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第三十六話 恋人どうしになる為の道

「小由里ちゃん、今日はもう一つ話があるんだ」


「話しって?」


「あ、あの、お、俺」


次の言葉がなかなか出てこない。緊張は最大局面まで来ていた。


ここまで来たんだ。後一歩。後、もう少しのところだ。


彼女に告白をして、両想いになる。


小由里ちゃんはそんな俺を見て、少し顔が赤くなってきているような気がする。


これから俺の言うことを予想していてくれているのだろうか。


春のうららかな風が吹く中、次は告白だ。告白するには絶好のチャンスだと思う。


しかし……。


その大切な第一歩である、好き、という言葉が出てこない。


「森海ちゃん、どうしたの? 顔が真っ赤で、なんだか具合が悪そうだけど、大丈夫?」


心配そうに言葉をかけてくる彼女。


「い、いや、体は元気」


なんとかそう言葉を発する。


これじゃいけない。彼女を心配させる為にここにいるんじゃない。絶対に告白するんだ!


俺は気合を入れていく。


しかし、それとともに、胸のドキドキもますます高まっていく。


心がもう滅茶苦茶になりそうだ。でも、今日ここで告白しなければいけない!


「さ、小由里ちゃん」


「は、はい」


俺の真剣な表情に、彼女の表情も変わってくる。


だが……。


俺は、いくら言おうと努力しても、


「好きです、付き合ってください」


という言葉が出てこない。


それどころか、弥寿子ちゃんの悲しそうな顔が心の中に浮かんでくる。


彼女に対する遠慮が大きいのだろうか。


そんなことはないはず。彼女は友達。恋人ではない。だからここで告白するのは何の問題もないはずなのに……。


それだけではない。


俺はどこかで、小由里ちゃんとの関係を幼馴染以上にしたくないと思っているようだ。


あれだけ最近、彼女を恋人にしたいと思ってきたのに、こういう大事な時になってそういう気持ちが湧いてくるとは……。


俺が無言のままでいると、


「森海ちゃん、わたし」


と言って彼女が話し始めた。


「今日仲直りできてうれしいわ。森海ちゃんとは幼馴染だもん。今まで寂しかったわ」


「俺も」


「これからは、少しずつ昔みたいに話のできる関係になりたい」


「俺もそう思っている。俺達昔はよく遊んだりおしゃべりしたりしてたよな」


いや、そうじゃない。俺は幼馴染としてではなく、恋人どうしになりたいんだ。


しかし、それは言葉にならない。自分が情けない。


「またそうなると良いわね」


そう言って微笑んだ後、また真剣な顔になる。


「ところで森海ちゃん、居駒さんのことだけど」


小由里ちゃんは、言いづらそうに俺に聞いてくる。


「森海ちゃんのこと、好きなようね」


「そ、そうかなあ」


「森海ちゃん一途なのがよくわかった。心の底から森海ちゃんのことを好きなんだと思う。わたしが言うのもなんだけど、彼女の気持ち、わかる気がする」


「いや、彼女は俺の後輩というだけで……。まあ友達だとは思うけど、好きというわけじゃ」


「今の居駒さんは、わたしよりよっぽど、森海ちゃんのこと好きだわ。森海ちゃんもその想いを少しずつ受け入れ始めている気がする」


「そ、そんなことはないと思うけど」


「いや、二人の距離はだんだん近づいているんだと思うわ。手もつないでるんだし。それに比べて、わたしはまだ居駒さんの域には達していない。森海ちゃんのこと好きだけど、やっぱりこの二年は長かった。その間、どうしても、「嫌い」という気持ちが残り続けていたから」


「俺はこれから、その空白の時間を埋めていきたいと思ってる」


「それにね、幼馴染なのが逆によくなかったのかもしれない。もし、幼馴染じゃなかったら……」


最後の方は声が小さくなって聞こえなった。


恋人になれたかもしれない、と言ったような気がするが


「そ、それってどういう……」


「いや、幼馴染じゃなかったら、居駒さんみたいに、積極的になれたんじゃないかと思って」


積極的になれたら、ってことは、小由里ちゃんが俺に積極的にアプローチする可能性もあったということだろうか。いや、違う意味かもしれない。ここは慎重にいこう。


「でも幼馴染だったから、思い出もいっぱい作れたんだと思うんだけど」


「そうね。でもわたしは、そういう思い出もいいけど、恋人どうしの関係にあこがれちゃう。でもわたしは森海ちゃんのこと二度も『嫌い』っていっちゃたから、その資格はまだないわよね」


「『嫌い』って言ったことはもう気にしていないよ」


「いや、やっぱり今のわたしにはその資格はないと思う。これからも、居駒さんは森海ちゃんにアプローチすると思うけど、彼女のことをどうこう言う資格は、今のわたしにはないと思う。わたしの方は、まず森海ちゃんへの想いをもう一度自分の中で整理しなきゃいけないと思っている。それで、今持っている好きという気持ちが恋に変わるようだったら、わたしの方からその想いを伝えるようにしたいと思っている」


小由里ちゃんは、弥寿子ちゃんのことを気にしている。そして、そのアプローチを受けている俺のことも、考えてくれている。思いやりがあって、そういうところも好きだ。


「小由里ちゃん……」


「これで仲直りできたし、これから一歩ずつ親しくなっていきましょ」


「そうだな。そうしていこう」


できれば今日、付き合うことについて、OKをもらいたかった。


でも俺の方からはそれを言うことはできなかった。


彼女はもしかすると、俺からそう言ってもらうことを期待していたのだろうか。


いや、もしそうだったとしても、彼女は弥寿子ちゃんのことを気にしている。そういうことも考えると、今日は、まだ告白はできそうもない。


彼女の言う通り、これから改めて仲良くなって、時期がきたら告白するしかないと思う。


とにかく今日は、恋人どうしになるにはまだ遠いが、恋人どうしになる為の道を歩みだしたということは言えるだろう。


「仲直りできただけでもよかった。それだけでもよかったと思っている」


「わたしも。仲直りはしたいとずっと思ってきたから、よかったと思う」


もう少し話をしていたいが、夜が近づいてきた。仕方がない。


俺と彼女の家への道は、ここで分岐する。したがって、今日はここで別れることになる。


「森海ちゃん、じゃあ、わたし行くね。明日からよろしく」


小由里ちゃんは微笑んだ。


「うん。じゃあまた。こちらこそよろしく」


「バイバイ」


「バイバイ」


そう言うと、彼女は去っていった。


「面白い」


「続きが気になる。続きを読みたい」


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