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第七十二話 俺と一緒に住みたい夏音ちゃん

俺は夏音ちゃんの言葉に甘えて、そうじをしてもらうことにする。


彼女はそうじを始めた。


自分でも言っていた通り、なかなか手際がいい。


まだ今日そうじをしていなかった部屋に掃除機をかけるだけでなく、テーブルや台所も拭いてもらった。


「どうですか」


俺の場合、どうしても雑になるところはあるが、彼女は丁寧にそうじをしてくれた。


同じ掃除機をかけるにしても、細かいところまで気を配っている。しかも、時間は俺のだいたい九割ぐらい。


この年でここまでできるのだからたいしたものだ。


「うん。ありがとう。助かったよ」


「これでおにいちゃんのお嫁さんになる為の第一関門をクリアしましたよね」


「お、お嫁さん?」


「そうですよ」


彼女はいたずらっぽく笑う。


「そうじは、家事の大事な柱の一つですからね」


「夏音ちゃんの通りだな」


「でもおにいちゃん、この家の家事、一人でやっているんでしょ。わたし尊敬しちゃうな」


「尊敬だなんて」


「今日そうじしてみてわかりましたけど、きれいにしていますね」


「まあ夏音ちゃんほど丁寧にそうじはしてないけど、いつも平日はリビングと俺の部屋はそうじしているし、休日は全部の部屋をそうじするようにしている」


「すごいですね」


「すごくなんかないよ。今日夏音ちゃんを見ていて、よくここまで丁寧に出来るなあ、と思ったよ。夏音ちゃんこそすごいと思う」


「わたしなんてたいしたことないです」


そういうと、彼女は顔を赤くした。


「おにいちゃんこそ、いつも一人で家事をすべてこなしているんですから、尊敬します」


「い、いや、この家には俺しかいないから、自分でやるしかないんだよ。あたり前のことをしているだけだ」


「そのあたり前のことを、ちゃんとやっているところがすごいです」


「そう言ってくれるとうれしいけど」


「そういうところも、好きですよ。おにいちゃん」


そう言うと、彼女は微笑んだ。


この笑顔を見ると、俺の心が彼女に傾き始めてしまう気がする。


いけない。これではいけない。そう思うのだが、なかなか心はコントロールできない。


「わたしがこの家に住むことができたら、食事もそうじも洗濯も全部やってあげるのになあ。まあまだ料理はうまくないですけど、練習すればうまくなると思います。わたし、おにいちゃんと毎日一緒に食卓を囲むのが夢なんです」


こういうことを言われると、俺は思わず夢想してしまう。


エプロンを着たかわいい彼女。その彼女が、


「おかえりなさい。もう食事、いつでも食べることができるわよ」


と言ってくれるのだ。


そして二人で囲む食卓。楽しい会話。


いつも食事は一人。慣れているので、寂しいわけではない。


しかし、俺のことを想ってくれるかわいい子が、一緒に食卓を囲んでくれるというシチュエーションにはあこがれてしまう。


いや、そういうことを想ってはいけない。想っていいのは、小由里ちゃんに対してだけだ。


そう思うのだが、弥寿子ちゃんに対してもそういう想いをしたことがあるし、今日もまた夏音ちゃんでそういう想いをしてしまう。


小由里ちゃんに申し訳ない気持ちになるが、心のコントロールは難しい。


「後一年したら、おにいちゃんと一緒の高校になると思います」


「俺の高校を目指しているの?」


「そうですよ。そして、この家から通わせてもらおうかなあ、と考えています」


「そ、それはちょっと……」


「いいじゃないですか。そうしたら、さっきもいいましたけど、家事全般は全部わたしがやりますから。おにいちゃんは、そうすれ家事をしなくてよくなりますし」


「家事をしてもらうのはありがたいと思うけど。若い男女が一つ屋根の下というのは、ちょっと抵抗があるというかなんというか」


「対外的には、わたしたちいとこなんですから、別に一緒に住んでいたって問題ないと思いますよ。それともいっそのこと籍を入れますか?」


「籍って……、結婚するということ?」


「そうですよ。その頃になれば年齢上は可能じゃないですか」


あまりに話が飛躍していくので、俺は心がついていけてない。


弥寿子ちゃんは俺のこと好きでいてくれているけど、さすがにまだ結婚のことまでは言っていない。


もちろん弥寿子ちゃんも心の中では、俺と結婚したいと思っているかもしれないけれども。


「おじさん、おばさんが認めないと思うけど」


「さすがに、一緒に住むのは二人とも反対しています」


残念そうな表情。


「それはそうだろうな」


「心配してくれるのはわかるんですけど……。お母さんは、わたしとおにいちゃんが、将来結婚することについて応援してくれているので、このことも賛成してくれると思ったんです。でも、もし一緒に住むことができなかったとしても、通うという方法もありますよね。休日に必ず来て家事をするという。お母さんもそれなら賛成だって言っています。お父さんはあいまいな返事ですけど。住むのはだめだったとしても、通い妻でおにいちゃんに尽くそうと思っています」


これは強い意志を持っている。


一緒に住みたい、もし住むことができなかったとしても、通い妻として来るという。


通い妻、なんといういい響きだろう。一緒に住むということには及ばないが、あこがれるシチュエーションだ。


でも俺には小由里ちゃんがいるのに、そういうことをしていいのだろうか。


いや、さすがにダメだろう。


ただ、まだ後一年近くはある。今はそう思っていても、俺より素敵な人が現れて、そういうことを想わなくなる可能性はあると思う。


彼女にとってはその方がいいとは思うのだが。


でも今からそういうことを考えてもしょうがない。


とにかく優七郎が言う通り、小由里ちゃんが本命だということを、改めて想っていく必要がある。


「今日ここに来たのは、いずれ一緒に住む為の一つの予行演習みたいなものですね」


と言って、また彼女は俺に甘えるような表情になる。


「わたしの料理の腕前がもっと上達していれば、ここでお昼ご飯を作るところですけど、それはちょっと自信がないので、次、そうですね、夏休みに来た時にさせてもらいます」


「面白い」


「続きが気になる。続きを読みたい」


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