパイアの能力を忘れたか」
「……それは」
「佐藤、私と同じ不死になろう」
彼女が手を差し出す。これは化生へ落ちることのできる片道切符だ。
彼の眼光が獣のように鋭くなる。好好爺のような彼が抜き身刀のような静けさをまとう。
彼女という化け物がいるとはいえ騒がしかった森が止まったように静かになった。
「いかん。儂は死ぬ」
「いかん。佐藤、生きろ」
彼は言った。このまま死ぬと。
彼女は言った。このまま生きろと。
彼らの意見は真っ向から対立し、相容れないものだった。
そして彼らは堰を切るように大笑い始めた。
かんらからから、かんらからから。
彼らは大笑いをしながらもその眼を対する者から決して離すことはなかった。
吠えるような薄ら恐ろしい笑みを浮かべながら彼らは啖呵を切った。
「ぶった斬るぞクソ蝙蝠」
「やってみろクソ爺」
彼女はその化生が化生たり得る怪力をもって彼を捕まえようとする。
この怪力に捕まってしまうと人間には脱出は不可能であろう。
肉をたやすくもぎ取る怪力、故に彼らは化け物なのだ。
「ククク……久々よな。喧嘩をするのも」
「貴様が老いぼれて詰まらなくなってしまったからな」
「いらぬ気遣いを」
銀の光が煌めき、彼を掴もうと伸ばされていた彼女の腕は地面へ落とされた。
彼が手元へ寄せていた杖に刀が隠されており、それを抜刀したのだ。
刃の光を目視したときには彼女の腕は彼女の体に接続されていなかった。
不意打ちの剣術、抜刀術。
彼はそれを極め、柄に触らせることなく命を奪う。
「あぁ、あの頃を思い出す。お前と会った時もこうやって喧嘩したよなぁ」
「あれを喧嘩というのもお前くらいよ」
「殺しても死なぬ吸血鬼が相手なんだ。喧嘩という他ないだろう」
彼らが初めて出会った時もこうして殺し合いをした。
二人にとっては青いあの頃であり、楽しかったあの頃でもある。
彼女が手を伸ばそうとした瞬間腕が切り落とされる、切り刻まれる。
不死と言えど彼女も苦痛は感じる。だがそれを意にも介さないも直様再生して彼へと掴みかかる。
だが彼はそれを許さない。いくつもの腕が再生しては落とされた。
「……鈍ってないな。あいもかわらず」
「コレだけは才があった故なぁ。積み重ねた時間と業。血のように手にへばりついておるのよ。死ぬまで取れぬ」
「これじゃ埒が開かない。久々に本気で行くぞ、人間」
「来いよ。最期の喧嘩じゃ。そうでなくては」
彼女はその体を霧のように散らしていく。
そしてその霧から眷属、つまりは蝙蝠や蟲の類、そして彼女が出でる。
先ほどの腕のような点であり、単発的な攻撃ではない。
面であり連続的であり、そして捕捉できない脈絡のない突発的な攻撃だ。
夜に溶けるようなこの攻撃、夜の支配者たる吸血鬼はその体を溶かし、使役する。
彼女が夜とさえ言われた所以だ。
「ククク、懐かしい。それに数回負けたなァ。さて儂がボケておらぬという事を知らしめてやろう」
彼は自らの家に飛び込むと、畳をひっぺがした。
そこにあるのは色とりどりの液体が入っていたり得体の知れぬ素材の入っていたりする瓶だ。
それを数本ほど掴むとそのまま床に叩きつけて乱暴に混ぜた。
そして落ちた硝子で指先を切ると滴る自分の血で床に文字を書き始める。
その間に叩きつけられた瓶に入っていたまりものような奇妙な何かが色とりどりの液体をすすっていた。
「させると思うか」
「間に合うからやってんだよ。ほれ、爆発すんぞ」
床に文字を書いていた手ではない方の手で彼はいくつかの瓶を持っていた。
それの蓋を口で外して器用に混ぜると、そのまま投げた。
混ざる二つの液体はその毒々しい色を混ざり合わせながら光り輝き、完全にその二つの色を視認できなくなると爆発した。
爆風により外へ霧ごと運ばれて彼女は妨害を失敗してしまった。
「相変わらず対処できんのだなお前は」
「それを使うのなんて今の時代お前しかおらんのでな……!」
「そうか。魔術と錬金術も担い手が少なくなったか。寂しいものだ」
魔術錬金術複合術。彼が使っているのはコレだ。
魔術を使い錬金術を成功させる。
錬金術を使い魔術を簡易的に、そして強力にする。
