第九十二話 夏音ちゃんとわたし (小由里サイド)
昼休み。
わたしは今、鈴菜ちゃんと話をしている。
最近わたしは、この時間、食事をしながら、彼女とおしゃべりをすることが多い。
いつも楽しい時間を過ごしている。
しかし、今日の彼女は、いつになく真剣な表情。
「どうしたの?」
わたしは心配になって聞く。
いつもはにこやかに微笑みながらら食べ、話をする彼女。
それが今日はなかなか話をしようとしない。
体の調子がよくないのだろうか。それとも悩みがあるのだろうか。
悩むとしたら、優七郎くんとのことかもしれない。彼とけんかをしたのかな。けんかならしょっちゅうしている気がするけど。
いずれにしても、わたしは彼女を元気づけることが出来たらいいなあと思う。
鈴菜ちゃんもわたしも、しばらくの間、食事に集中する。
そして、食べ終わった後、彼女は、
「今日はグラウンドの方で話をしましょう」
と言った。
優七郎くんとの仲のことで相談があるのかな、と思ったが、それなら力にならなければ、と思い、わたしたちはグラウンドへ向かった。
グラウンドにあるベンチに座る、
そして、彼女は、話をし出した
「小由里ちゃん、昨日ね、ある人に出会ったの」
優七郎くんとの話ではないようだ。
「ある人って?」
「小由里ちゃんも知っている人だと言っていたわ」
「わたしの知っている人?」
「そうよ」
「誰だろう?」
全然思いつかない。
「海島くんのいとこ、夏音さんという子よ」
「夏音さん?」
「やっぱり知り合い?」
わたしはその子のことを思いだしてみる。
夏音さん? 夏音さん?
記憶が少しずつ蘇ってくる。
そうだ、幼い頃に一緒に遊んだ、夏音ちゃんだ。
当時の彼女の姿が思い出されてくる。
「そうよ。幼い頃、森海ちゃんのところによく遊びにきていて、わたしも一緒に遊んだりしていたわ」
「仲良しだったの?」
「そうね。妹みたいな気がして、かわいがった思い出がある。でもわたし、もう五年も会っていない。当時とはだいぶ変わったんでしょうね。今はもっとかわいくなっていると思うけど。それで、彼女と会ったって言っていたけど」
「うん」
「鈴菜ちゃんって、夏音ちゃんのこと知らないと思うんだけど」
「順番に話をしていくわ。まずわたしと優七郎くんは、ショッピングモールの中にあるカラオケに向かって歩いていたの」
「優七郎くんとデートしていたの?」
「そう。デート。じゃなくて、カラオケね。友達としての親睦を深めようと思ってね」
と言いつつ顔を赤くする。しかし、いつもの笑顔ではない。
「優七郎くんがちょっと先を歩いていたら、優七郎くんと夏音さんが出会ったの。それからが大変で」
「どういうこと?」
「優七郎くんが、彼女のことを『かわいい』って言ったの。また浮気が始まっちゃて……」
その程度で浮気とは、優七郎くん大変だなあ。でも夏音ちゃん、やっぱりかわいくなっているんだ。
「浮気したから、頬をつねってあげたの」
「いつも痛そうね」
「浮気したんだもの、しょうがないわ。でもわたしも驚いたんだけど、夏音さん、海島くんと一緒だったのよね」
「森海ちゃんと?」
「驚いたでしょう?」
「もちろん驚いたわ。でもなんで森海ちゃんと一緒だったんだろう?」
「彼女ね、海島くんのことが好きなの」
「好き?」
「そうよ。それで、彼のところに来たって言っていた」
「でもそれは仲のいい、いとこととしての『好き』って意味じゃないの?」
「それがね、彼女、海島くんに恋しているの」
「そんな、恋しているなんて……」
わたしは、彼女のことを妹的存在としてかわいがってきた。その彼女がライバルになってやってくるとは……。
わたしは、ショックを受け、しばらくの間、心の中が混乱していた。
「海島くんに一途な想いを伝えていた。彼女の熱い気持ちをわたしは感じた。結婚したいとも言っていたわ」
「け、結婚?」
「そうよ。この年で結婚したいと言えるのはたいしたものだわ。彼女、まだ中学校三年生ですものね」
「そこまで言っていたんだ……」
「小由里ちゃんも海島くんに言ってみたらどう?」
「それはちょっと……」
「なんで? 好きなんでしょう?」
「そうだけど、まだまだ心の準備ができなくて。それに、仲直りしてからまだそんなに経っているわけじゃないし」
「そんなこと言っていたら、夏音さんの方に心が傾いちゃうもしてないわよ。彼女、これからどんどん海島くんにアプローチしてくると思うから。小由里ちゃんもアプローチしていく必要があると思うよ」
「アプローチ……」
「海島くんのこと好きなのよね」
「うん。もちろん」
「いずれは結婚したいよね」
わたしは恥ずかしい気持ちになったが、
「結婚したい」
と言った。
「それじゃ、これからは、もっと積極的になった方がいいと思う。もう仲直りをしたんだから。小由里ちゃんの方から、好きって気持ちを伝えていく方がいいと思う」
「でも恥ずかしい……」
「気持ちはわかる。でも、これからもライバルは増えるかもしれない。今、想いを伝えておくことが大切だと思うよ」
鈴菜ちゃんは、わたしのことをこんなに心配してくれる。
「わたしも森海ちゃんに想いを伝えられるように努力する」
「恋人どうしになってね。応援するよ」
「ありがとう」
鈴菜ちゃんは、ようやくいつもの笑顔になった。
わたしも微笑む。
そして、森海ちゃんと恋人どうしになりたい、という気持ちになっていくのだった。
「面白い」
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