第三十五話 小由里ちゃんと公園
今日もまた公園の入り口のベンチに座って小由里ちゃんを待つ。
よく晴れていて、温かい。というよりは少し暑いくらいの陽気。
優七郎には、
「なんとか今日、彼女と話しをする」
と言ったが、うまくいくだろうか。
だんだん緊張してくる。
しかし、緊張してばかりもいられないので、昨日、なぜ失敗したのかを自分なりに考えてみることにする。
すると、
「ごめんなさい」
という言葉を先に言わなかったことが、失敗の原因ではないか、と思ってきた。
彼女の心を傷つけるつもりはなかった。
しかし、中学校二年生の時と今回のことで、彼女の心は傷ついたままだと思う。やはり、先にそのことを謝る必要があると思う。
彼女は、
「話があるんだ」
というところで、もうその場を去る態勢になっていた。
とにかく、謝る言葉を先に言えれば、その後にする説明を聞く態勢になると思う。
俺は、彼女が来たら、すぐ謝ることにし、彼女の到来を待った。
しかし、なかなか来ない。下校してから一時間経つが、まだ来ない。
今日も部活じゃなかったはずなんだが。
さすがにベンチに座り続けていると疲れてきたので、少し立つことにする。
来ない、ということはないよなあ。
そのパターンが一番つらい。
成功するにしろ、失敗するにしろ、今日彼女にアプローチできる方が全然いい。
とにかく彼女を待つしかない。
それからもしばらくの間、待っていると、やっと彼女が姿を現した。
よし、今度こそ。
胸がドキドキする中、彼女の前へと出る。
「小由里ちゃん、ごめんなさい」
俺はそう言って、頭を深々と下げる。
彼女は、あっけにとられたようだ。立ち止まっている。
「中学校二年生の時、そして、おととい。小由里ちゃんを傷つけてしまった。本当にごめん。謝ってもなかなか許してもらえないと思うけど、俺は仲直りがしたい」
ひたすら頭を下げ続ける。今はこうして誠意を伝えるしかない。
じっと俺の話をきいていた彼女だったが……。
「森海ちゃん、言っていることはわかるわ」
「わかってくれるとうれしいんだけど」
「中学校二年生の時、わたしの気持ちも、もう少しわかってくれるとよかったのに」
「当時は、自分のことしか考えていなかった。だからこうして謝っているんだ。中学校二年生の時、俺は小由里ちゃんがどう思っているかも考えないで、告白のことを相談しちゃった。幼馴染っていう甘えがあったんだろう」
「でも告白した彼女のことは、どちらにしても好きだったんでしょ」
「その当時はな。俺も彼女のことで心の中がいっぱいだった。でも断られてしまった。その後、小由里ちゃんにも話しができなくなってしまって、俺は何をやってるんだと思った。彼女に振られてしまい、しかも大切だった幼馴染にも嫌われて疎遠になってしまった。俺もつらかったんだ。そこは理解してほしい」
それにしてもいい匂いがする。小由里ちゃんの魅力がまた増えた。ああ素敵だ。
唇もきれいで、キスをしたくなってくる、ってそういう場合ではないなあ……。
「その気持ちはわからなくわないわ。だけど、後輩の女の子と手を握り合ってたじゃない。ああいう姿を見て、わたし、ショックを受けたのよ」
彼女は、いつも優しく微笑んで、温かく人を包んでいくようなタイプなのだが、今日は俺に対して結構強い感情で対応している。いや、考えてみると今日だけじゃない。俺に対してだけは、こういう一面を見せている。
「ごめん。でも彼女は彼女で俺のこと、中学校のことから慕っているようだったから、その想いを断ることはできなくて……」
弥寿子ちゃんのからだの柔らかさに魅力を感じてしまっている、というようなことはもちろん言えない。
「そうなんだ。でもね、わたしだって、ずっとつらかったのよ。森海ちゃんのこと、嫌いじゃないから。なんとか、中学校二年生の時のことは、忘れようと思ってきたの。そして、わたしも森海ちゃんともう一度仲良くしたいと思っていたわ。それなのに、ああいう光景を見せられるんだもの」
「ごめん。小由里ちゃんのことを傷つけてばかりだ。謝るしかない。でも俺も仲直りがしたい。この気持ちは受け止めてほしい」
俺は改めて頭を下げた。
しばらくの間、彼女はうつむいていたが、
「うん。今までのことを謝る、その気持ちはわかったわ。わたしもね、仲直りがしたいと思っていたのよ」
と言った。
ホッとした表情。俺と同じで緊張していたようだ。それはそうだろう。俺が何を言ってくるのか、わからなかったんだろうから。
彼女は俺の言うことをわかってくれたようなので、今日の大きな目的は達成できたことになる。
俺もホッとした。
「わたしも、感情的になりすぎてたと思う。『嫌い』っていうのは言い過ぎだった。中学校二年生の時に言った後、ずっと後悔していたの。森海ちゃんの心を傷つけちゃって。そして、今回また言っちゃった。わたしって嫌な人間よね」
彼女は涙声になりながら、そう言った。
「そんなことはない。小由里ちゃんは優しくて素敵な人だよ」
「森海ちゃん、やっぱり優しいね。『嫌い』って言ったことは、ごめんなさい」
小由里ちゃんも頭を下げる。
これで、やっと仲直りができたと思う。長年の悩みが一応解決したと言っていいだろう。うれしいことだ。
では、次のステ-ジに行くか。この調子ならいけるかも。
いよいよ小由里ちゃんを彼女にする為の道が始まる。
でも、さっきよりも緊張してきた。仲直りは一応できたとは言え、すぐに付き合うことをOKしてくれるのだろうか。
しかし、それでも俺は進まなければならない。結果がどうなろうと、前進あるのみだ。
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