第八十話 鈴菜さんと夏音ちゃんのやり取り
「ところで、優七郎くんがかわいいと言っていて、海島くんの隣にいる子は誰なんですか? 海島くんと仲が良さそうですけど?」
鈴菜さんが俺に聞いてくる。
「彼女は俺のい……」
いとこだと言おうとしたのだが、夏音ちゃんに遮られてしまった。
「わたしは森海さんの妻です。よろしくお願いします」
頭を下げる彼女。
ああ、弥寿子ちゃんの時と同じだ。また妻だと言っちゃっている。
「ど、どういうことなの? 海島くん、あなたは小由里ちゃんのことが好きなんじゃなかったの?」
鈴菜さんは俺の方を向く。なんか少しずつ厳しい顔になってきているようだ。
普段、優七郎に向けて炸裂している彼女の攻撃が、俺に向けられそうな気がする。それを思うだけでも怖い。
「結婚しているってどういうことなの? まだ結婚できるような年には見えないけど。もしそれが本当なら小由里ちゃんがかわいそうだわ……。わたしは小由里ちゃんのことを応援しているのよ」
「いや、違う。そういうことじゃないんだ」
「何がそういうことじゃないって言うのよ」
だんだん表情に険しさが増してきている。
「鈴菜ちゃん、そうじゃないんだ。少し落ち着いて」
優七郎は鈴菜ちゃんを抑えようとする。
「ごめん。優七郎くん。頭に血が上ってきちゃった」
「俺にだったらいいけど、他の人にはそういうところは出さない方がいい」
優七郎は、優しく鈴菜さんに言う。
「そうなんだけど、でも小由里ちゃんのことを思うと……」
鈴菜さんは、一旦は気を静め始めたように思えたが、
「彼女とはいったいどういう関係なの?」
と、また口調は強くなってくなってきた。
優七郎に対するものよりは抑えめだと思うが、これでも結構きついと思う。
でも優七郎は、いつもこれ以上に強い口調で言われている。よく耐えられていると思う。
まあ優七郎と鈴菜さんの場合、お互いに心が通じ合っているから、そういうやり取りができるのだろう。
小由里ちゃんと鈴菜ちゃんは仲良しだから、鈴菜さんが小由里ちゃんのこと思うのはよくわかるのだけれど……。
「だから違うんだ。俺と夏音ちゃんは、いとこどうしなんだよ」
「いとこ?」
「そう。なあ夏音ちゃん」
夏音ちゃんは、
「驚かせちゃってごめんなさい。わたしは森海さんのいとこです」
と頭を下げた。
「いとこね。もう驚いちゃったのなんのって」
鈴菜さんはホッとした様子。
「小由里ちゃんのことを思って、ついつい怒っちゃった。わたしの方こそ怒っちゃってごめんなさいね」
と言って俺と夏音ちゃんに対して頭を下げる。
「わたしは林町鈴菜。優七郎くんと海島くんとは同じ高校に通っているわ。よろしくね」
「わたしは夏音です。森海さんのいとこです。中学校三年生です。よろしくお願いします」
お互いの自己紹介を終えた後、鈴菜さんは、
「優七郎くんもごめん」
と優七郎に対しても頭を下げた。
「いや、俺のことは別に気にしないで」
優七郎は優しく言う。
少しの間、優七郎と鈴菜さんはお互いを見つめ合っていた。
いつもは、鈴菜さんが優七郎に一方的に言っているところしか見ていないが、多分その後で、二人の間ではこういうやり取りが行われていくことになるのだろう。
「海島くん、わたし、自分でもわかってはいるんだけど、すぐ頭に血が上っちゃうの。気をつけたいとは思っているんだけど」
「まあ、それは別に気にしてない。誰だって、妻だって言われたら、衝撃を受けると思うから。林町さんは、小由里ちゃんの親友だから、気持ちはわかる気がする」
「ありがとう。森海くんって、やっぱり優しいね」
「俺なんかより優しい人は一杯いると思うよ」
「いや、こんなに優しい人はなかなかいない」
鈴菜さんはそう言うと、夏音ちゃんの方を向き、
「でも夏音さんが、わざわざ海島くんの妻だと言ったということは……。あなた、海島くんのことが好きなのね。しかも、いとこととしてではなく、一人の男の子として」
と言う。さっきまでのとげとげしさのあった口調から、少し穏やかになってきている。
「はい。森海さんのことが大好きです」
「そうよね。そう思うわ」
「わたし、森海さんとは今はいとこどうしでしかないですけど、いずれ恋人どうしになり、結婚したいと思っています。さっき、森海さんの妻です、って言いましたけど、いずれはそう自己紹介ができるようになりたいと思います」
鈴菜さんは驚いた表情。
それにしても、俺の妻だと言って怒り出した鈴菜さんを相手に、よくこういうことが言えるものだ。
腹が座っていると言うか何というか。
しかし、鈴菜さんは怒るどころか、微笑んでいる。
「夏音さんの気持ちはわかる気がする。その一途さはすごいと思うわ」
彼女の想いに心を打たれたのではないかと思う。
「さっき、林町さんが森海さんのこと優しいって褒めていましたけど、頼りになるし、わたし、森海さんのいいところをいろいろ知っていますよ」
「そういうところが好きということね」
「いいえ。森海さんの存在そのものが好きなんです」
「その気持ちわかる気がする。わたしも優七郎くんの存在そのものが好きなんだし」
それを聞いていた優七郎の顔が赤くなっていく。
それにしてもよくここまでのろけられるものだ。この幸せものめ、と思う。
「わかってもらえますか」
「ええ。わかる気がします」
「でも海島くん、小由里ちゃんのことが好きだし、小由里ちゃんの方も海島くんのことが好きなの。まだ恋まではいっていなくて、わたしとしてはもどかしいんだけど、小由里ちゃんの応援をしている」
「面白い」
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