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チョコ渡したいんですけど

作者: みっちーみちみち

大人になって迎えるバレンタインデーがこんなにも"ビター”だなんて、思ってもみませんでした。

「今日これからチョコ渡したいんですけど・・・」

2月14日バレンタインデー当日の夜にそのLINEはきた



1週間前

俺は新宿で卓也と餃子を食べていた


卓也と会うのは1年ぶり

学生時代からの友人だが、サンローランのクラッチバッグをドヤ顔で持ち歩くようなシティボーイではなかった


(卓也もすっかり東京の人間になったな〜)   


     

話は弾み、あっという間に時間が過ぎていった



(もうこんな時間か)

「終電だからそろそろ帰ろかな」

すると卓也はニヤリとした顔でこう言い返してきた



「今から女の子二人呼べるけど、飲むっしょ?」




(珍しいな)

そう思った。

卓也が学生時代にモテていた印象はない。


ていうか・・


「飲むっしょ?」はさすがにイキり過ぎててこっちが恥ずかしくなった

まあでもどんな子が来るか楽しみだし、呼んでもらうとしよう





「どっも〜〜〜!!カナコです❤︎こっちはミユ!よろしく〜〜^^ ってか卓也めっちゃ顔赤いし〜〜まじで草〜〜www」




おいおいおい

金髪のギャルが来たぞおい

聞いてねーぞおい



「うるせ〜な〜そんな飲んでね〜し〜〜」

とぎこちない標準語で返すシティボーイ

真面目に経済学の授業を受けていたあのなんちゃって慶應ボーイはもういない

それにしても一体どうやったらこんなギャルと知り合えるんだよ




「あのー、隣いいですか?」


(うわっ!びっくりした)


「あっ、どうぞどうぞ」


(えらく丁寧な口調で喋るなあこの友達の方は。黒髪だし、ほんとに金髪ギャルの友達か?)



「ちょっと、卓也の友達の、、、みっちー? ミユはお店の後輩なんだから、手出したら承知しないかんね〜〜!!」



お店??

なるほど、そういうわけか・・・

卓也の野郎、“女の子”とか言いやがって

キャバクラ通いしてたのか



「あのー、、、なんかすいません。」

「いやいや、ミユさんは何も悪くないよ それよりお店で働いてるなんて、なんか意外!」

「あー、、はい、、よく言われます。あんまり人と喋るのも得意じゃないので・・・」






俺はキャバクラが大嫌いだ

会社の上司に幾度となく連れて行かれたが、毎回無駄な時間だと思っている


課長からしたら若い子と飲めて楽しいのかもしれんが、俺からしたら自分と同い年くらいの女性に高い金を払って一緒に飲む理由がさっぱりわからない


でもなんとなく、このミユさんは俺が知っている“キャバ嬢”とは違う感じがして色々と聞いてみたくなった



「ミユさんはなんでお店で働いてるの?」

「えっと、、、“お昼”もやってるんですけど、夜に何もやることないし、、だったら働こうかなって、、」


それは理由になってるのか?と思ったが

もしかしたら会ったばかりの俺には言えない何か特別な理由があるのかもしれない。これ以上つっこむのはやめておこう。




「夜の仕事は楽しい?」

「うんと、、、カナコさんと知り合ってからは楽しくなりました!いつも色々と教えてくれるので。私たち、姉妹みたいなかんじなんです!」

(ミユさんは間違いなく妹の方なんだろうな)





「もういい時間だし、出ようか」

卓也がそう切り出すまで、外がうっすら明るくなっていることに気が付かなかった



「ミユ、みっちーさんとLINE交換した?」とカナコ姉さんは言う



「あっ、まだです。。あのー、LINEいいですか?」

「ああ!もちろんもちろん」


不慣れな手つきでQRコードを差し出してくる


「今日はみっちーさんと色んなお話ができて楽しかったです。今度また一緒に飲めたら嬉しいです。こんなかんじで・・・」

「会計は一旦俺払っとくから!」と卓也が割り込む


(こんなかんじって、プライベートで、ってことだよな? “キャバ嬢”って一括りにしてたけど、ミユさんは普通の女の子だ。今度二人でご飯行きませんか?って誘ってみようかな・・・)



お店を出るなり卓也は声高らかにこう叫んだ



「じゃあうちらは積もる話があるから、あとは若いお二人で!あっ、会計はまたLINEするわ〜!」

突如として闇夜に紛れていった卓也とカナコさん



って・・・えっ、、、えっ!!?!?!?




