第八十八話 小由里ちゃんと恋人どうしになりたい
その翌日の放課後。
今日もさわやかな風が吹いていて気持ちがいい。
俺と優七郎は、サッカー部前のベンチに座っていた。
優七郎はこれから練習。俺の方は、今日部活はない。
「昨日はすごい日だったな。だって、夏音ちゃんと久しぶりに会えたんだもの」
優七郎がまず話し出す。
「しかも、あんなにかわいくなっていて……。俺、感動したんだぜ」
「かわいくなったと俺も思う。でもお前、鈴菜さんが聞いたらまた怒られちゃうよ」
「それは怖い」
「そうだろう」
「でもかわいいものはかわいいんだよなあ」
「でもお前、そうは言っても鈴菜さんのことしか頭にないだろう」
「そりゃそうだ。かわいいとは思うけど、好きになるのは鈴菜ちゃんだけだ。それなのに、なんでちょっとかわいいって言っただけで、頬をつねるのかなあ」
「林町さんは、自分のことだけをかわいいって褒めてほしいんじゃない?」
「それは難しい話だな。だって、かわいい子のことはやっぱりかわいいって思うし、褒めたくなるだろう?」
「それはそうだと思うけど」
「俺は鈴菜ちゃんのことしか想っていないんだから、もう少し、怒らないでくれるといいんだけどな」
「そう言いつつ、怒られるのを楽しんでないか?」
「それはあるかもな」
と言って、優七郎は笑った。
「それであの後は、カラオケで楽しんだの?」
「そうだ。アニソンで盛り上がった」
「デュエットとかもしたの?」
「もちろんしたよ」
「肩を寄せ合ったりはしたの? 恋人つなぎとかもしたの?」
「したよ」
「恋人どうしのカラオケだね。うらやましいなあ」
俺がそう言うと、優七郎は赤くなった。
「い、いや、仲が良い友達だったらそれくらいするだろう?」
「肩を寄せ合うところまではともかく、友達は恋人つなぎはしないと思うけど」
「友達だって、それくらいはするさ」
また優七郎は恥ずかしがって、鈴菜さんのことを友達だって言っている。
さっきは、「俺は鈴菜ちゃんのことしか想っていない」と言っていたのに。
「でも楽しそうでよかったな」
「いつも鈴菜ちゃんは、俺のことを応援してくれるんだ。彼女が喜んでくれたのが一番うれしいな」
「やっぱり鈴菜さんとは恋人どうしなんだね」
「そうだ、って、そうじゃない。仲のいい友達」
俺が微笑んでいると、
「そうそう。お前、相談に来たんだろう。小由里ちゃんのことだと思うけど」
と優七郎は言った。
「そうなんだ」
「小由里ちゃんとはどうなんだ?」
「ルインはしているけど」
「まだまだ進展していないというところだな」
「そうだ」
「お前も小由里ちゃんも、幼馴染というところから脱却できないというところだろうな」
「お前の言う通りだと思う」
「それで、どうしたいんだ? お前が彼女に想いを伝えないと、そのままただの幼馴染で終わってしまうかもしれないぞ」
「それは困る」
「もちろん、彼女の方からお前に想いを伝えてくる可能性がないとは言わない。でもお前の方が少なくとももっと好意を持たないと、それも無理じゃないかと思う」
「それは俺も思ってはいるんだけど。どうも告白するところまでの想いが弱くなっている気が自分でもするんだ」
「お前のことが好きな女の子が増えてきているもんなあ。居駒さんといい、夏音ちゃんといい、お前にその熱い気持ちを伝えてきているとなると、お前が小由里ちゃんに対する想いが弱くなってくるのもわかる気はする」
「だけどこのままではお前の言う通りただの幼馴染のままだよなあ」
「このままじゃどうにもならないと思っているんだろう?」
「そうだ。だから、今度こそ小由里ちゃんをデートに誘いたいと思っているんだ。どうだろう? もしデートって言葉が嫌そうだったら、お出かけしたいって言うつもりだけど」
「デートしたいと思っているんだな?」
「そうだ。そして、これを機に、一挙に恋人どうしになって行きたいと思うんだけど」
「先に告白はしないのか? まあ、デートしてから告白ってパターンもあるとは思う。でも告白してからの方がいいとは思うけどな」
「それなんだが……。この間もそうだったんだけど、言葉が出てこないんだ、「好き」「付き合ってください」という言葉は俺には重すぎて……。まだまだ俺には敷居が高い。そこで、先にデートしてから、と思ったんだけど」
「うーん。でもそうなるとやっぱりデートじゃなくてお出かけだな。彼女の方も、告白されていないのにデートしたいと言われたら戸惑うだろうし……」
優七郎は少し考えていたが、
「まあ彼女と一緒に行動することには違いない。まずは彼女と一緒に過ごす時間を持たないと、その後の進展はないだろうと思うし」
と言った。
「そうだな」
「とにかく誘うんだ。そして、彼女といい雰囲気になったら告白するんだ」
「俺にできるかなあ……」
「お前、何度も言うけど本命は小由里ちゃんなんだろう。もっとその想いを熱くしていくんだ。そしてその想いを伝える。彼女だってお前のことは好きなんだ。その気持ちに絶対応えてくれる」
「もっと想いを熱くするよ」
「とにかく誘うんだぞ」
「ありがとう。明日誘うことにするよ」
力を貰った気がする、
「今度こそ、うまくいくことを願っているぞ」
優七郎は力強くそう言った。
「面白い」
「続きが気になる。続きを読みたい」
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