第六十八話 ポニーテールでいとこの少女
今日は休日。
五月下旬の気持ちのいい朝。
いつものように朝ご飯の仕度をし、食べた後、そうじをする。
そうじは、台所と自分の部屋は平日もやっているが、その他の部屋はできないので、休みの日にやっている。
俺の家は、二階建て。そこそこ部屋があるので、結構時間がかかる。
いつも思うことだが、こういう時、俺の好きなギャルゲーのなつのちゃんだったら、手伝ってくれるのになあ、と思ってしまう。
こうして家事で時間をとられると、それだけゲームをする時間が減ってしまうのでつらいし、疲労もたまってくる。
小由里ちゃんなら頼めばやってくれるかもしれない、と思うのだが、彼女とは幼馴染とはいえ、そこまで頼めるまでの仲にはまだなっていない。
それを目的にするのはもちろんいけないが、もう少し仲良くなって、彼女が気兼ねなく俺の家に来てもらえるようにしたい、と思う。
彼女が家にくるようになれば、そうじはもちろんのこと、料理も作ってもらえるようになるかもしれない。
彼女の料理はうまいと評判なので、俺としても一日も早く食べてみたい。
いや、彼女がが作るだけではなくて、俺も彼女に作ってあげなくてはいけない。
俺も料理の腕前は、毎日少しずつ上がってきていると思うので、少なくとも彼女に出して恥ずかしくない料理は出せると思う。
まあ今は想像の世界で楽しむしかないか……。
小由里ちゃんとの楽しい食卓を夢想していると。
ピンポーン!
なんだ、こんな朝の時間に誰だろう。
そう思い、玄関に行ってドアを開けると……。
「おにいちゃん、遊びにきたよ!」
元気のいい声。
うん? 誰だろう? かわいい子だけど。
ポニーテール。小柄。薄い水色のブラウスと薄いグリーンのスカート。
「あの、どちら様でしたけ?」
「おにいちゃん、わたしのこと忘れたの?」
「そう言われても……」
「わたしよ、わたし」
「うーん……」
「もう、おにいちゃんたら」
彼女は頬を膨らませている。
これもかわいいなあと思う。
「いとこの海林夏音よ。忘れたの?」
夏音ちゃん? そうだ、そういえば。
「ごめん。かわいくなっているんで、わからなかった。髪型も変わっているし」
「かわいくなって……」
途端に顔が真っ赤になる夏音ちゃん。
三年ぶりの再会。当時はショートヘアだったが、今は髪を伸ばしてポニーテールになっている。イメージがだいぶ変わっていた。
すぐには彼女だとわからなかったのも無理はない。
「でもなんで急に。おうちの人は知っているの? こっちに連絡はなかったけど」
「もちろん。お父さんにもお母さんにも言ってきたわ」
そう言うと彼女は、電話をかけ始める。
「あ、お母さん、おにいちゃんの家に着いたよ。うん、あ、連絡なしで来ちゃった」
彼女は少しの間話をする。
「うん、じゃあ、おにいちゃんにかわるね。おにいちゃん、わたしのお母さんが話したいって」
俺は彼女と電話をかわった。
「あ、もしもし、森海ちゃん、久しぶりね。元気にしている?」
「はい。おばさん。ご無沙汰しています。俺は元気です」
電話の相手は、父の妹になる麗菜さん。俺にとってはおば(叔母)さんということになる。
最後に会ったのは三年前。美人で優しい人だ。今でも多分それはほとんど変わっていないだろう。
「今日急に夏音ちゃんがそちらに行ってごめんなさいね。わたしは、ちゃん連絡してからいきなさいと言ったんだけど、あなたを驚かせたいって言うんで、連絡なしでそのまま来ちゃったみたいね」
「いえ、わたしの方は別にいいんですが。おばさんの方が心配じゃないかと思って」
「いいのよ、行くの自体は。もう中学生だし、全然それはいいのよ」
「それならいいんですけど」
「昔からあなたたちはお互い仲良くしてたわよね。ちゃん、あなたのことおにいちゃんって言うくらい慕っているものね。その気持ちは今でも変わっていなくて、微笑ましいわ」
「俺なんて、別に慕われるほどの人間じゃないですけど」
「森海ちゃんって、ほんと自分についての評価が低いのね。まわりからも言われない?」
「言われないこともないですけど、やっぱり、そんな評価されるようなことはしてないと思います」
「うーん。まあいいわ。とにかく夏音ちゃんはあなたのことを慕っているのよ。今日は一日よろしくお願いしますね。もちろんお出かけしてもいいわよ」
「お出かけって……」
「そう。あら、デートと言った方がよかったかしら」
「デ、デート、いや。お出かけですよね」
俺はどもってしまった。
「わたしとしてはデートでいいんだけど。まあ、あまり夜遅くならないうちに、うちに帰ってきてもらえれば」
「それはもちろんです。でも夏音ちゃん、俺とお出かけしたいって言うんでしょうか」
「何を言っているの。夏音ちゃんは、あなたとお出かけしたいと思ってから、あなたの家に来ているのよ」
そ、そうなのか?
「後は夏音ちゃんに聞いてね。後、申し訳ないけど、お泊りだけは避けてね。まだ中学校三年生だから。夏音ちゃんが高校生になったら、お泊りもOKにするから、それまで我慢してね」
我慢? それはどういう意味で?
「じゃあ、今日はよろしくお願いしますね」
「はい。わかりました」
こうして通話は終わった。
「面白い」
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