第四十四話 親友との語らい(弥寿子サイド)
「お母さん自体が、『明日のデートですぐ勝負に決めに行ってはだめ』って言ってたじゃない。明日はとにかく少しでも今より仲よくなる、ということを目標にしようと思ってるの」
「まあそうなんだけど。お母さんとしては、恋人どうしになることを期待しちゃうわね」
「もう、期待されても困るんだけど」
わたしは苦笑いをせざるをえない。
「まあお父さんもお母さんも、仲違いをしてもちゃんと結婚している。その子が弥寿子ちゃんにとって、運命の人かどうかはわからないけど、好きだったら、結果はどうあれその想いを貫きとおしなさい」
「お母さん、ありがとう」
「じゃあ、明日、期待してるから」
そう言ってお母さんは、笑った。
夜。
明日のことで、ネットを見て情報を仕入れたり、物思いにふけっていると、親友の鈴林瑠里子ちゃんからルインが入ってきた。
彼女とは、小学校一年生の頃からの知り合い。長い付き合いだ。先輩との仲について、相談をしたりしている。
「明日、ひま?」
そう彼女は書いてきた。
「もしひまなら一緒にでかけない? わたし、明日空いてるの」
「ひまじゃないよ。明日、出かけるの」
「だ、誰と?」
「先輩と」
「いいなあ。よかったじゃない」
「でも、明日うまくいくかどうか心配なんだ」
そうわたしが書くと、
「今、電話していい?」
と返信してきた。
「いいよ」
そう書くと、彼女はわたしに電話をしてきた。
「弥寿子ちゃんよかったね。念願のデートだね。よくここまで頑張った。応援した甲斐があったよ」
「ありがとう。でもデートって言いたいんだけど……。実際は出かけて映画を見るだけなんだよね」
「いや、自信持ちなよ。男女が一緒に出かけることって、デートって言うと思うんだけど」
「まだ恋人どうしでもなんでもないし。でも行くからには先輩に嫌われないようにしないと。わたし、なんか先輩に嫌われそうな態度をとっちゃうような気がして。心配なんだ」
「なるほど、そういうことね」
「瑠里子ちゃんはどう思う? 彼氏とはどんな感じ?」
「彼氏には、嫌われないようにする努力はしているけど、必要以上には考えないようにしているわ。そういうことで悩んでいると、かえって先輩が嫌がっちゃうと思うよ。あまり考えすぎない方がいいと思う。もっとリラックスした方がいい」
「リラックスね……」
「それに、せっかく一緒に出かけるんだったら、楽しまなくっちゃ。そうして一緒に楽しんで、回数を重ねていけば、先輩もきっと弥寿子ちゃんのこと好きになるわよ」
「そうなるといいんだけど」
「とにかく、弥寿子ちゃんの想いを伝えて行くこと。もちろんそれを前面に出し過ぎちゃいけないけどね」
「お母さんもそう言ってた」
「そうでしょう。まああせらずに。それからあまり悩まずに」
「うん。少しずつ、楽しみながらいこうと思う」
「それがいいと思う。じゃあ、明日の結果、楽しみにしているわ」
「まああまり期待はしないでね。今日はありがとう」
「おやすみ」
「おやすみ」
わたしは、ベッドの上に寝転がった。
ネットでデートについていろいろ調べたし、お母さんと瑠里子ちゃんのアドバイスももらった。
着ていく服も決めたし、とりあえず明日の準備はできたと思う。
後は、先輩にルインをしておかないと。せっかく教えてもらったんだし。
しかし……。
わたしは、どう書こうか悩む。
いきなり「好き」って書いて送ったら、嫌われちゃうかな。でも、先輩のこと好きなんだし……。
悩んでいてもしょうがない。書いちゃえ!
そう思って勢いをつけて、「好き」という言葉を打とうとする。しかし、「す」の字がまず打てない。指が止まってしまう。その一つの言葉が打てない。
「す」という字を打った後、「き」という言葉が打てれば、「好き」になるのだが、それが恥ずかしくて打てないのだ。
本人を目の前にしている時よりも、なんか緊張する。
そうこうしている内に、もう十二時前になってきた。もう寝なければいけない。
睡眠不足の姿を先輩に見せるわけにはいかない。
とは言っても、まだルインを送っていないままだ。
もういいや。時間もないし、こんなところで悩んでいてもよすがない。送っちゃおう。先輩に想いを伝えるのが先決!
わたしは、決断し、
「好きです、先輩」
と、一気に打ち、そのまま続けて送信をした。
ホッとしたが、その後、恥ずかしさが急速に膨れ上がってきた。
本人の目の前で言うのも恥ずかしいけど、書いて送ることも恥ずかしいもの、ということがよくわかった。
そして、わたしはベッドの上を転がりまくった。
ついに、ついに、先輩に送っちゃった。「好きです」って。
心が落ち着いてくると、今度は返事がくるかどうかが気になってくる。
でもわたしは先輩に、「返事は別にいいですから」と言ってしまっていた。
先輩の負担を考えたからだけど、言わなきゃよかったかな。今日の様子だと、返事はくれそうもないよね。それは仕方がないと思うけど。
まあ明日会えるからいいか。
わたしは、それからもしばらくの間、先輩のことを考えていた……。
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