彼はこれを愛用し、そして魔術、錬金術共に同士と語り合った思い出の学問である。
彼が斬ることのできぬ化生に重用した。
「こうして楽に悪魔と取引も出来る素晴らしいものだというのに」
「今時悪魔と取引するのなんてお前くらいよ」
「成程。彼奴らが最近催促するのはそれが原因か」
髭を撫でながら彼は言う。
彼が悪魔と取引する際に使うのは彼が先ほど作ったホムンクルスである。
先ほど叩きつけた瓶にホムンクルスの材料が入っていたのだ。
肯定と時間のかかるこの錬金術であるが魂が宿らないという欠点こそあるものの魔術で簡易化を成功させたのだ。
魂の入っていない劣化版ではあるが、人間の肉体には変わりはないため悪魔には価値がある。
肉体を持たぬ悪魔には魂の影響のない赤子のような肉体は何物よりもほしいものだ。
「久しぶりよのこの感覚も。やはり魔力というのは良いものよ」
対価は魔力。
悪魔より受け取った力を体に巡らせ、その感覚を懐かしむように彼は笑っている。
悪魔は等価交換を望む。
故に肉体という高価なもの故彼が受け取った魔力は絶大なものとなる。
老いながらも研磨されてきた体に今絶大な魔力が宿った。
「ククク……霧となると、木気であったか?」
「チッ」
彼が床に触れる。
木造の床に彼が手をつけると、木が血管のように規則的に動き始めた。
彼が魔力を押し流しているのだ。
そして彼は足を引きずるように歩き始めた。
数歩ばかり歩くそして何かを唱え、また一度不気味な床に手を触れた。
「良かった良かった。久しぶりだが成功したようだな」
床から木が生えた。
それは早送りのようで、そして表面を突き破るように生えた木は周りの水分を吸い成長する。
魔力、そして道士の秘術を応用し、生き物のように床の木を暴れさせている。
「忌々しい。多彩すぎるのだお前は」
「殺す事にだけは、だがな。人を殺す、化け物を殺す、それだけは誰にも負けないほどにな。命を奪いということに関しては儂以上のものは見たことがない」
吸血鬼は霧としていた体を保つことが出来ずに実体化した。
この前霧としていたならば木に吸われ封印されていた事だろう。
霊力的な木というのはそれほどまでに力強い。
だが霧から無限のように出ていた眷属は未だ健在である。
彼を囲んでいる魑魅魍魎、つまりは絶体絶命と言っても間違いはない。
並の人間ならば彼らに引き裂かれることだろう。
「となると道教の道士どもはどうなった? 彼奴らは殺しても死ぬやつではあるまい」
「知らないわよ。隠れ住む事だけは得意な連中を私が見つけられるわけないじゃない」
「カカカ、それもそうか。……これもまた、懐かしい。彼奴らに雇われていた事もあったか」
「そんなことあったの?」
「ああ。死体が必要だ何だといわれてな。手切金に道士を半分ほど積み上げてやったが」
悪戯小僧のような笑みを浮かべる佐藤。
彼は隠れ住んでいる道士達とも交流があった。
彼が未熟で放浪していた頃の話だ。
強い者が居ると聞けば斬り殺しに、硬いものがあると聞けば斬り壊しに、妖あると聞けば斬り殺しにと血に塗れた旅であったが彼は良き思い出と笑う。
血の川を流し、死体でせき止め、血の池となる。
彼の人生とはまさにそれであった。
「それで、無駄話は終わりか」
「親切よな。毎回思うが」
「全力で無ければ納得させることは出来んだろう」
「ククク、なら最後に全力全身を出すとするか」
畳が光り輝く。
畳の裏に魔術式を書いていたり、札を貼っていたのだ。
それを彼は魔力を使い起動させていた。
這うように流された魔力は彼とそれをつなぐ通路足りえる。
「眷属共が少しばかり邪魔よな。消え去ると良い」
彼女含め魑魅魍魎の胸から大きな釘が突き出した。
それは後ろから貫通した物ではない。内部から突き破られた物だ。
不死身である吸血鬼は無事ではあるが眷属に過ぎない化け物には致命所だ。
「呪術……!? 貴様まだ学ぶか……ッ!」
「老後の趣味よ。面白いぞ? 罰の原理で呪術の対象を決めたり等複合すると中々応用が効く」
「……ゴホッそれだけじゃないだろう。傷の治りが遅すぎる」
「少しばかり呪いに使った釘に富士の砂を混ぜた。不死を燃やした山の砂は効くだろ?」
