第三十八話 連休前日
今日はゴールデンウイークの前日。
今日こそは、小由里ちゃんに対して、あいさつをしようと思っている。
仲直りできたのだから、もうそれくらいはできるはずだ。
まだ三人に対する対応については、心が揺れ動いている。
しかし、やれることはやらないといけないだろう。
俺は学校に着くと、かばんを置いて、小由里ちゃんの教室に向かう。
既に彼女は登校してきた。
クラスに入ってあいさつをしようとも思ったが、さすがにそれはまだできない。
仕方がないので、彼女が出てくるのを待つ。
そして、ついに彼女はこちらへと向かってきた。
昨日、結構話すことが出来たとはいえ、緊張はどうしてもしてしまう。
彼女が目の前に来た。
いつもだったら、この時点の少し前で走り去ってしまっていたのだが、今日は違う。
絶対にあいさつをするんだ、という強い意志があった。
そして、その時は来た。
「おはよう。小由里ちゃん」
俺はようやくその言葉を言えた。
すると彼女も、
「おはよう。森海ちゃん」
と返してくる。
そのまま彼女は、微笑みながら歩いて行く。
俺はホッとし、うれしくなった。
極めて簡単なあいさつではあったのだが、俺にとっては大きな一歩だ。
あいさつだけでなくて、少し会話もできればいいんだが、それは今後少しずつ縮めていけばいいだろう。
仲直りができて本当によかったと思う。
今までは、これさえもできなかったのだから。
彼女も俺に対し、他の人たちに対するのと同じ微笑みを向けてきていた。
やっぱり小由里ちゃんには笑顔がよく似合う。
これから少しずつ、仲を深めていこう。
彼女の後ろ姿を見ながら、そう俺は思うのだった。
昼休み。
昨日に続いて、グラウンドのベンチにいる。
優七郎に昨日のことを話した。
「まあ大きな前進だな」
「そう思うよな」
「うん。お前がもともと言ってたゴールデンウイーク前に、仲直りできてよかったじゃないか」
「お前には感謝してるぜ」
「いいよ。そんなこと。親友なんだから当然だ」
「まあこれでやっとスタートラインに立てたんじゃないか、と思ってる」
「この調子だ。少しずつ仲良くなればいい」
「まあ、せっかくのゴールデンウイークに小由里ちゃんと出かけられないのは残念だけど」
ここは結構ガックリきている。
「まあ海水浴とか夏祭りの時までには、付き合っているといいな」
「それは理想だけど」
「お前だって彼女の水着姿や浴衣姿を見たいだろう」
「もちろんだよ。俺だって男の子だし」
「そうだろう」
「そう言えば、林町さんの水着姿や浴衣姿を見たことあるの?」
「ああもちろん。制服姿も素敵だけど、私服も素敵だぜ。水着も浴衣もいいもんだ」
「そう言えば、去年海水浴や夏祭りに行った、って言ってたっけ。興味がなかったから忘れてた」
「お前、アウトドアのことはあまり興味がないからな」
「まあそうだ、それで、両方一緒に行ったんだ」
「そう、二人でな。別々の日だったけど、水着も浴衣も見ている。とてもきれいで、新たな魅力を感じたもんだ。彼女のその姿にうっとりした。素敵だと思った。でも彼女は恥ずかしかったんだろう、水着の時も浴衣の時も、うっとりしすぎて怒られちゃったりしたけど」
うーん。のろけてくれるね。
「それはよかったな。うらやましい」
「いやいや、行こう行こうってきかないから、しょうがなく行ったんだよ」
優七郎は顔を赤くしながら言う。
いや、そんなことはないでしょう。どう考えても優七郎自身行きたかったんじゃないの。
「まあ何にしてもよかった」
「ただなあ、後輩の居駒さんとの関係は悩むところだ。彼女にも好意を持ってるところはあるし……」
「お前自身はどう思ってるんだ」
「現状を維持するしかないと思ってる」
「だったらそれでいいじゃないか」
「でも小由里ちゃんとの仲が進展しなかったらどうしょうとか、居駒さんがもっと好きになったらどうしょうとか、そういうことをなんか今思い始めているんだ」
「そんな先のことなんて、考えてもしょうがないじゃないか」
「でも考えてしまうんだ」
「俺は一人の子しか好きになったことがないから、その点は何も言えない。自分でそれは切り開いていくしかないな」
「お前の言う通りだ。俺が道を切り開くしかないよな」
「だけど、俺だったら、小由里ちゃんと関係を深めることを選ぶな。幼馴染で長年一緒にいるんだ。お互いのことをよく知っているわけだから、それがいい方向にいけば、絶対ラブラブになれると思うけどな」
「お前たちみたいに、ラブラブになれたらいいなあ、と俺も思っている。でも難しそうな気もするんだ」
「難しそうなんて言ってたんじゃ、仲は進展しないと思うぜ。まあ別に鈴菜ちゃんとは、ラブラブってわけじゃないけどよ」
そう言いながら、また顔を赤くする優七郎。
「まあ今日俺が言えるのはここまでだ。とにかくどういう結果であれ、精一杯やった方がいい。じゃないと二人に失礼だからな」
「精一杯……。そうだな、その通りだな。ありがとう。また話をさせてくれ」
「もちろんだ。俺はお前の親友なんだからな」
そう言うと、優七郎は、大きな声で笑い出した。
「面白い」
「続きが気になる。続きを読みたい」
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