第五十一話 お誘いへの道
今日は、ゴールデンウイークの合間の登校日。
新緑がきれいで、風もさわやか。
今日は、小由里ちゃんをデート、いや、お出かけに誘うという記念すべき日だ。
そう思って、教室に入ろうとすると、
「先輩、おはようございます」
と弥寿子ちゃんにあいさつされた。
「お、おはよう」
「先輩、お返事ありがとうございます。うれしいです」
「いや、ほんのちょっとしか書いてないけど」
「いいんです。わたしにとっては、返事がもらえるだけで充分満足です」
「まあそう言ってもらえるんだったら」
「もっと話をしたいですけど、教室にもういかなければならないんです。またよろしくお願いします」
と言って彼女は自分の教室に戻っていく。
この場で「好き」って言われたらどうしょう、と思ったが、さすがにここでは自制心が働いたようだ。
でも、このままだと、俺の教室でも「好き」と言われるのは、時間の問題な気がする。
「おう、調子はどうだい」
俺が席に荷物を置くと、優七郎が声をかけてきた。
今日も鈴菜さんにたっぷりと怒られた後だ。
どうなることかとハラハラして見ている人も、このクラスでは多いが、俺はどうも二人のやり取りを見ていると吹き出したくなってしまう。
それがこの頃、どんどんひどくなってきている。こらえきれなくなって、あわてて教室の外に出たこともあった。
「居駒さんとはどうだった?」
と聞いてくる。
彼女と出かけること自体は、その前に優七郎にルインで伝えておいた。
その時、
「小由里ちゃんが本命なことだけは忘れるな」
という言葉をもらい、俺もその言葉を肝に命じていた。
しかし、その後、ルインでは、「出かけてきた」と書いただけで、まだ優七郎には概略も話はしていない。
俺達は教室の隅に移動して、話をし始める。
「うん。まあ普通のお出かけだったと思う。映画の感想もたくさん話せたよ」
「まあ映画の感想を言い合う会ということだから、俺は反対しなかったけど」
「そういう面ではうまくいったと言えるな」
「でも彼女に心が結構動いたりしたんじゃないのか?」
「それは、なくもない」
「まあ俺から見てもかわいい子だし、話を聞く限りは性格もいい子のようだから、普通に接していても、心は傾いちゃうんじゃないかと思う」
「お前の言う通りかもな。俺も彼女に好意は持っている」
「ただ、お前の本命は小由里ちゃんのはずだ。その心が変わらないんだったら、今以上の付き合いを彼女とはしない方がいいと思う」
「俺もそうは思ってるんだけど」
「お前は優しいから、居駒さんのことも大事にしたいと思うだろう。でも、お前は一人しかいないんだから、二人同時に選ぶのは無理だからな。それはしっかりと思っていた方がいい。このままいくと、どちらも選べなくなって、どちらの心も傷つけちゃうかもしれない」
「そういう可能性もあるなあ」
「まあ。俺の考えすぎかもしれないけどな」
優七郎は腕を組みながらそう言った。
「でもお前って林町さんと恋愛中だから、女の子の気持ちを結構わかってそうだし」
「お前よりはな。でも俺は一人の子しか好きになったことはないし、これからもそうだろうから、まあ女の子の気持ちっていっても、どこまで理解できてるかっているか、というところはあるよな、って、別に鈴菜ちゃんと恋愛しているとか、そういうことじゃないんだけど」
と言うと顔が赤くなった。相変わら自然にのろけてくるやつだ。
「ところで、俺、次の休み、小由里ちゃんを誘おうと思っているんだ」
俺は小由里ちゃんとのお出かけについて、相談しようと思った。
「お、ついに動き出すか」
「居駒さんと出かけたのに、小由里ちゃんと出かけないというのは、ちょっとと思って」
「いいじゃないか。この機会に彼女と仲良くなっていけ」
「でも、心配なのは、まず彼女がOKしてくれることかどうかなんだ」
「そんなの、言ってみなきゃわからないじゃない」
「それはそうなんだけど、OKしてくれなきゃすごい落ち込んじゃいそうな気がして」
「まずは、失敗した時のことなんか考えなくて、お願いするんだ。お願いしてお願いしまくるの気持ちで頼んでみろ」
「お願いしまくる? そこまでしなきゃならないのかなあ」
「そうだ。今のお前にはそこまでの気合が入っていない。そんなことじゃ、OKしてくれるものもしてくれないぞ。お願いしまくるくらいの気持ちでいかなきゃ」
「確かにお前の言う通りかもしれない。ちょっとまだ気持ちが弱かったのかもしれない。もう少し気持ちを強くしないといけないよなあ」
「そう。仲直りしたとはいえ、多分、まだ彼女はお前と一緒に出かけることについて話をしたとしても、抵抗感があると思う。それを乗り越えていかなければならないんだ。充分気合を入れていかなきゃな」
「わかった。気合を入れていくよ」
「ただ俺の言ったのは、気持ちという意味だ。あまりしつこいと嫌われちゃうから、そこのバランスはよく考えるんだ」
「うん。わかった。そこのバランスはよく考えるよ」
「おう、わかってくれたか。俺も楽しみにしているぜ」
「ありがとよ」
「話にはいつ行くんだ?」
「昼休みに行こうと思っている」
「とにかく気合だ、気合」
そう言うと、優七郎は笑った。
「面白い」
「続きが気になる。続きを読みたい」
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