第六十七話 部活
五月も下旬になった。
この間、中間テストがあった。
テストが始まる前は、部活も休みになってしまうので、一週間以上も部活をしていないことになる。
居心地のいい時間なので、部活が休みになるのは、つらいところがある。
このテスト期間中は、部活がなかったので、弥寿子ちゃんとはあいさつ程度しかしていない。
彼女は寂しかったと思う。
俺の方も寂しい思いをしていた。もちろん友達だからそう思うのだが、それ以上の想いもないことはない。いや、もちろんそれは恋というものではない、ないよね……。
また、こういう時は、家で一緒に勉強をするイベントがあるのが、ギャルゲーだとよくあるパターンだ。
そこで、からだを密着させ、お互い顔を赤らめたりするとか、同じジュースをストローで飲んだりするとか……。
俺も小由里ちゃんとそういうことをしてみたかったけれど。
どう考えても彼女とは、まだその時はきていないといわざるをえない。
いや、誘おうとはした。
でも彼女の顔を見ると、胸が一杯になって、そういうことが言えなくなってしまう。
彼女がかわいすぎるのだ。
夜、ルインでも誘いの言葉を書こうとしたが、それも書けずじまい。
なんとかその内に一緒に勉強する機会を作りたいと思っているのだが……。
今日から部活が再開する。
部活そのものが、居心地がいいのもあるが、やはり弥寿子ちゃんとおしゃべりをしたり、からだの柔らかさを味わえるのは大きい。
今まで何度も何度も小由里ちゃんのことを考え、その誘惑に勝とうとしていたのだが、だんだん無理な気がしてきている。
弥寿子ちゃんは、俺に対しての対応は、部活の日以外はあいさつ程度。これは今のところ変わっていない。多分だけど、毎日俺にアプローチし出したら、歯止めがきかなくなるのではないかと思って、自制しているんだと思う。
意外とそこらへんはしっかりした子だということがわかってきた。
後、やはり小由里ちゃん遠慮しているところもあると思う。
ルインの方は、相変わらず毎日夜送ってくる。
相変わらず「好き」という言葉を書いてくる。
こう毎日書かれてくると、俺も次第次第に彼女への想いが強くなってくるような気がする。
これじゃいけない、と思うのだが、この毎日というのが、かなり大きいものがある。
それだけ「好き」という文字は重いということが言えるのではないかと思う。
さて、部室の扉を開けると、今日も弥寿子ちゃんが既に来ていた。
「せんぱーい、寂しかったです」
彼女は俺に抱きつかんばかりの勢いで席を立ったが、さすがに人前なので、自制したようだ。
手を握る程度ですんでいる。
いや、手を握られるだけでも、こちらとしてはいつも心が沸騰してしまうのだ。もし、今抱きつかれたら、その柔らかさで、俺の心はどうなってしまうかわからない。
それを味わってみたかった気はするが、いや、それはそういうことを思ってはいけない。
小由里ちゃんとそういうことは味わうべきで、それ以外の人とは思ってもいけない、と思う。
でもやっぱり残念な気持ちになるなあ。
そう思っていると、彼女が、
「先輩、もしかしてわたしに抱きつかれたかったですか?」
と微笑みながら言ってくる。
「い、いや、そんんことはない」
「わたしだったらいつでも先輩に抱きついたり、逆に先輩に抱かれてもいいですよ」
とささやき声で言う。
そんなことを言われたら、俺は、ど、どうすればいいんだ……。
「先輩、顔が赤くなってますよ」
「いや、お、俺は別に普通だ」
「わたしは先輩のものなんですから、いつでも言ってくださいね」
そうささやき声で言って、微笑む。
それからは、彼女とアニメの話。この時間がやっぱり好きだ。
ただ、話の合間に、
「先輩、好きです」
とささやいてくるのは、ちょっとまいったところはある。
うれしいところはあるんだけど。
部活の帰りは、いつも通り喫茶店へ行くことにする。
部室を出る時、裕子先輩にあいさつをするのだが、その時は怖かった。
弥寿子ちゃんは、
「わたしだったらいつでも先輩に抱きついたり、逆に先輩に抱かれてもいいですよ」
のところは声を小さくしていたし、その他でも「抱く」とか「好き」という言葉が出てくる時は、声を小さくしていた。
でも雰囲気的に、裕子先輩からすると、いつも以上にイチャイチャしているようにも見えたかもしれない。
俺は、裕子先輩が、怒っているんじゃないかと思って、怖かった。
しかし、裕子先輩は、いつもより若干眉がつり上がり気味なような気がしたが、普通にあいさつをして、それ以上のことは言わなかった。
怒っているように見えたのは、俺の気のせいだったのだろうか。
部活中は、いつものように漫画を書くことに集中していたので、そもそもこちらのことを気にしてなかったのかもしれないが……。
ただ、いずれにしても、裕子先輩にとってみれば、決して気分のいいものではないだろう。
これからは少し気をつけたいと思うけど……。
校門を出ると、今日も、彼女の手の柔らかさを味わいつつ、歩いて行く。
小由里ちゃんのことを考えると、毎回手をつないでいいものだろうか、と思う。
一回、それで彼女を悲しい思いにさせたのだし。
でも、もしそれを断ったら、今度は弥寿子ちゃんの悲しい顔を見なければならなくなる。
今はこのままで行くしかないのか、と思いながら、喫茶店へと向かって行った。
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