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第八十六話 二人の想い

俺はなんとか自分の作った料理を食べきり、ジュースを飲みながらくつろいでいた。


すると、夏音ちゃんからルインが入ってきた。


「おにいちゃん、家に着きました」


「今日はありがとうございました」


ここまではよかったのだが……。


「好きです。おにいちゃん。愛しています」


予想はしていたとはいえ、「好き」という言葉を送信されてくると、どう対応していいか悩む。


もちろんうれしい。


「好き」と言われたり、書いてこられて、うれしくない人なんてそうはいないだろう。


まして、相手は、今でもかわいいが、これからもっとかわいくなってくると思われる子に「好き」だと言われ、こうして送信してきたのだ。


俺だってその想いには応えたい気持ちはある。


しかし、こちらから「好き」と書くことはできないし……。


俺は、


「今日は楽しかった」


とだけ書いて送った。


すると、彼女からはすぐに返事が返ってきた。


「おにいちゃん、返事ありがとう。とてもうれしいです」


「わたしも楽しかったです。とても楽しかったです。好きです」


こんなに喜んでくれている。彼女に楽しんでほしいと思って行動はしていたけど、仲の良いいとこの枠は外さないようにしていたので、そこまでの満足度はないと思っていたんだけど……。


彼女は喜んでくれている。


心の底まで喜んでくれているといいのだが……。恋人としての対応ではない以上、それは難しいのだと思う。


「好き」という言葉は、俺にとっては重いよなあ……。


そう思っていると、今度は、弥寿子ちゃんからルインが入ってきた。


「先輩、夏音さんというライバルが現れましたが、わたし、もっと自分を磨いきます」


「そして、彼女に負けない、先輩好みの女の子になっていきます」


「浜水先輩よりも魅力的な女の子になります」


「先輩、わたし、夏音さんよりもっともっと先輩のことが好きになります。


「先輩のこと好きです。好きです。大好きです」


弥寿子ちゃんは、今日夏音ちゃんに出会ったことで、俺に対する想いがさらに強くなったようだ。


二人とこれからどう接していくか。


今日夏音ちゃんと再会するまで、俺は夏音ちゃんのことを忘れていたわけではないけど、仲の良かったいとこという思いしかなかった。


「おにいちゃん」と言って慕ってくれていたけど、それは幼い頃だからであって、中学生にもなれば、そう言ったことはなくなってくるだろうと思っていた。


しかも俺達は三年も会っていない。


普通だったら、疎遠になって、幼い頃よく遊んだ記憶も、たまに思い出すぐらいになっているところだ。

それだけこの三年の月日は長いのではないかと思う。


それが、今日、彼女は俺のことを「好き」だと言ってきたし、書いてきた。


弥寿子ちゃんもそうなのだが、なぜ俺は二人にこんなにも想われるのだろう。


弥寿子ちゃんの中学生の時のこともそうだし、夏音ちゃんが言っていた幼稚園の時のこともそうだ。


俺はただあたり前のことをしたに過ぎない。それなのに、大事な思い出として持っていてくれて、それが俺への想いの原動力になっている。


だからこそ、その好意に応えることができないのがつらい。


とはいいつつも、弥寿子ちゃんへの好意はまた強くなってきたし、夏音ちゃんに対しては、今日一挙に強い好意を持つようになってきた。


恋というところにまで発展させてはいけないという気持ちは強い。でも耐え続けることはできるのだろうか。


二人はそれぞれ魅力的な子だ。そして、自分たちの魅力をもっと上げようと努力している。その魅力によって、彼女たちに恋する時が来るかもしれないと思う。


そうなると、今度は二人のどちらを選ぶのか、という問題も出てくる。


いや、そもそも二人の仲から選ぶと言うところ自体が違う話だ。


小由里ちゃんが本命なのに、なぜそういうことを思ってしまうのだろう。


それは俺と小由里ちゃんの仲が進展していかないのが、一番の理由だろうと思う。


ルインはやっている。しかし、まだあいさつとちょっとした世間話のやり取りでしかない。もっと話の幅を広げたいのだが、うまくいかない。書こうとしても、こんなこと書いちゃったら、嫌われちゃうか敬遠されちゃうんじゃないかと思ってしまう。そうした気持ちを乗り越えなければ、仲自体が進展しないとは思うのだけど。


彼女自身は少しでも楽しんでくれているのだろうか?


恋人どうしではない、友達どうしとしてのやり取りだ。それでも楽しんでくれているといいのだが……。


俺自身も、毎回、恋人どうしみたいなやり取りをしたいと思うのだが、まだ恋人どうしではないので、それはできない。


弥寿子ちゃんや夏音ちゃんみたいに、「好き」って書けたら、どんなにいいものだろうか。と思う。


「好き」と書こうとしたことは今までもあった。しかし。その言葉を書く勇気がどうしてもでない。


仲直りもしたし、書くことには問題はないはずなのだが……。


小由里ちゃんの方もそうなのだろうが、俺達はお互い幼馴染としてに意識が強すぎるのだろう。


その点、夏音ちゃんはすごい。


彼女はいとこではあるが、それを乗り越えて、俺のことを「好き」だと言ってきた。


俺もそれを乗り越えて、小由里ちゃんに「好き」だという想いをしっかり伝えていかなければならない。


俺が乗り越えて、「好き」だという気持ちを熱く伝えられれば、小由里ちゃんも俺のことを恋人として好きと思ってくれると思う。


「面白い」


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