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第六十三話 先輩の想い

部室に入ると、既に弥寿子ちゃんは来ていた。


俺は彼女が座っている席の方へ向かって行く。


「せんぱーい、待っていましたよ」


うれしそうな弥寿子ちゃんの声。


俺はこの笑顔を見たいために、どうしても彼女の傍に行ってしまうのだ。


彼女への好意は、少しずつ高まってきている。


これが恋心に発展しないようにしていかなければならないと思っているが、それでもいいのではないか、という気持ちも俺の心の中にはどうしてもある。


さっき、改めて「小由里ちゃんが本命だろう」と言われたばかりで、俺ももちろんそう思っている。


しかし、彼女の笑顔を見ていると、彼女への好意を抑え続けていくのは難しい。


なんとか友達以上の好意を持たないように、と思っているのが現状だ。


彼女の隣の席に座ると、今日も彼女はからだを俺に寄せてきた。


小由里ちゃんには、いつも申し訳ないと思いつつ、その柔らかさを味わってしまう。


「先輩、昨日のアニメについてですけど……」


彼女とのアニメ談義が始まる。


からだの柔らかさだけでなく、こういう語らいができるのも彼女のいいところ。


男どうしの恋愛の方向に話を持っていくことが多いけど、俺も結構好きなので、楽しいものだ。


彼女としゃべっていると、あっという間に時間が過ぎる気がする。恋愛のことを抜きにすれば、いい友達関係と言えると思う。


気がつけば、もう部活も終了の時間。


これから彼女とは、喫茶店に行って、アニメの話の続きをする。


これについても、小由里ちゃんがいるのに行っていいのか、という気持ちはある。


ただこれも友達としての行動として行くので、小由里ちゃんも許してくれるのではないか、と思っている。

というか、許してくれるといいんだけど……。


裕子先輩は、今日も漫画制作に没頭していた。


「先輩、お疲れさまです」


俺がそう言って、部室を出ようとした時、


「海島くん、ちょっと話があるので残ってくれないか」


と裕子先輩が声をかけてきた。


うん? なんだろう? まさか、俺に告白とか?


と思った。


しかし、あれから先輩の俺に対しての心が恋心に変わったとは思えない。


あれだけ漫画制作に没頭しているんだ。その他のことに心を向ける余裕はないように思える。


「はい。わかりました」


俺がそう言うと、


「じゃあ、先輩、先に行っています」


と言って弥寿子ちゃんは部室の外に出た。


裕子先輩は、他の部員が全員外に出ると、扉を閉める。


「すまんな。海島くん。そんなに時間を取らせるつもりはない」


「いや、別にいいですけど」


外で待っている弥寿子ちゃんのことは気になるが、そこまで長くなることはないと思う。


「話というのは……」


裕子先輩は、途端に赤くなってもじもじしだした。


な、なんか、かわいい。


いつもの冷たいイメージはどこへ行ってしまったのか、と思えるぐらいの変化だ。


これはもしかして、俺に告白しようとしているのだろうか。いや、最近の先輩を見ていても、それらしい様子はなかったのだけど。今されたらどうしょう。まだ心の準備ができていない。


どう応えたらいいのかもわからない。


俺は、裕子先輩の言葉を緊張しながら待った。


先輩は、なかなか次の言葉を口に出してこない。


しかし、意を決したのか、咳払いをした後、


「きみのこと、きみと二人でいる場合に限ってだが、森海くん、と名前で呼んでいいだろうか?」

と言った。


苗字ではなく、名前呼びになる。これは通常、親しさが増した間で行われることだろう。


先輩の心が、もう一段、俺に傾いたということだろうか。


俺としては、別に断る理由はない。


とにかく今は、告白ではなかったというだけでホッとしている。


「どうだろう? 嫌だろうか?」


「そんなことはありません。いいですよ」


「よかった」


先輩はホッとした様子。


「わたしの心は、この一か月で、ますますきみに傾いてきている。そこで、苗字ではなく名前で呼ぼうと思った。その方が、距離を縮めていくにはいいと思ったからだ」


「部長……」


「いや、その部長という言い方も、二人でいる時はしないでほしいのだが」


「と言われましても」


「裕子さんって呼んでくれるとうれしい」


「それはさすがに」


「恥ずかしいか」


「というよりは、先輩で部長なので、呼びにくいです」


「迷惑ではないのだな」


「それはありません」


「じゃあ裕子先輩と呼んでくれるといいのだが」


俺も心の中ではそう呼んでいるので、言いやすいと思う。


「わかりました。それじゃ、二人でいる時は、裕子先輩と呼びます」


「ありがとう。うれしい」


先輩は少し微笑んだ。


「じゃあ、一回やってみることにしよう」


「はい。わかりました」


「も、森海くん」


「ゆ、裕子先輩」


お互い、緊張して、少しどもってしまう。


名前呼びで、これほどドキドキしたのは初めてかもしれない。


「わたしは、こうして、きみとの距離を縮めていき、いずれは告白したいと思っている。残念ながら、まだまだわたしは、きみへの想いの強さが足りない。もっともっと、その想いを強くしていく必要があると思っている」


裕子先輩は、力強い調子でそう言った。


「面白い」


「続きが気になる。続きを読みたい」


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