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第七十一話 甘えてくる夏音ちゃん

「それではおにいちゃん、甘えてもいいですよね」


夏音ちゃんは、今までの声よりも甘い声を出してきている。


「甘えるって、どういう意味?」


「こういう意味ですよ」


と言って夏音ちゃんは、俺の傍に寄ってきた。


そして、俺の肩に頭をのせてくる。なんと大胆な子だろう。


弥寿子ちゃんも手を握ったり、体を密着させてきたりはするが、俺の体に寄りかかるということまではしていない。


これは、いとこどうしというところの気安さからきているのだろうか。


「あ、顔が赤くなった。おにいちゃん、かわいい」


彼女はいずらっぽく笑った。


「しばらくこうしていたいです」


からだの柔らかさ、そして彼女の体温を感じる。なんだか心地良い。


「昔もこうしていましたよね」


「それは夏音ちゃんが小さかったから」


彼女が幼い頃だったらいいのだろうが、もう中学校三年生だ。俺の方が意識してしまう。


「今だってまだ子供ですよ。子供なんだから別にいいですよね」


「子供……」


「そうですよ。昔みたいに甘えさせてください」


うっとりとした表情の彼女。


彼女は俺のことを「好き」と言った。そういった大人的な思いと、俺に甘えたいという子供的な思いが混在しているということのだろう。


俺は彼女の言葉を聞いてそう思った。


そうなると、しばらくはこのままでいいかなあ、と思う。


俺達はいとこなんだ。彼女は今一時的に俺のことを好きなのかもしれないけど、その内、他の人を好きになって、俺のことは思い出としてしか思わなくなるだろう。


寂しい話だけど、俺の方も彼女との思い出として、この彼女の温かさを味わってのいいのではないかと思う。


やがて彼女は俺の肩から頭を上げ、


「おにいちゃん」


と言った。


「なんだい」


「おにいちゃんさえよければ、キスしたいんですけど」


「そ、それって」


いきなりキスという言葉が出てきたので驚いた。今の彼女は、子供的な状態だと思っていたのに。


「わたしはおにいちゃんのこと好きです。だからおにいちゃんがわたしのことを好きになれば相思相愛です。それは恋人どうしってことじゃないですか。そうすればキスもしていいと思います」


「そんなこと言ってもだな。俺達いとこどうしだし」


「またいとこどうしって言いましたね。いとこどうしだって恋をすれば恋人どうしになりますよ」


「それはそうかもしれないが」


「どうです? わたし、おにいちゃんにならファーストキスを捧げることができます」


ファーストキス、なんて素敵な響きだろうか。


俺はまだキスをしたことがない。夢の中で小由里ちゃんとしたキスは、素敵なものだった。あこがれは大きいものがある。


彼女はかわいくなってきている。俺だって彼女に好意を持っている。


しかし。小由里ちゃんのことを想うと、そういう誘いには乗るわけにはいかないだろう。


ファーストキスは、やはり小由里ちゃんに捧げたい。


「ごめん。さっきも言ったけど、俺は小由里ちゃんが好きだ。彼女のことを想ったら、そういうことはできない」


「やっぱりそうですよね」


彼女はちょっと悲しそうな表情になるが、すぐに微笑んで、


「でもその内、恋人どうしになってキスもしたいと思っています」


と言った。


「夏音ちゃんなら、俺なんかよりよっぽど素敵な人と恋人どうしになれると思うだけど」


「わたしはおにいちゃんがいいんです」


今はその気持ちをただ受け取っておくしかないだろう。


「小由里さんのことを大事に思っている気持ちもわかります。それに、わたしにとってのライバルもいて、その人達のことも気にしてますしね。いとこのわたしがそこに入っていくのは大変だと思っています」


さっきまでの子供的な状態はそこにはなく、大人的な彼女が今話をしている。


「でもライバルが多くても、わたしはおにいちゃんの恋人になりますよ」


そう言うと、また甘えた表情になって、俺に寄りかかってくる。


またしばらくはその態勢。


「そ、そうだ。夏音ちゃん、俺と出かけたいんじゃなかったの?」


心地いいのだが、このまま彼女の温かさを味わうだけというわけにもいかないので、そう言うと、


「そうでした。わたしとしては、このままでもいいんですけど」


と名残り惜しそうに起き上がった。


「ただなあ、そうじがまだ途中だったんだ。行くとしたらそうじがすんでからにしたいんだけど」


こんなこと言ったら嫌がるかなあ、と思った。彼女にとっては、甘い世界からいきなり今の世界に戻されることになるのだから。


「いいですよ。じゃあせっかくですので、わたしがやりましょうか」


意外な言葉に、俺は驚いた。


「おにいちゃん、そういうシチュエーションにあこがれていました?」


彼女はニヤニヤしながら言う。


「な、なんのことだい?」


「おにいちゃん、いつも一人で家事をやっているから、女の子が家事をやってくれるシチュエーションにあこがれると思って」


「そ、それはあるなあ」


「じゃあ、わたしがそうじをします。わたしこれでも家事は結構やっているんですよ。まだ料理の方はうまくできないですけど。それもその内、できるようになって、おにいちゃんに食べてもらいますから」


そう言うと、彼女は微笑んだ。


「面白い」


「続きが気になる。続きを読みたい」


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