第四十五話 お出かけの日
朝がやってきた。
今日は、弥寿子ちゃんと、先輩後輩で友達、そして部活動の一環として、お出かけをする。
なんてかっこをつけているが、実際は、女の子と一緒に出かけるのだ。しかも俺に好意を寄せてる人と。
意識しない方がおかしいだろう。
小由里ちゃんの手前、デ-トと呼ぶことはできない。
俺としても、そう思うことには抵抗がある。
しかし、この期待感はなんなんだろう。
女の子と一緒に出かけるということが、こんなにも気分を高まらせるものとは。
小由里ちゃんには申し訳ないが、そういう気持ちになってしまう。
俺はシャワーを浴び、髪型と服装を整えて、家を出た。
おしゃれな服装はしていないが、身だしなみは俺なりに整えたから、彼女がそれで俺のことを嫌いになることはないだろう。
それにしても俺は、彼女の反応をいつの間にか、結構気にしてしまっている。自分でも大きな変化だなあと思う。
待ち合わせの駅には、三十分前に着く。ちょっと早すぎたかもしれないが、これでいいと思う。さすがに彼女はまだ来ていない。
しばし待っていると、
「先輩、ごめんなさい」
と言って、彼女がやってきた。
俺はその姿に目を奪われてしまった。
紺色のジャケットに白いブラウス、そして薄いピンク色で短めのスカート。
制服姿もかわいかったが、私服姿も素敵だ。
「先輩、わたし、どこかおかしいところありますか?」
彼女に見とれている俺に、彼女は心配そうに聞いてきた。
「あ、いや、弥寿子ちゃんはいつもかわいいけど、今日はより一層かわいいなあ、と思って」
「せ、先輩、恥ずかしいです。そんなに褒めてくれるなんて。言い過ぎですよ」
彼女は顔を真っ赤にする。
「い、いや、言い過ぎんなんてことはない。こんなにかわいい子はなかなかいない」
「そう言ってくれるだけでうれしいです」
そう言うと彼女は、恥じらいながら微笑んだ。
俺はそういう彼女を見ていると、彼女にどんどん心が傾いていくような気がする。
これでいいのか、と思っていても、可憐な彼女の魅力に抵抗するのは難しい。
「待たせてしまってごめんなさい」
「まだ十分前だ。全然気にすることないって」
「ごめんなさい」
「それじゃ、いこうか」
俺たちは、電車に乗り、映画館のある駅へと向かっていく。
女の子と電車に乗ること自体、幼い頃小由里ちゃんと乗ったぐらいか。その時は、親どうしも必ず一緒だったので、女の子と二人きりで乗るのは初めてだと思う。
なんかそれだけでもうれしい気分。
ただ彼女は、俺の隣にはもちろんいるのだが、手を握ってこようとはしていない。初めてのお出かけなので、緊張しているんだろうし、遠慮もしているからだと思う。
逆に手を握ってくれないかなあ、と期待してしまう。俺から握りに行くことはできないので、待つしかないのだが……って俺は何を考えているのだろう。
軽く食事をとった後、映画館に入ると、結構な客の入りだ。カップルも多い。
俺もカップルとして入りたかったなあ、と一瞬思う。
でも今日は一人ではない。弥寿子ちゃんがいる。恋人じゃなくても、女の子の友達と見ることができるんだ。
今までは一人で来ていて、それはそれで楽しめてはいたのだが、あこがれていたことなので、素直にうれしい。
「先輩、楽しみですね」
彼女が俺に微笑みかける。
「俺も期待してるんだ」
俺もにっこり笑いながら応えた。
今回のアニメ映画は、異世界が舞台で、好きだった子と離れ離れになり、それぞれ苦労した後、再会して結ばれるという恋愛もの。
もともと恋愛ものが好きなので、開始早々から熱中した。
絵もきれいで、音楽もいい。恋愛ものではあるが、戦闘シーンもよく描かれている。
次々と別々に彼らを襲う苦難。俺は彼らがかわいそうで、なんとかしてやりたいと思った。
ただ、彼らは再会できることを信じ、次々と苦難を乗り越えていく。俺だったら乗り越えられないかもしれない。
そして再会シーン。二人は抱きしめ合っている。感動で涙が流れてきた。
俺が涙を流していると、弥寿子ちゃんが俺の手を握り、寄りかかってきた。
彼女も涙を流している。
待ちに待った瞬間だ。いつもよりも、より柔らかいものを感じる。そして、彼女のドキドキがよりダイレクトに伝わってくる。
俺の心は急激に沸騰してきていた。
このまま彼女を抱きしめたい。この映画の二人のように。彼女もそれを望んでいるはず。
いや、それはできない。小由里ちゃんにそれこそ申し訳ない。
でも心地いい。これだけでも充分だ。これ以上のことは望んじゃいけない。
エンドロールが終わってからも、しばらくその状態だった。
ああ、映画もよかったけど、彼女の柔らかさがいい。この時間が続かないかなあ、と思ってしまう。彼女の方も多分同じ気持ちだろう。
でも、ここを出なければならない時間がきた。仕方がない。
俺も彼女も立ち上がり、歩き始める。
「じゃあ、行こうか」
「これからどうします?」
「近くの喫茶店に行こう。それでいい?」
「先輩が行きたいところに、どこまでもついていきます」
そう言って彼女は、俺の手を握ってきた。
「いいですよね。手をつないでも」
「そ、そうだな」
「それと、せっかくなので恋人つなぎをしたいんですけど」
こ、恋人つなぎ、それって恋人どうしのするものでは……。
こ、恋人つなぎ、それって恋人どうしのするものでは……。
俺もこういうシチュエーションにあこがれてきた。恋人つなぎをしたいという気持ちは強い。
でも、ただ手をつなぐこととは違う。恋人どうしでないと、やはりそういうことをしてはいけないのだろうと思う。
いつになるかはわからないが、それは、小由里ちゃんと恋人どうしになる時までとっておきたい。
「ごめん。さすがにそれはできない」
「そうですか……。やっぱりまだ無理ですよね」
悲しそうな表情になる彼女。
しかし、すぐに柔らかい表情になり、
「普通の握り方なら、いいですよね」
と言って彼女は俺の手を握る。
手を握ること自体も悩むところはあるのだが、これまで断ってしまうと、それこそ彼女は悲しむだろう。
「そ、そうだな」
俺はそう言った。
「うれしいです。恋人つなぎはできなくても、わたし、先輩の手を握れるだけで幸せです」
彼女はそう言って微笑む。
俺から恋人つなぎを断られてもめげないその強さ。
彼女の手の柔らかさ、そして彼女の笑顔……。
彼女に対する好意がますます強くなっていく気がする。
俺はそう思いながら、彼女と二人で手をつないで、喫茶店へ歩いていくのだった。
「面白い」
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