それに応えず彼女は胸から突き出る釘を体が抉られる事を厭わずに無理やり引き抜いた。
鮮血が彼の家にばら撒かれる。
この釘が体に接していた時のダメージのほうが深刻だと判断したのだ。
そしてそれは正しい。
「ハハ、やはり良いな。喧嘩とはやはりこうでなくては」
「だろ?」
彼女という吸血鬼はこの攻撃により今明確なダメージを受けた。
再生できる物ではない、だが致命傷でもない。不死の彼女にダメージを与えた。
だが、そのダメージこそが彼女にとって戦いという悦楽を感じさせてくれる尊きものなのだ。
「小細工も飽いた。本気で行くぞ」
「ククク、最期の大喧嘩。そうじゃなくちゃ」
彼女はその爪をもって自身の手首を切り裂いた。
そして流れ落ちる血が固まり剣を成す。血を飲み体と成す彼女らにとって血を動かすのは手足を動かすのとそう違いはない。
その剣を掴み彼女は床へと刺した。
「悪魔か。相変わらずひでぇ事しやがる」
「私の物なのだ。どう使おうと幸せだろう」
剣が刺された箇所から血のように赤い魔法陣が展開された。
これは魔法陣の中を変容させる物ではない。
魔法陣とは本来結界に用いられる物だ。
そして今回使われるのは内から外への衝撃のための結界。
つまりは外世界を守るための魔法陣。
「魔界の匂い……相変わらずひでぇ匂いだ」
彼女の剣により現の世界と魔界の壁が切り破られた。
魔界の穴から彼女は伝える。
「来い、悪魔共」
自らの配下の悪魔へ。
そして伝えられた悪魔はどれだけ嫌がろうとその言葉に逆らうことができない。
彼女が王であり、彼らが配下であるために。
剣に吸い込まれ、存在ごと剣へと習合される。
悪魔調伏。彼女は取引をする彼とは違う方法で悪魔の力を使う。
「さぁ、死なない程度に刻んでやろう」
「やってみろ下手くそ」
彼女の血、そして多数の悪魔の存在そのもので出来ているこの剣は剣に宿っている斬るという概念その物を強化している。
剣の持つ概念を極限まで強化したこの剣に物理法則は通じない。
この剣においては斬るという概念が硬いという概念に負けることはないのだ。
「何回も言ったが! 何故斬れん!」
「何回も言ったが、お主の剣が触れているのは儂の刀の風圧よ。斬らずに斬る方法なぞ幾らでもある」
刀が振られると空気が刀の形に押し出される。
これを空気がある程度の力を持つまでに振れば空気を相手の剣に当てることが出来る。
つまりは風の刃。
夢幻のようなことを彼はしている。
「ま、そんなことせずともそれごと斬ればいいんじゃが」
それを示すように彼は刀を振った。
一筋の光が世界を斬り分けた。
彼は目の前の空間を斬り、そして世界を斬った。
そしてその辻褄合わせが行われる。
彼は世界を斬った。それにそこに存在する物体は関係ない。
「相変わらず遅いの。遅すぎて欠伸が出るわ」
彼女の剣はおろか彼女の首、そして遥か彼方にある雲が綺麗過ぎるほどに斬られた。
「ちくしょう……ちくしょう」
首から綺麗に斬られ、彼女は再生に時間がかかる。
故に彼女は首を斬らせない。腕や足、胴体位ならば直ぐ様再生できるが、首を斬られた。
しかも斬られただけなら良いが完全に断たれた。
この事実が示すのは接続が完全に切れているのだ。
彼女の頭と倒れようとしている彼女の体との間には何の縁も残されていないのだ。
くっつける事も叶わない。
「カカカ、儂の勝ちよ」
「……みたい、だな」
「鬼の涙なぞ長く生きたが初めて見る」
「良かったな。最後にこんな珍しいもの見れて」
「カカカ、見たくなかったわこんなもの。……見たく、なかったわ」
彼は転がる彼女の首を掴み、縁側へと持っていく。
そして腰掛け、横に置いた。
彼の気配も穏やかになり、血みどろではあるが彼の家に平穏が訪れた。
「ま、今世が最後とは限らん。お主にゃ時間はまだあるじゃろ」
「記憶が無くてもか」
「カカカ、儂は魂に従い生きてきた。記憶なんぞ無くとも、な」
「……」
その言葉を聞いて彼女は押し黙る。
彼は風が安らかに吹き出したのを見て顔を綻ばせる。
風のように、彼が彼であるために生きてきた。そんな人生を彼は静かに振り返っていた。
「おい」
「……ん?」
