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第七十九話 鈴菜さんと優七郎、そして夏音ちゃん

「どうして優七郎くんは、わたしというものがいながら浮気をするのかしら」


「い、いや、浮気はしていないって。だって、かわいい子がいたら、逆にかわいいって思わなきゃ、その子に失礼だろう」


「その子がどうのこうのじゃなくて、優七郎くんがその子に気が向いちゃうことが問題なの」


「別にその子が好きになったわけじゃないからいいだろう」


「気が向いた時点でもう浮気なんです」


「それじゃいつも浮気していることになっちゃうなあ。浮気の範囲が広すぎるんじゃない?」


「わたし以外の女の子に興味を持った時点でもう浮気なんです」


「厳しいです。興味を持つことぐらいは許してください」


「だめです」


「いいでしょう。お願いしますよ」


「そういうことを言っちゃう人はこうですよ」


そう言うと、鈴菜ちゃんはまた優七郎の頬をつねりだした。


「わたしはあなたの恋人で、いずれ結婚するんですから、わたし以外の人には気を向けないでください」


「はい。わかりました」


「本当にわかってくれました?」


「はい。俺は鈴菜ちゃんのことが好きで、鈴菜ちゃんの為にすべてを捧げたいと思っています」


優七郎がそう言うと、鈴菜さんは顔を赤らめて、


「そ、それならいいのよ。もう浮気はしないでね」


と言い、優七郎の頬から手を離した。




俺と夏音ちゃんは、この二人のやり取りを、ちょっとだけ離れたところで眺めていた。


二人は、俺達がいることなど忘れたように言い合っている。


俺からすると、うらやましいやり取り。心が通じ合っていないとできないと思う。


けんかはともかく、俺も小由里ちゃんと、心を通じ合わせたいと思う。


それにしても、鈴菜さんって厳しいなあ、と思う。


女の子に興味を持っただけで、浮気と思ってしまうのだ。こういうところが苦手な人もいると思う。


でも優七郎は、そういうやり取りを楽しんでいるところがある。


鈴菜さんのことが、大好きなんだろう。そうでなければ、仲が壊れる可能性だってある。


まあ二人の関係は、これでうまく行っているようだから、これでいいのだろう。


ただ夏音ちゃんには、刺激が強かったようで、途中、


「おにいちゃん、二人を止めなくていいんですか? このままだと別れちゃうかもしれないですよ」


と二人のことをを心配していた。


かなり感情的なやり取りになっているという風に、普通は思う二人のやり取り。


教室でも毎日のように行われていて、まわりの人もあきれている。


夏音ちゃんが心配するのも無理はないだろう。


「この二人はいつもこうやってけんかをしているんだ。でも本当はとても仲の良い恋人どうしなんだよ」


「わたしにはそうは思えないんですけど」


「まあこのままにしていれば、その内、また仲の良い二人に戻るよ。この二人のこと、結構よく知っているからね」


「そうならいいんですけど」


そして、しばらくすると、けんかは終わったようで、二人は笑い合っている。


「はら、もう笑顔になっているだろう」


「そうですね。さすが、二人のことをよく知っていますね」


「二人の友達だからな」


俺がそう言っていると、


「それじゃ優七郎くん、カラオケに行きましょう」


と鈴菜さんは言う。もう怒っていないようだ。


「そうだな、じゃあ行くことにしよう」


と優七郎も応える。


優七郎は俺の方を向いて、


「これから鈴菜ちゃんとカラオケに行くんだ」


と言った。


俺は微笑ましい気持ちになる。


「恋人どうし、いいなあ」


うらやましい。


「こ、恋人?」


「そう。二人は恋人どうしだろう? だって、今もデートしているし」


そう言うと、二人は顔を赤らめる。


「デ、デートだなんて、ち、違います。これは友達として来ているだけです。優七郎くんは友達。そうよね」


「そう。俺達は友達。友達だってカラオケぐらいするだろう?」


「そうかなあ。二人って教室でも仲がいいし、今日もこうして仲良くデートしている」


「仲良くなんかないですよ。こうしていつもけんかばっかりしているし」


「そうそう。いつも頬をつねられて、大変なんだから」


「優七郎くんがだらしなかったり、他の女の子に気を向けちゃうからでしょ」


「はい。ごめんなさい」


「でもこれだけ言っても、また教室ではだらけちゃったり、かわいい女の子がいると、気が向いちゃうのよね」


とはいっても、さっきととは違い、微笑みながら言う鈴菜さん。


「でも心は通じ合っているんでしょ」


俺は微笑みながら言う。


二人の仲睦まじい様子を思い出すと、ふき出しそうになってしまうが、それは我慢する。


「まあそう言えなくはないかなあ」


優七郎がそう言うと、


「そうね。そう言うことは言えるわね」


と鈴菜さんも微笑みながら言う。


「それはやっぱり恋人どうしって言うんじゃないの?」


「そうだな、って、いや違う。恋人どうしじゃなくたって、友達どうしでも心が通じ合っていうことって、よくあると思うんだけど」


「そうよ。そうよ。友達だったら、心を通じ合わせることができると思う」


二人は、なぜか自分たちが恋人どうしではなくて、友達どうしであることを主張する。


俺からすると、恋人どうしにしか思えないのだが……。


そんなに恋人どうしと思われるのが恥ずかしいのだろうか。


まあ気持ちはわからなくもない。

「面白い」


「続きが気になる。続きを読みたい」


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