第五十四話 小由里ちゃんとのやり取りについて
「話はもとに戻すけど」
優七郎はそう言って続ける。
「お前の気持ちはわかったけど、これでいいってわけじゃないだろう。これからどうするんだ? 彼女と恋人になりたいって気持ちに変わりはないんだろう?」
「もちろんその気持ちに変わりはない。メールやルインのやり取りのOKはもらったから、まずそこからかな」
「そうか、そのOKはもらったんだな」
「これを言い出すことすらなかなかできなかったけど、なんとか」
「よかったじゃないか」
「ありがとな。ただ、次はどう送ったらいいか、というところがあるんだ」
「それはもう、好きだって書いて送っちゃえばいいよ」
「いきなりすぎないか、それって」
「そんなことはない。お前、彼女のこと好きだろう?」
「そ、それは好きだけど」
「じゃあ、何の問題もない。ひたすら好きだ。好きだ、好きだ、って書き続けろ」
「そ、それはあまりにも大胆すぎると思うんだけど」
「この二年間ロクに話もしてないんだろう? そして、本人を目の前にすると思っていることも言えなくなるんだろう? だったらそういう言葉を書いて、その想いを彼女に伝えまくるんだ」
優七郎はにやにやしながら言う。
「そんなこと言って、お前は林町さんとルインのやり取りで、好きだ、って言葉を書き続けたりしているの?」
「俺? 俺達は別に恋人どうしじゃないから、そんなことはしていない」
「またまた。愛を語らったりしているんじゃないの」
「いや、それが、『ちゃんとご飯食べた?』とか、『体の痛いところはない?』とか、『明日こそはきちんとしなさい』とか、結構そういう言葉が多くて。ちょっとだけつらくなることもあるよ。ちょっとだけだけど」
「サッカーやっているから、そういう体のことで、気づかいをしてくれるんだね」
「俺のことを心配してくれているから、ありがたいと思っている。ただ、あまりやり取りが多いとね」
「そんなに多いことがあるの」
「俺がサッカーの練習の後、ちょっと足が痛くなったことがあったんだ。それをルインで送ったら、『大丈夫?』『大丈夫?』『どれくらい痛いの?』ってひっきりなしに送ってきたんだ。ちょっとだけ返事をするのがつらくなった、ってところはあったな。もちろんありがたいし、うれしかったけど」
「すごいなあ。やっぱり鈴菜ちゃん、お前のこと愛しているね。恋人どうしだね」
「いやいや、友達だってそういう心配はすると思うけど」
「友達はそこまで心配してくれないと思うけど」
「いや、仲のいい友達ならその域までいくと思うけどな」
「そんなもんかなあ」
「そう。俺と鈴菜ちゃんは仲のいい友達。怒られたりするけど、彼女は俺の一番の女の子の友達だ」
「それを恋人って言うんじゃないの? というより今までの話を聞いていると、もう夫婦の域に達しているということか」
「夫婦じゃないって。恋人でもなくて、友達だって。まあ、話を戻すけど、鈴菜ちゃんとは電話で話すことも多い。」
「じゃあ、毎日電話で愛を語り合っているってことか」
「いやいや、そうじゃない。電話でも結構怒られているよ。それに、俺達は友達だから。友達以上じゃないよ」
そう言ってまた顔を赤くする優七郎。
これはどうみても愛の言葉のやり取りをしていますな。うらやましい。
「そんなことはいいから。とにかく、好きって言葉を書くんだ。それを毎日続けていれば、その内彼女もお前のこと、恋と言う意味で好きになってくる」
「まだ決心はつかないなあ。好きって言葉、俺にとってはすごく重たい。もちろん彼女のことは好きだけど、それを書くっていうのは。この間本人の前では言ったけど、まだ付き合えていないんだし。その状況で、好きって書くっていうのは、まだまむずかしいなあ」
「とにかく、せっかくOKをもらったんだ。今日すぐに好きっていう言葉を送った方がいいと思うけど、できないんだったら、まずあいさつから入り、それから少しずつ世間話とか趣味の話を書き合っていくといいだろうな。まあ、ある程度まできたら電話をするようになるとは思うけど、電話よりも気軽にできるところがあるからな」
「なるほど。まずはあいさつから始まって、というところだな」
「そうだ。そして、とにかくやり取りは毎日続ける。ころが大切なところだ」
「毎日ね」
「そう。毎日。そして、今は無理ということなら、ある程度やり取りをしてきたところで、好きだって書くんだ。そうするといいんじゃないかな」
「そこまでいくのに結構時間がかかるような気がするけど」
「そこは、お前の熱意次第。俺からすると、まだまだ熱意が足りない、というより、彼女に遠慮しているんだな」
「それはどうしてもあると思う」
「それはお前のよさでもあるとは思っているけど、とにかく、今日からだ」
「そうだな。お前の言う通り、まずあいさつからすることにするよ」
「期待しているぜ」
「ありがとな」
「じゃあ俺は部活にいくぜ」
そう言うと、優七郎は俺に手を振って教室を後にする。
今日からだな。とにかく、少しずつ小由里ちゃんとの仲を深めていこう。
俺はそう思いながら、教室を後にして、家路についた。
「面白い」
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