彼が降り向くと彼女が体を再生し、首をつかもうと飛んできていた。
彼は驚いた。
少なくとももう少しは再生に時間がかかると思っていたからだ。
だが、それくらいの驚愕で体を硬直させるほど彼は未熟ではない。
直ぐ様刀を振ろうと手に力を入れた。
だが、それは出来なかった。
彼は長き時を修練に当てた超人とも言うべき人間である。
だがその前に長く生きた翁である。
動かそうとした瞬間体に激痛が走り、硬直してしまった。
「……カカ……ククク……ハハハハハ! まさか、最後の最後に負けるとは。予想出来なんだ」
彼は彼女に押し倒され、首を掴まれていた。
幾ら達人である彼もこの状態から怪力を誇る吸血鬼に勝てる道理はない。
これは決定的なまでの詰みというやつだ。
「何故斬らなかった」
「ククク、見よ。この腕を」
彼は腕の袖を捲って見せた。
そこには札がいくつも貼られており、彼の腕自体は枯れ木のようで今にも折れてしまいそうな弱々しいものであった。
そして微かに震えており彼の体に限界が迎えていることがわかる。
「これは……」
「僵尸の札に近い。この老いぼれた体を無理やり動かすための札よ」
僵尸、キョンシー。道士が死体を動かす時に使う術である。
本当は擬似魂魄のような物も使い動かすのだが、今回は本物の死体ではないため使っていない。
あくまで神経や筋肉の強化として使っているのだ。
だがその負担は計り知れない。
「こんな事せずとも貴様は」
「応ともよ。だが全力じゃねぇだろ」
この札が無くとも彼の剣術に翳りはない。
知識に翳りはない。
勝つことはできる。だが、全力ではない。
最後の一撃はこの札の力がなければきっと打つことはかなわなかっただろう。
故に彼はこの術を自らの体に施した。
だがこの術は彼の体に絶大な負担を掛ける。
故に最後の最後に彼の体は耐え切れなかった。
「ま、そのせいで負けちまったがな」
「…………いいのか」
「あん? 良いぜ。散々人様ぶっ殺してきて最後の最後に嫌なんて言うかよ。俺は負けたんだ。やりたきゃやれ」
彼の人生は二言で表せる。
勝った。殺した。
獣の法で生きた彼だからこそ獣の法を拒絶しない。
「良かったんすか?」
「……誰じゃ、お主」
「佐藤さんのお得意様の悪魔っす」
彼女の血により赤く染まった佐藤の家で彼女は座り風を見ていた。
そこに彼が先程ホムンクルスでの取引の時呼び出していた悪魔がやってきた。
呼び出され彼と話すために残り隠れていた悪魔だったが戦いが終わり出てきたのだ。
「良い。彼奴は約束を守る」
「約束? 契約じゃなくてっすか」
「……お主お得意様と言う割には彼奴のことを知らぬのな。彼奴は口約束だろうと約束を違えん」
「あー、そっすねぇ。まるで刀みたいに真っ直ぐな人でしたからねぇ。……で、約束って何約束したんすか?」
「丁度いい。彼奴との喧嘩で斬られた悪魔を補充するとしよう」
「ひぃぃぃぃ! 勘弁、マジ勘弁!」
彼女が悪魔を睨みつけると悪魔は逃げるように魔界へと帰っていった。
そして佐藤の家に静寂が訪れた。
遠くの方で鳥が鳴き、風が木々を揺らし葉の音が聞こえる。
こんなにも凄惨な現場だと言うのに雲は変わらず流れている。
雲によりちらちらと隠れながらまた月はその美しさを穢されることはない。
「……あぁ、こんな静かなのは久々だ」
初めまして。私のことを知っている方はまた見ていただきありがとうございます。
今回のお話は突発的に思いついたというのもあり短いのですがお楽しみいただけたでしょうか。
私の癖なのか名前がほとんど出てこなかったんですが読みにくいでしょうか。
こればかりは第三者の目が必要ですね。
彼はその生涯を命を奪うという技術を磨くということに費やしてきました。
故に老いた彼は獣のように山に隠れ住んでいました。
でも満ち足りるということはなくいろいろな技術に手を伸ばしたりとその刃を研いでいました。
最後にこれを使って大騒ぎが出来たらどんなに楽しいだろうと。
彼女は彼と出会い、闘争というものを知りました。
殺し殺され、死んで死なせる。
彼女という吸血鬼が危機を感じるほどの人間などいなかったためです。
彼女は何度も喧嘩し何度も話し合った彼を失いたくなかったのです。