表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/104

第四十一話 弥寿子ちゃんの大胆なお誘い

「先輩、部室や歩いている時は聞けなかったんですけど、浜水先輩とは仲直りしたんですか?」


喫茶店に入った後、しばらくは他の話をしていたが、やがて、弥寿子ちゃんはこう聞いてきた。


俺はコーヒーを飲んで、一息ついた後、


「うん。一応仲直りはできた」


と言った。


心地のいいBGMが流れている。


「仲直りしたんですね。よかったです」


「小由里ちゃんは大切な幼馴染。いつまでも仲違いしているわけにはいかない」


「仲直りできてよかったです。わたしも責任を感じていましたから。申し訳ないと思っています」


「いや、どちらにしても弥寿子ちゃんは責任を感じることじゃない。とにかくこれで一応仲直りできた。もう気にしなくていいよ」


「先輩、そう言ってくれるとありがたいです」


彼女は頭を下げた。


その後、彼女もコーヒーを飲み、


「これから浜水先輩と、どうして行きたいんですか? 『想いを伝えて、仲良くなっていきたいと思っている』と言っていましたけど、恋人どうしに、やっぱりなりたいんですか?」


と真剣な表情で聞いてきた。


彼女のことだから、絶対、このことを聞いてくだろうな、と思っていた。


どう答えようか、と思ってはきた。しかし、まだ考えはまとまっていなかった。


幼馴染というだけではなく、ゆくゆくは恋人どうしになりたい、というのが俺の気持ちだ。


弥寿子ちゃんと出会った頃だったら、なんの迷いもなくそう言っただろう。


しかし、俺は、彼女と一緒に過ごすことが多くなってきて、少なからず彼女のことを意識してしまっている。そして、彼女は俺のことを好きだと言っている。


そういう彼女の前で、小由里ちゃんと恋人どうしになりたい、ということを言っていいものだろうか。


そして、弥寿子ちゃんの悲しい顔を見るのはつらい。なんと言ってもこれが大きい。


でも今後のことを考えると、言わざるをえないだろう。


今言えなくても、いずれは言わなければならない言葉だ。そうであるなら、先に延ばすのではなく、今言った方がいい。


俺は決断し、こう言った。


「俺これからは、彼女と話すようにはしたいと思っている。幼馴染なんだし。昔ほどじゃないにしても。それで少しずつ仲良くなっていきたい。そしてゆくゆくは恋人どうしになりたいと思っている」


「やっぱり恋人にしたいですか?」


彼女はやっぱり少し悲しい表情になり始めていた。


「今は難しいけど、ゆくゆくはそうなりたいと思っている」


「わたしとは、どうしていくつもりですか?」


「そうだなあ……」


俺は一瞬言葉に詰まる。


でも、今思っていることを伝えなければならないだろう。


「俺も、弥寿子ちゃんと話しているのは結構楽しいんだ。これは本当だ。だから、身勝手かもしれないけど、このままの友達関係を続けていきたい、と思っている」


彼女はじっとそれを聞いていたが、


「わかりました」


とあっさり言った。


「弥寿子ちゃんはそれでいいの? そんな俺の身勝手な話、受け入れてくれるの?」


そう言うと、彼女は微笑んで、


「だって、今の関係を続けてくれるって言うんですもの。それだけでうれしいです。これからも、一緒にお茶してもらえますよね。後輩で友達なんですから」


と言う。


「あ、ああ、まあそれはいいだろう」


彼女には言えないが、彼女との今の関係を続けられることで、ホッとしている自分がいる。


「ありがとうございます」


「うん。まあ、とにかく友達として」


「はい。それでいいです。これからもよろしくお願いします」


今まで通りの友達の関係。これなら小由里ちゃんも納得してくれそうだ。


「わたし、先輩が浜水先輩と仲良くなっていったら、やきもちをやいてしまうと思います」


「それは仕方がないと思う。誰だってそういうところはあると思う」


「でも、なるべくそれは抑えていきたいと思っています。幼馴染なんだから、仲良くするのはあたり前ですよね。そこはわたしが言えるところじゃないと思っています。受け入れなきゃいけないと思っています」


「そこは理解してくれるんだ……」


「はい。でもそのことと、わたしと先輩の関係は別です。今はまだ浜水先輩のことで心の中が一杯でしょうけど、わたしはあきらめませんから。浜水先輩以上に先輩のことを好きになって、先輩の恋人になってみせます」


