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第六十四話 先輩の優しさ

裕子先輩は、俺への想いの強さが足りないと言っている。そして、その想いを強くしていき、いずれは告白したいと言っている。


俺は今日まで、先輩の俺に対する想いについて、よくわからないところがあった。


確かに以前、


「わたしの心がより一層きみに傾いたら、その時は告白させてもらうよ」


と言われたことがある。


しかし、それは、一層俺の方に心が傾いたら、ということだ。


ただの傾き方ではない、告白するということは、好意としてではなく、俺のことを恋の対象とするということだ。


俺の方に心が傾いて恋心になる、なんていうことはまずありえないのではないかと思っていた。


それが今日、裕子先輩の気持ちが伝ってきた。


先輩は、本気で俺のことを好きになろうとしている。


今までも、先輩に対する接し方を考えてはきた。ただ、先輩の俺に対する好意は、それほど深いものではないと思っていたので、小由里ちゃんや弥寿子ちゃんほどには考えていなかったところはある。


これからは根本的に見直す必要があると思う。


まず俺は先輩のことをどう思っているのか。ここからスタートしなければならない。


美人だし、普段は冷たい態度を取ることが多く、まわりからは怖い人だと思われているが、表現するのが苦手なだけで、根は優しい心を持っている人だ。


まあその表現というのが難しいところで、俺も普段はあまり近づきたくないと思ってしまうところはある。


裕子先輩は続ける。


「きみの方は、わたしのことをどう思っているかはわからないし、今は聞こうとは思わない。それは、告白の時に聞こうと思っているが、多分、わたしのことを怖い人だと思っているんだろうな」


先輩は、いいところのお嬢様。しつけも厳しかったのだろうし、いろいろ苦労もあるのだろう。そういった、ところが日頃の態度に影響しているのかもしれない。


「怖い人だとはどうしても思ってしまいますけど」


「別にどう思われても構わない。それで今まで生きてきたからな。もしかすると、それでわたしのことを嫌っているのかもしれないな」


「いや、嫌いとは思っていません」


俺がそう言うと、先輩は少し笑った。


「今は嫌われていないという言葉が聞けただけでもよかったと思う。多くの人に嫌われるタイプなのは自分でもわかっている」


「俺は先輩が優しい心の持ち主だということを知っています。だから嫌いになることはありません」


「いや、わたしは、ただの冷たい女だ。まわりを凍らせる微笑を持つ女だよ」


「そんなことはないと思います」


「そう言ってくれたのはきみが初めてだと思う」


「そんなことはないと思いますが」


「いや、初めてだ。こういうところがあるから、わたしはきみに心が動いていくんだよ」


「そう言っていただけるとうれしいです」


「そう言えば」


と言った後、また先輩の口から言葉が出てこなくなった。


「なんでしょうか?」


と俺が聞くが、なかなか言葉が出てこない。


ようやく、


「海島くん、い、居駒さんとはまだ付き合ってないのかな? それとも、もう付き合っているのかな?」


と先輩は、少し顔を赤くしながら言った。


やはり、弥寿子ちゃんのことを気にしているんだ……。


この間も思ったが、彼女の存在が、裕子先輩の心を燃え上がらせているところはあると思う。


しかし、先輩は、


「すまん。こういうことを聞いてはいけなかったな」


と言ってすぐに手を振った。


「彼女とは、仲のいい友達ですが、付き合ってはいません」


俺はそう言った。


「友達ということなんだ。でも彼女に好意は持っているんだろう?」


「それはないとは言えないですが」


「彼女、きみのことをどんどん好きになっているようだからな。きみの方が彼女のことを好きになったら、もうわたしの出番はないだろうな。残念ながら。でもそうなったら仕方がないと思っている」


そう言うと、少し憂いを帯びた表情になる。


しかし、それも一瞬だった。


「申し訳ないな。居駒さんについて言ったことはこの場限りにしてほしい。部活動の中にこういうことは持ちこんじゃいけないからな。わたしは居駒さんのこと、一途でいい子だと思っている。きみが彼女を選ぶのであれば、その時は祝福をしたいと思っている」


「裕子先輩……」


俺には小由里ちゃんという、好きな幼馴染がいるんです、と先輩に言うことはできない。


小由里ちゃんのことは、一度も先輩に話をしたことはない。話がややこしい方向に向かうと思うからだ。


「でも、わたしも想いを強くして、きみに告白できるようにしていくよ」


そう言って先輩はにっこりと微笑んだ。


「話は以上だ。長くなって申し訳なかったな」


「じゃあ、帰ろうと思います」


「そうだな。わたしも、もう少ししたら帰ろうと思う。今日は話を聞いてくれてありがとう」


「そんな。ただ俺は話を聞いていただけですから」


「話を聞いてもらえるということはありがたいことだよ」


先輩の笑顔は、心を動かされるものがある。もっとこの笑顔を向けてくれる回数が増えるといいんだけど。


「それではお先に失礼します」


そう言って、俺は先輩に一礼し、部室の外へと出た。


「面白い」


「続きが気になる。続きを読みたい」


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