第四十六話 おいしいケーキとおしゃべり
「ここのケ-キ、おいしいです。先輩、わざわざ調べてくれたんですか?」
「まあせっかく一緒に出かけるんだから、一応近くにいい喫茶店がないか調べたんだ。そうしたらケーキがおいしいって評判の店を見つけて」
「わあー。わざわざありがとうございます。わたし、先輩のこと、ますます好きになっちゃいそうです」
「そ、そうか。別に普通のことをしているだけなんだけど」
「ちゃんと映画を見た後のことも考えてくれている、そういうところが素敵です」
弥寿子ちゃんは、そう言って微笑んだ。
俺達は、この店で、コーヒーとケーキをオーダーし、今ケーキを食べているところだ。
最初、彼女から提案があった時は、映画を見たら帰ることも考えなくはなかった。彼女がもともと求めていた、「部活動の一環で映画を見る」ということは、そこで成立するからだ。
しかし、それだけでは、さすがに彼女がかわいそうだと思った。せっかく一緒に出かけているのに、映画の余韻に浸る時間もないまま帰るのは、つらいことだと思う。
もともと今回のお出かけには、「映画の感想を言い合う。友情を深める」という目的があるのだから、なおさらそういう時間は必要だ。
そこで、ネットで評判のいい喫茶店を調べ、気に入ったところがあったら入ることにした。そこでなら、余韻に浸ることができるだろう。
このように、彼女のことを中心に考えて、喫茶店へいこうとしていたので、最初は、そこまで積極的だったわけではない。
デートではない、と自分に言い聞かせていたから、というところが大きい。
ただ、そうは言っても、男女二人でのお出かけだ。必然的にデートという言葉が、抑えていても、どうしても心の中に浮かんでくる。
いつの間にか、デートのことを中心に調べるようになり、しかも少しずつ積極的になってきた。その中で、評判が良くていいなと思ったのが、今日来ている喫茶店だ。
そこで、ここに行くことに決めた。
そして、今日映画を一緒に見ているうちに、俺の方も、まだ彼女と一緒にいたいという気持ちが強くなってきた。それで、さらに積極的にここへ行く気持ちに変わっていった。
彼女の方もこんなに喜んでくれるとは思わなかった。調べた甲斐があった。うれしい。
「先輩、今日の映画、よかったですね」
「ああ。俺もこういう恋愛ものが好きだ。感動したよ」
今日の映画の話で盛り上がる。
彼女は、主人公の美形ぶりに、すっかりファンになったようだ。主人公の友人も美形なので、カップリングを想像しているとのこと。
俺も彼女に影響されているせいか、そういうのもいいかも、と思う。
話は本筋に戻り、彼女は、
「わたしも、ああいう風に想われてみたいです。あの主人公、どんな苦難があっても、絶対彼女のことを想い続けていました」
と言う。
「彼女の方も、主人公のことを想い続けていて、すごいなあと思ったよ」
俺はそう応えた時、小由里ちゃんの顔が浮かんできた。
そう言えば、映画の二人も幼馴染だった。この二人は結ばれたけど、俺たちはどうなるんだろう。仲直りしたとはいえ、恋人への道ははるかに遠い。
ふと寂しい気持ちになる。
今日、弥寿子ちゃんと映画を見て、喫茶店でもこうして話せて、楽しいのは確かだ。
彼女が好きになっていっているのも間違いない。
でも、心のどこかで、このままじゃいけない、という気持ちがある。そして、心の寂しさも感じてしまう……。
「先輩、どうしたんですか?」
弥寿子ちゃんが心配そうに聞いてくる。
「い、いや、なんでもない」
「疲れちゃいました?」
「大丈夫。疲れてなんかいない。気にしなくていいよ」
でもまだ心配そうな顔をしている。
「弥寿子ちゃんと一緒にいるんだから、疲れることなんてないよ」
「まあ。先輩ったら」
顔を赤らめる弥寿子ちゃん。
この気持ちは本当だ。彼女が嫌になったり、彼女といると疲れたりするわけではない。
ただ、どうしても小由里ちゃんのことを思ってしまう。
「それならいいんですけど」
彼女は納得したのか、笑顔に戻って話を続けていく。
地元の駅に帰ってきた。俺と彼女は、今駅前の広場にいる。
午後七時半を回ったところだ。遅くもなく早くもない時間だと言える。
夕食を一緒にとも思ったが、これ以上遅くなると、彼女の両親が心配するかもしれない。
彼女にそう言うと、
「うちの親のことなら、気にしなくて大丈夫です」
と言ってくれたが、初めてのお出かけだったんだし、好意に甘えるえわけにはいかないだろう。なごり惜しいところがあるが、そろそろお別れの時間だ。
「今日、わたしは先輩と一緒で、とても楽しかったです。おいしいケーキも食べられて、うれしかったです。先輩はどうでしたか?」
「俺も楽しかったよ。それに喜んでもらえてうれしい」
「あの、先輩」
「うん?」
「もしわたしが、まだ帰りたくないって言ったらどうします?」
「そ、それってどういうこと?」
「二人で、その……」
弥寿子ちゃんは、顔を赤らめてうつむく。
まさか、ラ……に行きたいってこと? この表情からするとそうだよな。
「もちろん、嫌ならいいですけど」
俺には、小由里ちゃんがいるんだから、その誘いには乗ってはいけないと思いつつも、一回ぐらいならいいんじゃないか、という思いが急速に湧き上がってきた。
俺は弥寿子ちゃんのことは、嫌いではない。むしろ、最近は好意がどんどん増してきている。
そして、今日一緒に出かけたことで、恋というものに、その気持ちが変わり始めている気さえしている。
でも弥寿子ちゃんは、仲が良くなってきているとは言っても、友達で後輩だ。恋人ではない。
どうしてもそこのところは思わざるをえない。
どうするべきだろうか。断るべきだと思う気持ちも強いが、誘いに乗るべきという気持ちも強くなってきている。
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