力強く言う弥寿子ちゃん。この気合には圧倒されそう。


彼女の気持ちはうれしい。ここまで言ってくれる子はなかなかいないだろう。


でも、小由里ちゃんのことを考えると、どうしても手放しで喜ぶことはできない。


「先輩、ところでお願いがあるんですけど」


「お願い?」


「はい。できればメアドとかルインの連絡先を教えてほしいんですけど」


「連絡先?」


「友達だったら、連絡先の交換とかするのは、あたり前だと思うんですけど」


「それはそうだけど」


小由里ちゃんのことを考えると、彼女と連絡先の交換すらしていいものかどうか、と思ってしまう。


「浜水先輩とは交換してないんですか?」


「いや、しているけど、でも中学校二年生の頃からは、連絡し合っていない」


「もったいないですね。その前は、連絡し合っていたんですか?」


「その前も。あまりやり取りはしていなかったな。メールで時々やり取りするくらい。まあ俺たちは毎日顔を合わせていたから、その必要もなかったけどな」


ちなみに、自慢じゃないが、今まで小由里ちゃんと優七郎以外の人と、メールやルインのやり取りをしたことは、ほとんどない。


人との付き合いが苦手だったからしょうがないと思う。


「家に帰ってからも、連絡し合う気はなかったんですか?」


「それはなかったなあ。まあ、親しいとは言っても、恋人どうしってわけじゃなかったから」


家に帰ってからも気軽にやり取りしていれば、小由里ちゃんとの関係も変わったかもしれない。確かにもったいなかったよなあ。


弥寿子ちゃんに言われて、俺はそう思った。




「とにかくお願いします。だめですか?」


弥寿子ちゃんは再び懇願する。


ここまでお願いされているのだから、しょうがないか……。


「わかった。いいよ、教えてあげる」


結局、俺は、根負けして、彼女にメアドやルインなどの連絡先を教えた。


「ありがとうございます」


彼女は、俺の予想以上に喜んでいる。


ここまで喜んでくれるんだったら、まあいいや。


「それでは先輩、今日から連絡をさせていただきます」


「連絡されても、すぐに返事はできないと思う。量がたくさんになったらなおさらだ。それでもいいよね」


「もちろんです。返事がなくても文句は言いません。そりゃ、すぐ返事はほしかったりしますけど。我慢します」


「それならいいんだけど。俺、とにかくこういうの苦手な方だから」


「いいですよ。そんなことで嫌いになったりしません。先輩のことは理解しているつもりです」


逆にそれで嫌いになってくれた方がいいのでは、と思ったりもする。


いや、それはさすがに彼女に失礼になるなあ。


「まあ、とにかく返事は書けるようなら書く。それでいいなら」


「はい。全然それで構いません。それではよろしくお願いします。


彼女が何を書いてくるのかわからないが、返事をしなくていいと言ってくれているのだから、その点は気が楽だ。


これで、今日はもう彼女とはお別れかな。


ちょっと寂しい気持ちがする。


しかし、彼女はコーヒーを少し飲むと、さらに大胆な提案をしてきた。


「後、これからのゴールデンウイーク、できたら一日ぐらいは、一緒に出かけたいと思うんですけど」


俺は、とても驚いてしまった。


それって、デートなんじゃ……。


「で、出かけるって、どこに?」


「今、話題のアニメ映画をやっているじゃないですか。それを先輩と見に行きたくて。評判がいいので。先輩も見に行きたいって言っていたじゃないですか」


「確かに見に行きたいたいとは思っていたけど」


漫画部の中でも評判になっている作品だ。


「友達なんですから、それくらいいいですよね」


俺はどう言っていいかわからなかった。


ちなみに、俺は幼い頃に、親も一緒ではあったが、小由里ちゃんと映画を見に行ったことはある。しかし、中学生以降は一人でしか見にいったことはない。


その度に、カップルがうらやましいと思っていて、いつかは恋人と一緒に行きたいなあ、と思っていた。


いや、恋人じゃなくてもいい。友達でもいい。女の子と一緒に行きたい、と思っていたところだった。


彼女は友達なのだから、その点ではいいと思う。


そう言う意味では渡りに船なのだが……。


でも今の彼女と行くということは、限りなくデートに近い気がする。


彼女は気軽に俺に話をし、友達どうしのすることだから、と言っているが、内心は、デートだと思っているに違いない。


相当気合を入れてくるだろう。


俺は、今のままでは中途半端な気持ちで対応することになってしまう。


小由里ちゃんはどう思うんだろうか。


やっぱり悲しむだろうなあ……。


「友達そして、部の先輩後輩がアニメ映画を見て、感想を言い合う。友情を深めるとともに部活動の一環にもなります。これほど有意義なことはないじゃないですか」


なかなかいいことを言う。そうだ、これは部活動の一部でもあるんだな。


しかし、なかなか決断はできない。部活動の一部とはいっても、女の子と一緒に出かけることになるのだ。


「言っていることはわかるんだけど……」


「先輩、行きましょう。行って有意義な時間を過ごしましょう。わたし、先輩と一緒に行きたいんです。お願いします」


弥寿子ちゃんは頭を下げる。涙も少し流しているようだ。


俺と一緒に行きたいという気持ちがすごく伝わってくる。


「わかった、わかった。友達どうしで、部活動の一環ということならいいだろう」


「いいんですか、やったあ、うれしいです。デートじゃない、じゃあ部活動をしましょう」


今デートって言ったような……。いや、部活動だ。部活動。


結局OKしてしまった。まあデ-トじゃない。出かけるだけなのだから。


そう自分の心を納得させようとする。


それに、この彼女の一生懸命な気持ちには応えたくなってしまう。


「それじゃあ、明日の十一時に駅に集合でいいですか?」


「ずいぶん急だな」


「いいじゃないですか。それとも用事とかありますか?」


「いや、ないけど」


「じゃあ、お願いします。券はもう取ってあります」


どんどん攻められる一方だな。俺って。


これでいいのかどうか、とは思うけれど。


そうこうしている内に、もう外は真っ暗。星もだいぶ出てきていた。


「じゃあ明日、よろしくお願いします」


「よろしくな」


「あと、連絡もします。返事は別にいいですから」


「そう言ってもらえるとありがたい」


「じゃあ先輩、さよなら」


彼女は俺に手を振る。


「さよなら」


俺も彼女に小さく手を振った。


さて、明日、彼女と出かけることになってしまった。


後輩でもある友達と出かける。


受けた以上は、準備をしなければならない。


少しはネットで、対応の仕方を調べておかなくてはいけないだろう。


小由里ちゃんは、彼女と部活動の一環でお出かけするだけだったら、納得してくれると思うんだけど……。


俺はそう思いながら、家路についた。


「面白い」


「続きが気になる。続きを読みたい」


と思っていただきましたら、


下にあります☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いいたします。


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に思っていただいた気持ちで、もちろん大丈夫です。


ブックマークもいただけるとうれしいです。


よろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