表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/104

第四十七話 弥寿子ちゃんの想い

「わたし、先輩の為だったらすべてを捧げられます」


彼女は、顔を赤くしながら、しかし、熱を込めて言った。


俺はその言葉に胸が熱くなった。


「すべてを捧げられます」なんと心に響いてくる言葉だろうか。


ここまで覚悟してくれているんだ。この想いに沿ってあげるべきではないのか。


この言葉を聞いて、彼女と愛を確かめ合いたい、という気持ちがどんどん高まってくる。


しかし、それでも小由里ちゃんとの関係を考えると、ここで誘いに乗ってはいけない。そういう気持ちも強いものがある。


「小由里ちゃんが本命なことだけは忘れるな」


という優七郎の言葉も思い出す。


ただ、せっかくのチャンスなんだし、このチャンスを逃すと彼女に嫌われて、もう二度とこういう状況は訪れないかもしれない。


そして彼女は悲しむかもしれない。


俺はしばし悩んだが、小由里ちゃんへの想いの方が、結局強くなった。


「ごめん。やっぱりこのまま帰ろう」


彼女はその言葉を聞いて、


「そうですね。先輩がそう言うなら帰ることにします」


と残念そうに言った。


その表情を見て、俺は、惜しいことをしてしまった、と一瞬後悔する。


でももうしょうがない。


しばしの間、二人とも無言になる。


やがて、彼女はこう言った。


「やっぱり浜水先輩のことを想ってしまいますか?」


「ごめん。弥寿子ちゃんの気持ちはうれしいし、それに応えたい気持ちもある。でもどうしても彼女のことを思い出してしまう。弥寿子ちゃんのことも好きになってきたけど、小由里ちゃんのことがやっぱり好きな俺だ。優柔不断で情けない男だと思う」


「仕方がないと思っています。浜水先輩とは、わたしよりはるかに長い時間、一緒にいたんですから。想ってしまうのもしょうがないですよね。その気持ち、わたしもわかる気がします」


彼女はやっぱり優しい子だ。気配りをちゃんとしてくれる。でもそれに甘えてはいけないだろう。


「でも弥寿子ちゃんと一緒にいられて、楽しかった。この気持ちは本当だ」


「それだけ言ってくれれば充分です」


「ごめん、今まで楽しく話をしていたのに、なんか弥寿子ちゃんにとって、つらい話になってきちゃって」


「気にしないでください。そういうことも理解して、わたしは先輩を好きになっているんです。今はまだ浜水先輩に、はるかに及ばないことはよくわかっています。先輩の心の大きな部分を占めていると思いますから」


「弥寿子ちゃん……」


「でも、だからこそ、先輩がもっとわたしのことを好きになるように、努力を続けるしかないと思っているんです」


「そう思ってくれるんだ……」


「はい。先輩がわたしに夢中になるまで努力していきます」


その言葉を聞いて、俺は、今の自分の気持ちを伝えようと思った。


「小由里ちゃんのことはもちろん大切に思っている。できれば恋人どうしになりたい。でも弥寿子ちゃんにも最近は心が動き始めているんだ。俺は、弥寿子ちゃんの想いに応えられる人間かどうかはわからない。というか、応えられない人間だと思う。それでもいいの?」


「もちろんです、わたしのことに『心が動き始めている』、と言ってもらえるだけでいいです。先輩は、想いに『応えられない』と言われますが、そんなことはありません。今でもわたしにとっては、充分想いに応えてもらっていると思います。先輩は先輩だから好きなんです」


「ありがとう。としかいえない」


「まだお出かけしましょうね。友達なんですから」


弥寿子ちゃんは微笑を取り戻してきた。やっぱり彼女はこれがいい。


俺は何というべきなんだろうか。もう行かない、と言うべきなんだろうか。


いや、そんなことは、今日一日楽しく過ごした以上、言えるわけがない。


「と、友達としてなら、いいよ」


すると彼女は、


「うれしい。先輩だーい好き」


と言って、俺の手を握った。


この誘惑には結局勝てないんだよなあ……。


つくづくそう思う。


「じゃあ、また学校で」


「またルインさせてもらいます。これから毎日しようと思ってますけど、迷惑じゃないですか?」


「う、うん? 毎日?」


「そう、毎日です。先輩がOKしてくれればの話ですけど」


何といえばいいのだろう。毎日はつらく感じるかもしれない。でも、もらえばもらったでうれしいところもある。親しい友達なら、恋人どうしじゃなくても、ルインのやり取りを毎日するだろうし。返事は面倒だけど。それさえなんとかなればまあいいかなあ。


「昨日も言ったかもしれないけど、返事はしなくてもいいならいいよ。毎日でもいいと思う」


「もちろん、返事はしたい時でいいです。返事がなくても全然気にしませんから。ありがとうございます」

返事ができそうな文章だったら、なるべく返事はしようと思っている。


「じゃあ。そろそろ帰ろう」


「そうですね。今日はありがとうございました。これからも思い出は作っていけると思いますけど、今日初めて一緒に出かけたことは、一生忘れないと思います」


俺も忘れることはないと思う。俺にとっても女の子と初めて出かけた日だ。


「家まで送っていこうか?」


「いえ、方向が反対ですから、いいです。本当はまだ先輩と離れ離れになりたくないですけど……。先輩が大変だと思うので、我慢します」


「ごめん。それじゃあ、ここで。今日はありがとう」


「こちらこそ。ありがとうございました」


彼女は頭を下げる。


その後、


「先輩、今日の最後にもう一度手を握らせてください」


と彼女は俺にお願いをしてくる。


俺は一瞬どうするか悩む。


「だめですか?」


この一途な願いにはどうしても応えたくなってしまう。


「うん。いいよ」


「ありがとうございます。先輩、好きです」


弥寿子ちゃんは、俺の手を握る。


とてもうれしそうだ。


温かい。そして柔らかい。彼女の熱い想いが伝わってくる。


「先輩、また出かけたいと思います。今度は、デートとして行けるようになりたいです。その為にもっともっと、先輩好みの女の子になれるように一生懸命努力します」


「弥寿子ちゃん……」


彼女の気持ちはうれしいけれど……。デートになるということは、恋人どうしになることだし……。


しばらく手を握り合った後、


「先輩、まだこうしていたいですけど、それではそろそろ帰ります」


と彼女は言った。寂しそうな表情。


小由里ちゃんには申し訳ないが、俺ももう少しこのままでいたかった。しかし、それはしょうがない。


「そうだな。そろそろ帰ることにしよう」


「また今夜ルインします。今日はありがとうございました」


彼女はそう言うと、一礼する。微笑んではいるが、どこか寂しそうだ。


俺たちはお互いにあいさつをして、それぞれ家路についた。

「面白い」


「続きが気になる。続きを読みたい」


と思っていただきましたら、


下にあります☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いいたします。


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に思っていただいた気持ちで、もちろん大丈夫です。


ブックマークもいただけるとうれしいです。


よろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