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第八十五話 今日の思い出

その日の夜。


夏音ちゃんと駅で別れて家に帰った俺は、晩ご飯を作って、それを食べることにする。


既に朝、下ごしらえはしておいたので、料理の時間はそれほどかからない。


いつも家で食べる時は一人。


今日も普段と同じように、淡々と食べようと思っていたのだが……。


心の中に寂しさが湧き上がってくる。


料理は作ったことは作ったのだが、食欲はあまりない。


今日は、いろいろなことがあった日だ。


全く予想していなかった夏音ちゃんの来訪。今日はそこから始まった。


俺と彼女が会うのは三年ぶり。


会った最初は、誰だかわからなかったほど、彼女は劇的にかわいくなっていた。


俺がその変貌ぶりに驚いていると、さらに驚くことを言った。


彼女は、俺のことが好きで、「結婚したい」と言ったのだ。


彼女のことを仲がいいとはいえ、結婚の対象どころか、恋する対象としても思ってきたことはない。


もちろん、いとことしては大事に思ってきた。


いとこと結婚はできることは俺も理解している。でも彼女にはまだ恋という意識も芽生えてはいないのに……。


その後、一緒にショッピングモールへお出かけをした。


夏音ちゃんはとてもうれしそうだった。


俺も小由里ちゃんには申し訳ないが、かわいい子と歩くのは、うれしいものがある。


そこでまず弥寿子ちゃんに出会った。


弥寿子ちゃんと夏音ちゃんは、たちまちの内にお互いをライバルと認識したようで、そのやり取りは、怖いものがあった。


このままずっと言い争っていたら、俺が二人の間に割って入るしかないな、と思ったが、次第に穏やかな方向になってくれたので、ホッとした。


俺は今まで、自分がこういう立場になった経験がなく、また、なることもないと思っていたので、対応方法がわからなかった。


これからは、こういうことがあるということも頭に入れていかなくてはならないだろう。


とは言っても、難しいところではあるが……。


二人には、改めて本命が小由里ちゃんであると伝えた。二人には申し訳ないが、それは言っておく必要があっただろう。


でも弥寿子ちゃんも、俺への想いをさらに強くしたようだ。


その想いにどう対応するべきだろうか。悩むところだ。


そして、優七郎と鈴菜ちゃんに会った。


本人たちはデートじゃないって言っていたけど、あれがデートじゃなかったら、どういうものがデートなんだろうと思ってしまう。


それにしても、怒った時の鈴菜さんは怖かった。優七郎は、これを中学校一年生の時から味わっているのだ。


もしかして、優七郎は頬をつねられるのがうれしいのかもしれない。あれだけ毎日鈴菜さんに頬をつねられているのに、全くめげずにだらけていたりするのだ。頬をつねられたくてしょうがないようににも思える。


痛いとは言っているけど、それは口で言っているだけで、実際はつねられること自体が好きなのかもしれない。


いずれにしても、優七郎は鈴菜さんにメロメロだということは、改めて思った。


夏音ちゃんの想いを鈴菜さんは理解したようだった。


鈴菜さんからしてみれば、親友の恋のライバルになるので、応援はできないとはっきり言っていた。


しかし、鈴菜さんも優七郎に恋しているので、夏音ちゃんの想い自体は理解できるのだろう。


鈴菜さんも最後の方は、気分を静めてくれてよかった。


あの後、二人はカラオケで盛り上がり、ますますラブラブ度は上がったに違いない。


二人が去った後、俺達はレストランと喫茶店に行く。


そこで、夏音ちゃんの俺への熱い想いを伝えられた。


俺も彼女の言葉を聞いている内に、次第に彼女への好意が強くなってきた。


そうしている間に夜となり、彼女が帰るのを見送る為、駅へ向かう。


彼女は、俺の手を握り、寄りかかってきた。


俺の心は、彼女のからだの柔らかさと温かさに、沸騰していく。


その時間は、ほんのわずか。


しかし、俺はその時、彼女の魅力に染まっていっていた。


小由里ちゃんには申し訳ない気持ちになる。


そして、別れの時。


彼女は涙目になっていた。つらそうだった。


俺にとっても、恋人どうしではないとはいえ、ここまで好意を持ってくれた女の子と別れるというものはつらいものがあった。


そのつらさが今でもある。


夏音ちゃんと晩ご飯を食べたかったなあ……。


そういうこともついつい思ってしまう。


弥寿子ちゃんと出かけた時は、弥寿子ちゃんに作ってほしいと思ったものだけど、今日は夏音ちゃんに作ってほしいという気持ちになっている。


彼女の母親、すなわち俺の叔母さんは、今日は泊まるのはダメで、あまり遅くならないように、と言っていた。泊まるのがダメであまり遅くならないようにと言うことになると、晩ご飯も一緒に食べることはできない。


しかし、高校生になったら泊まっていってもいいと言っていた。


彼女自身は、夏休みに来る時、おじさんとおばさんの許可を取るって言っていたけど。


おじさんもおばさんも彼女に一生懸命お願いされたら、多分断るのは無理だろうと思う。


もともと、おばさんは、俺と夏音ちゃんの仲を応援しているようだから。


泊まることをOKしてくれれば、一緒に晩ご飯を食べることができるだろう。


彼女と一緒に食事、楽しいだろうなあ、と思う。


しかし、そういうことを思っていいのだろうか、という気持ちも強い。


彼女が泊まるということは、同じ屋根の下で、二人が過ごすということだ。


恋人ではない人を泊めるということは、どうも抵抗がある。


いとこだからいいのでは、というかもしれないが、、今日彼女と一緒に過ごして、恋ではないにしても、既に仲の良い、いとこ以上の想いを持ちつつある。


このまま恋というところに到達していくのだろうか。


彼女は、夏休みに泊まりに来ることで、いとこどうしという関係から、恋人どうしにはならなくても、もう少し進んだ関係になりたいと思っているようだ。


晩ご飯を俺の為に作ってくれて、一緒に食べるとか、そういうところだろう。


しかし、小由里ちゃんのことを想うと、泊めるというのは難しい。


もし泊まりに来ても、仲の良いいとこ以上の対応をしなければいいとは思うのだが……。


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