第九十三話 屋上に誘われたわたし (小由里サイド)
夜。
自分の部屋で、紅茶を飲みながら、今日の鈴菜ちゃんとの会話を思い出していた。
夏音ちゃん。
鈴菜ちゃんとの会話で出て来た名前。
久しぶりに聞いた。
彼女は、わたしたちが小学校の時、春休みや夏休みや冬休みといった、学校の休みの期間に森海ちゃんの家に、家族と一緒によく来ていた。
小学校の低学年の時は、わたしと優七郎くんも森海ちゃんの家に呼ばれて、よく遊びに行ったものだ。
ゲームをしたりして、楽しい時間だった。
夏音ちゃんは、わたしのことを、小由里お姉ちゃんと呼んでくれて、慕ってくれた。
わたしも、そういう彼女が愛おしくなり、かわいがった。妹的存在だったと言っていいと思う。
しかし、高学年になり、森海くんとの仲が疎遠になっていくと、彼女と会う機会も減っていき、五年前の夏に会ったきりになっている。
その彼女が森海ちゃんに会いに来た。
しかも、森海ちゃんのことが好きだという。
それどころか、結婚したいとまで言っているという。
わたしは、ショックを受けた。
妹みたいに思っていた子が、わたしのライバルになっていたなんて……。
居駒さんに続くライバルの登場。
二人とも熱い気持ちを持って森海ちゃんにアプローチをしている。
そう言えば、夏音ちゃんは、森海ちゃんのことを「おにいちゃん」と言って慕っていた。その頃から森海ちゃんのことが好きで、それが恋にまで発展してきたということなんだと思う。
森海ちゃんに対してじゃなければ祝福できるんだけど……。
わたしは、彼女たちよりも森海ちゃんに対する想いを持つことが出来ているのだろうか……。
このままだと、二人のどちらかと森海ちゃんは恋人どうしになってしまうのでは、と思う。
そうなったら、わたしはどうなってしまうのだろう。
涙なしで二人を祝福することができるのだろうか。
それとも森海ちゃんに泣いて、わたしの恋人になってほしいと言うのだろうか。
その時はもう手遅れな気もする。泣くことしかできないだろう。
いや、そんなことを今思ってもしょうがない。
わたし自身が森海ちゃんへの想いを熱くしなければいけない。
そう思っていると、森海ちゃんからのルインが入ってきた。
そこには、
「明日、話があるんだ。昼休み、屋上に来てくれるかな」
という言葉が書いてあった。
こ、これってどういうこと?
わたしは、心が熱くなってくるのを感じた。
もしかして、告白? お誘い? いや、ただの世間話の可能性もあるよね。
わたしは自分を落ち着かせようと懸命になる。
告白やお誘いだったらどうしよう。まだ心の準備が出来ていない。
でもライバルがもう二人もいる。もし告白やお誘いをされて、それにすぐOKをしなかったら、わたしから心が離れちゃって、二人の方へ心が向いちゃうかもしれない。
それは困る。
そうはいっても、森海ちゃんと付き合っていける自信がまだない。お誘いだったとしても、一緒に行動することになるので、これについても心の準備がいる。
森海ちゃんのこと好きなのは間違いないけど、どうしても幼馴染としての意識がまだまだ強い。せっかく仲直りできたのに、わたしは何をやっているんだろうと思う。
そして、森海ちゃんは彼女たちのことをどう思っているのだろう。
それを聞いてみたい気がする。
でも、もし彼女たちのことを恋の対象として好きだと言ったらどうしょう。
そういう怖さがある。
わたしのことを一番好きって言ってほしい。
そういう気持ちはある。だけど、それがわたしのわがままなのもわかっている。
まずわたしが森海ちゃんのことを好きだと言わなければいけない。
その勇気がまだ出てこない。
しかし、森海ちゃんがせっかくルインをしてきてくれている。返事はしなければならない。
森海ちゃんの言葉を既読にし、どう返事をするかを考えることにした。
とは言っても、今の時点では、昼休みに屋上で話をしたいという情報しかない。
だからこそ、いろいろ悩んでしまう。
しかし、結局のところ、森海ちゃんの話を聞くしかないと思うようになった。
どういう話だったとしても、まずは聞かなければ始まらない。ここで悩んでいても、時間が経つだけだと思ったのがその理由だ。
そして、居駒さんと夏音ちゃんのことをどう思っているのかも。わたしが森海ちゃんのことをもっと想っていくことが大事だと改めて思ったので、聞かないことにした。
わたしは、あいさつをした後、OKの返事を出した。
内容については、森海ちゃんは、その時に話したいようだった。
出来ればその内容を今教えてほしかったが、それはしょうがない。
やはり、告白かお誘いだと思う。
そうなると、わたしも、それまでに返事をどうするか考えておかなければならない。
告白の場合、付き合いを始める。お誘いの場合、一緒に出かける。これができれば、いずれの場合でも仲は進展していくに違いない。
しかし、まだ森海ちゃんとの関係を進めていっていいものか悩む自分がいる。
そういうところを乗り越えていかなければならないと思っているのだけれど……。
わたしは、森海ちゃんに、
「バイバイ」
の言葉を書いて送信した。
とにかく明日、森海ちゃんと話をする。それまでに対応を決めなくては。
そう思いながら、紅茶をまた飲み始めるのだった。
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