第九十八話 いよいよ小由里ちゃんとお出かけをする
六月上旬。
今日はいよいよ小由里ちゃんとお出かけをする日だ。
デートといいたいけれど、俺達はまだ幼馴染。デートと言うことはできないと思う。
それでも一緒のお出かけが出来るようになっただけでも、大きな前進だ。
なんとか今日、仲を深めていって、告白まで行ければいいんだけど。
小由里ちゃんに話をしたのは火曜日。そして今は日曜日。
この間、心をコントロールするのは大変だった。
小由里ちゃんとのお出かけのことをすぐ想い、時には、告白するシーンまでも想ってしまう。
その為、弥寿子ちゃんや裕子先輩に対しては、心ここにあらずという対応になってしまった。
金曜日の部活の時もそういう状態。
裕子先輩は、
「森海くん、なんか悩みごとがあるような気がするんだが。もしそうだったら、わたしで良ければ相談に乗る」
と言って心配してくれた。
俺は、
「大丈夫です。心配してくれてありがとうございます」
と言ったが、裕子先輩は心配そうな表情のままだった。
裕子先輩の好意も大切にしたいが……。
弥寿子ちゃんの方は、
「先輩、どこか体の具合がよくないんですか? それともわたし、先輩になにか嫌われることをしましたか? もし、そうだったらごめんなさい。わたしを嫌わないでください」
と言って涙目になっていた。
俺は、
「いや、ちょっと考えごとをしていただけだ。弥寿子ちゃんのことは友達として大事に思っている」
と言った。
すると、
「先輩。そう言ってくれてありがとうございます、好きです」
と言って、弥寿子ちゃんは俺に体をくっつけてくる。
弥寿子ちゃんのことはもちろん嫌いじゃないし、好意も持っている。仲のいい友達として過ごしていきたい。でもこのからだの柔らかさはいいと思ってしまう……。
俺は小由里ちゃんに心の中で詫びた。
夏音ちゃんと弥寿子ちゃんへのルインの対応も、
「おやすみなさい」
と書くだけ。
今までだと、後一言ぐらいは書こうと努力していたのだが、そういう努力をしようとする気力もなくなっていた。
それだけ小由里ちゃんのことを中心に考えていた。
普通だったら、どこかで俺のことを嫌いになると思うのだが……。
彼女たちは、こんな俺に、毎日、
「好きです」
と送信してくれる。
うれしいことはもちろんうれしいけれど……。
このように、心のコントロールは苦しいものがあったが、その苦しい状態の中、俺はネットで情報を集める努力をした。そして、優七郎からもいろいろアドバイスをもらった。
評判のいいレストランを予約したが、小由里ちゃんに気に入ってもらえるだろうか……。
弥寿子ちゃんと一緒に出かける前もそうだったのだが、ネットにあるデート体験談を検索して、それを読み、今回に生かそうと思った。
小由里ちゃんに嫌われるような行動はしたくない、という思いは強い。
優七郎とは、金曜日の部活の前に、こういう話をした。
「お前の彼女に嫌われたくないという気持ちはよくわかる。でも嫌われないように、嫌われないように、としていると、それが先になってしまって、自分が楽しめなくなる。そうすると、相手も楽しめなくなって、お互いぎこちなくなってしまって、関係は進まなくなる」
「それはそうだと思う」
「俺も、鈴菜ちゃんには、嫌われるところがあってもいいって思うようにしているんだ。もちろん、嫌われることはなるべくしたくはないと思っているけどまあお前も知っているように、彼女と出会った時から彼女を怒らせるようなことをしていて、普通だったら嫌われちゃうと思うけどな。でも彼女はそれをも含めて、俺のことを好きでいてくれる。ある程度は、嫌われないようにすることは大切だけど、一番大切なのは、お互いのことをよく知って親しくなることだよ」
「嫌われないようにすることを一番に思ってきたけど、お互いのことをよく知って親しくなるということが一番大切なんだな」
「そうだ。そして、好きだという気持ちを熱く伝えること。小由里ちゃんだって、お前のことが好きなんだから、嫌われるようなことをしたとしても、お前の熱い心があれば、関係を進めることはできると思う」
優七郎は、そう言った後、のろけすぎたと思ったのか、
「俺と鈴菜ちゃんは友達だから」
と言っていた。相変わらず鈴菜さんのことになると、恥ずかしがり屋さんになってしまう。
ごちそうさま。
この優七郎のアドバイスを心に入れていきたいと思う。
こうして迎えたお出かけの日。
俺は前日も夜遅くまで準備をしていた。
朝から晴れていて、さわやかな風が吹き、気持ちがいい。
俺はいつものように家事をした後、食事をする。
そして、シャワーを浴び、服装と髪型を整え、家を出る。
待ち合わせは、午前十一時。場所は駅前の広場。
俺は一時間前に着き、彼女を待っている。
それだけ彼女と出かけるのを楽しみにしているのだ。
それにしても緊張する。
優七郎のアドバイスを受け、嫌われるような行動をしたくない、という意識はなるべく抑えようとしている。
なんとか今日、彼女ともっと親しくなって、告白までもっていきたい。
そういう想いが強い一方で、今日、彼女に嫌われることをしてしまったら、仲を進めるどこころか、修復できなくなってしまうのではないか、という気がどうしてもしてしまう。
いや、優七郎の言う通りだ。嫌われるかもしれない、ってことばかり考えていたら。いつまで経っても前に進めない。
もっともっと、お互いのことを知っていく。それが今日のお出かけの大きな意義なんだ。
そして、俺の熱い心を小由里ちゃんに伝えていく。
それが大切なことだ。
俺はそう強く思うのだった。
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