第七十三話 夏音ちゃんとのお出かけ
「な、夏休みにまた来るの?」
「そのつもりですけど、嫌ですか?」
夏音ちゃんは悲しそうな顔になる。
この顔は苦手だ。
「い、嫌ってわけじゃないけど……」
ついつい言ってしまう。
「でも夏音ちゃんのうちは、ここから近くはないから、来るのが大変だと思うけど」
「片道一時間ほどですから、別に苦ではありませんよ。それに愛があれば、このくらいの距離、なんてことはないですよ」
そう言うと、彼女は微笑んだ。
「それにこうしてわたしのことを心配してくれる。ますます好きになっちゃいそう」
「い、いや、いとこでしかも年下の子のことを心配するのはあたり前だろう」
「わたしはそれだけでもうれしいですよ」
「うれしいだなんて。おおげさだと思うけど」
「そんなことないですよ。もっとそのうれしさを表現したいくらいです。表現しましょうか?」
「い、いや」
「どうします?」
彼女は甘えた表情になる。
どういうことをしてくるのだろうか? 俺の頭をなでたりするのだろうか? いや、今の彼女の様子だと、俺に抱きついてきたりすることも考えられる。
心の底ではそれを期待しているところはあるのだが……。
しかし、やっぱり、それは避けておかなければならないだろう。
「遠慮しておくよ」
「別に遠慮しなくてもいいのに」
彼女はそう言って、俺の方に近づけいてくる。
「おにいちゃん、わたしはいつでも準備ができていますよ」
「準備?」
「そうです。おにいちゃんさえ望めば、いつだってうれしさを表現することができますよ。わたしはおにいちゃんのことが好きですから」
このかわいい顔を見ていると、胸がドキドキしてくる。そして、彼女の想いに応えたくなる。
「わたしのこと好きですか?」
「いとことしては好きだ」
「嫌いではないですか?」
「嫌いなわけないじゃないか」
「一人の女の子として好きですか?」
彼女は俺のすぐそばまで来た。
俺は何と言おうか迷う。
彼女は魅力的になってきた。俺の好みにも近くなってきている。好意を持っていると言ってよい。
しかし、ここで「好き」だと言ってしまうのは、彼女と恋人どうしになる道を開いてしまうことになる。俺には小由里ちゃんがいる。それはできない。
「うれしさを表現していいですか?」
何をしてくるのか、ちょっぴり楽しみ。いや、そんなことを想っていてはいけない。
「それってどういう意味……」
俺がそう言うと、彼女は俺から少し離れた。
ホッとすると同時に、ちょっぴり残念な気持ち。
「これも夏休みの時にとっておきます」
そう言うと、彼女はいたずらぽく笑った。
「これも夏休みの時?」
「そうです。それともやっぱり今の方がいいですか? なんか残念そうですよね」
「いや、俺は全然残念には思っていないよ」
「そうでしょうか?」
彼女はニヤニヤしながら言う。
「でもおにいちゃんが、決してわたしのことを嫌っていないことはわかりました。それだけでもよかったです」
「夏音ちゃんのことを嫌うわけないじゃないか」
「わたし、今日いきなりおにいちゃんに会いに来たので、もしかしておにいちゃん、怒っているんじゃないか、と思っていました」
「そんなことで怒るような俺じゃないよ。もちろん驚きはしたけど」
「それならいいんですけど」
「でもイメージも大きく変わっていて、そっちの方も驚いたよ」
「かわいくなってきました?」
「そうだな。この三年間でかわいらしさが、すごく増した気がする」
「そう言われるとますますうれしくなっちゃいます。おにいちゃんのことがどんどん好きになってきます」
彼女は顔を赤くする。
俺も彼女のことが好きになっていきそうな気がする。
「そろそろ出かけませんか?」
そろそろ昼になろうとしていた。
俺と出かける為に彼女は来ている。出かけないわけにはいかないだろう。
「そうだな。じゃあ、そろそろ出かけるか」
「はい。いよいよですね」
「ショッピングモールで本当にいいの?」
「はい。今日は、そのつもりできましたから」
「それならいいんだけど」
「テーマパークも行きたいんでですけど、それはもっと仲が良くなってからでいいです」
「仲が良くなってから……」
「これからわたしたちは、どんどん会っていって、仲が良くなります。そして、いずれ結婚するんです。今日は、わたしたちの初デートで、記念すべき日ですね」
「デ、デートって……。お出かけじゃないの?」
これはお出かけであって、デートではない。いとこどうしとしてのお出かけ。
小由里ちゃんもこれならば納得してくれると思う。納得してくれたらいいなあ……。
彼女はちょっと悲しそうな顔をしたが、
「お出かけということでもいいいです。おにいちゃんと、初めて出かけることに意義があります」
とすぐに笑顔になる。
とにかくお出かけだ。そこは、どうしても彼女にもしっかりと思ってもらわないといけない。
しかし、出かけるからには、いとこどうしとしていい一日を過ごしたいと思う。
「まあ、じゃあ出かけよう」
「はい。行きましょう。お出かけするからには、おにいちゃんと素敵な一日を過ごしたいですね」
彼女はうれしさ一杯という表情。
俺と夏音ちゃんは、俺の家を出て、ショッピングモールへと向かった。
「面白い」
「続きが気になる。続きを読みたい」
と思っていただきましたら、
下にあります☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に思っていただいた気持ちで、もちろん大丈夫です。
ブックマークもいただけるとうれしいです。
よろしくお願いいたします。