いやいや、ちょっと展開が早過ぎてアタフタ・・・


「これからどうしますか?」

(うわ!!びっくりした ってもう俺ら二人しかいないのか)   


「いや〜、、、ほんとに困ったやつだよアイツは(卓也、ありがとう)。えーっと、、、どうしましょうか・・・例えばホt」「もう一軒いきませんか?」


赤LARKのほろ苦い香りとANNA SUIのバニラの香りが交互に襲ってくる

まさに酸いドリーム


2軒目の記憶は曖昧だ

さあ・・・・これからどうすれば・・・卓也、助け・・

「オキャクサマー!」


(うわあ!)


「当店閉店のお時間ですので・・・」

「あっ、はい!!!い、いますぐに!!」



お店を出た二人。



「とりあえず駅の方に向かいましょうか」

(ってバカ!俺のバッカ!!違うだろ。『ミユさん、夜道は危ないので今日は一緒にホt・・・』いやいやそれはわざとらしすぎる。



考えろ



考えろ



自分にできる最大のこと



今の俺にできることは・・・)








「みっちーさん、今日はほんとにありがとうございました!」


「へ?」


気付くと新宿三丁目駅のE2出口にいた


ガタンゴトン・・・なんだ、朝っぱらから地震か


「うん、今日は楽しかった!ありがとうね!!」スタスタ・・・ 



(って何歩き出してんだよこのイモ男!!



振り返れ!!



リスクを取れ!!!



証券マン!!!)










「あっ!あの・・・










みっちーさん・・」







(キタっ・・・じゃない!女性側にソレを言わせるなんて、情けない・・・     まあいい、満面のイケメン面で振り返ろう。せーのっ!) 













「タクシー代ください」










「卓也さんはいつも渡してくれるってカナコさんが言ってました」


あいつはやはりなんちゃって慶應ボーイだった

社会勉強だけは相変わらず真面目にやってたらしい


ってゆーか、タクシーで帰ろうとしてるのかよ

キミは自分の足元に感じないのか?この揺れを

なんて贅沢な女だ


「わかったわかった、払うよ。んで、家どこなの?」

「え、家ですか?」

「ざっくりでいいから教えてよ」


(この子ほんとにタクシー代もらう気あるのか?)


「えっと、、、調布らへんです」


(“らへん”ってなんだよ。まあ職業柄、具体的な場所は言えないのか。それにしてももっと都心に住んでるかと思ったが、調布だと少し離れてるな・・・)


「じゃあ5,000円で足りるかな?」




「あの・・・カナコさんからはタクシー代は最低でも1万円と言われてるので、1万円でお願いします。」


「いっ、イチマンエン!?」


(1万円なら八王子まで行けるぞ?さては田舎者だって思われたくないから調布って嘘ついたなこのイモ娘め!)


時間にするとわずか数十秒くらいだろうか。

急に黙り込んだ俺を見てその女は言った。


「あの・・・もういいです、5,000円で」

示談は成立した







ブーブー


ブーブー


「もしも・・・あぁ、卓也か」


酷い二日酔いなのは起きてすぐわかった。


「おはよう、ケチノリくん」

「は?なにそれ」


俺の本名はミチノリ。そこから文字ってるのはわかったが、なんだって?


ケチノリ??


“ケチ”って何のことだ?



「お前、ミユちゃんにタクシー代5,000円しか払わなかったらしいなww

カナコちゃんから聞いたぞ。ミユちゃん、あの“客”はケチだからもう会わないって怒ってたらしいw いや〜ミユちゃん巨乳だったのに、お前もったいないことするよな〜。あっ、それで精算なんだけど、今回は俺の奢りでいいよw まっ、また今度飲もうや!」






それから1週間が経過した


今日はバレンタインデー


思いを寄せる人に告白をする、そんな恋心を後押しするかのように舞う粉雪


「現在の渋谷の様子です。画面が曇るほどの大雪ですねー。明け方にかけて地面が凍る恐れがありますので、明朝は早めのご移動を・・・」 


ピコリン


見覚えのない傷を負ったiPhoneが申し訳なさそうに通知音を鳴らす



















「こんばんは〜この前は朝までありがとうございました。なんか最後グタグタになっちゃってすみません。 


ところで今日チョコ渡したいんですけど・・・
























この後お店来れますか?














今日大雪の影響でお客さんめっちゃ少なくて困ってるんです〜〜        もし良かったら1時間だけでもきて欲しいなあ❤︎」



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