第九十六話 恋人どうしへのやり取り
「もっともっと熱く……。お前も、林町さんにその熱い気持ちを伝えとということだな」
「そういうこと。俺は鈴菜ちゃんに、好きで好きで大好きだ! って言ったんだ」
「そこまで言っていたんだ……。それは初めて聞いた話だけど、すごい。すごすぎると思う。俺にはできないかもしれない」
「何言っているんだ。これくらいできなくてどうするんだ。小由里ちゃんのことが好きなら、好きって言葉を、熱意を込めて繰り返すんだ。そうすれば彼女にお前の気持ちは伝わっていく」
「わかった。とにかく繰り返すことにする」
「よし。ただ後数日あるってことは、その決心が揺らぐ可能性もある。しつこいかもしれないから俺からはそんなには言わないが、さっきも言ったように、もっと心を熱くするんだ!」
「ありがとう」
「なあに。むしろこれから大切だ。またいつでも相談してくれ」
お互いにあいさつをして、通話を終えると、俺は優七郎に改めて感謝をした。
その数分後。
夏音ちゃんからルインが入り、その後、弥寿子ちゃんからもルインが入ってきた。
俺の心は小由里ちゃん一色だったが、それを切り替えていかなければならない。
夏音ちゃんは、
「おにいちゃんのことが好きです。一緒に住める時を毎日楽しみにしています」
と書き、
弥寿子ちゃんは、
「先輩のことが好きです。今度また一緒に出かけましょう」
と書いてくる。
どちらもその熱い気持ちが伝わってくる。
だが俺は彼女たちの想いには応えられないし、そのことも彼女たちには伝えている。
それにも関わらず彼女たちは、俺をあきらめるどころか、もっとその想いは強くなっている。
俺が今回小由里ちゃんに告白して、OKをもらった場合、今度こそ二人にはあきらめてもらわないといきけないと思うが、まずそのことを二人に伝えることができるのだろうか。
そう思うと気が重くなる。
俺は、
「おやすみなさい」
とそれぞれ書いて送った。
これしか書くことができないことを、俺は心の中で二人に詫びた。
今は小由里ちゃんとのお出かけを成功させ、告白を成功させる。そのことにすべてを集中したい。
でも彼女たちのことも気にしてしまう。
弥寿子ちゃんはかわいい後輩だ。ちょっと強引なところもあるけど、俺のことを熱く想ってくれるし、わたしは先輩のものだと言ってくれる。
夏音ちゃんはいとこ。彼女もかわいい。幼い頃から俺を慕ってくれている。そして、それは恋にまで発展している。
俺のことを好きになってくれるだけでもうれしいことなのに、二人とも俺と結婚したいとまで想ってくれている。
小由里ちゃんとのお出かけまで後数日ある。
それまでに、小由里ちゃんとのお出かけの詳細を決めると同時に、彼女たちとの関係をどうするか、ということを改めて考えていかなければならない。
俺は心を落ち着かせる為、ジュースを台所に飲みに行った。
少し心が穏やかになり始めたので、コップにジュースをもう一度入れて戻ってくると、小由里ちゃんにルインを送ることにする。
今回は、あいさつと御礼をするだけなので、そこまでのプレッシャーはないが、送る時はやはり緊張する。
俺は、
「こんばんは」
と送った後、
「今日はお誘いを受けてくれてありがとう」
と送った。
返事はするくるだろうか?
この返事を待つというのも緊張するところ。
昨日は、返事が来るまでに時間がかかり、俺も送らなければよかったのでは、と悩んでしまった。
今日はどうだろうか。
彼女に対して、呼び出すとか、選択してほしいとか、そういう内容ではないので、返事を出すのは難しくないと思うのだが……。
既読がつくのには数分かかった。
ここからまた時間がかかるのかなあ、と思っていたが、今回はすぐにきた。
「誘ってくれてありがとう」
俺はホッとした。
誘うの自体、心のどこかで彼女が嫌がっているのではないか、という気持ちがあったからだ。
それが今のところはなさそうだ。
その後もやり取りを続ける。
「海の見える公園に行くって言っていたわよね」
彼女は、お出かけに乗り気になり始めている気がする。
「そうだよ」
「いいわね。わたしも行きたいと思っていたんだ」
小由里ちゃんも行きたいと思っているのであれば、場所の選定は、これで良かったと言っていいだろう。
「それはいい」
「行くコースは決まっているの?」
「だいたい決まっているけど、もう少し調べようと思っている」
「楽しみだわ」
「そう言ってくれるとありがたい。もしリクエストがあったら教えてね」
「そこは森海ちゃんにまかせるわ」
このようなやり取りの後、あいさつをして今日は終了となった。
今日は、ルインのやり取りでも、大きな進展があったと言っていい。
今までは、あいさつと世間話程度のやり取りだったのが、今度のお出かけのことに触れることができた。
もちろん内容は、今日の話の延長ではあるのだが、彼女が乗り気になり始めているところに意義があると思う。
そういう意味では、俺と小由里ちゃんが恋人どうしになる為の、大きな一歩ではないかと思う。
まだ「好き」とか、そういう愛の言葉が出てこないのは残念だが、それは、このお出かけを成功することができれば、書いたり言ったりすることができるようになってくると思う。
彼女に告白し、恋人どうしになる。
俺はとにかくその目標に向かって進んでいこうと思うのだった。
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