第三十四話 今度こそ仲直りしたい
「おう。昨日は大変だったな。でもまた今日公園に行くんだろう?」
朝、教室で、優七郎が俺の席にきて、元気よく俺に声をかけてくる。
今日も、鈴菜さんに怒られたばかりだが、そんなことは全然気にしていない。
昨日、あれから優七郎より電話がかかってきた。
心配をしてくれていた。ありがたいことだ。
小由里ちゃんに、話を聞いてくれなくて落ち込んだが、またチャレンジすることを言うと、
「今度こそうまくいくだろう」
と笑いながら励ましてくれた。
俺達は、教室の隅の方へ行き、話し出す。
「今日は、朝から晴れていて、雲もほとんどなくて気持ちがいいな」
「うん。今日こそは説明して、彼女との新しい関係をスタートする日にしたい」
「その意気だ。期待しているぜ」
「期待されても困るけど」
「お前なら大丈夫。俺は信じてるぜ」
「ありがとよ。でも俺、本人を目の前にすると緊張するんだ。それもよくないのかもな」
「まあ緊張するなっていうのも無理な話だよな」
「こんな時、お前だったら気にしないんだろうけど」
「そんなことはないさ。俺だって、女の子と話す時は緊張する。特に告白のときはな」
うん? 優七郎が自分から女の子への告白の話をしようとしている。
「誰に告白したの?」
「もちろん決まっているじゃないか。彼女だよ、彼女」
「彼女じゃわからないよ」
「お前もよく知っている人だよ。全く、こっちも恥ずかしいんだから」
優七郎の顔が赤くなり始めた。
「林町さんか。でも意外だな。そんなことをしなくても。心は通じ合ってると思ったのに」
今まで、優七郎と鈴菜さんは、自然に仲良くなり、恋人どうしになったんだと思っていた。
「そう言うもんじゃないんだよ。やっぱり、恋愛というのは、言葉でちゃんと伝えなきゃわからないもんさ」
いつもは鈴菜さんとの関係を恋人どうしとは認めたがらない優七郎だが、今日は違う。
これから俺が小由里ちゃんに改めて話しに行くにあたって、より役立つようなアドバイスをしようとしてくれているのだろう。恥ずかしさを我慢して。俺のことに気を使ってくれてありがたい。
「その時、『お前のことが好きだ。結婚してくれ』って言ったの?」
「さすがにそこまでは言ってないけど、『お前のことが好きだ。これからはお前のことを大切にする。なにがあっても俺はお前の傍にいて守ってやる。だからお願いだ。付き合ってくれ』って言ったんだ。でもこの言葉を言う時、緊張したぜ。だって、こういうことを言って、付き合いを断られたら、すごくつらいだろう」
「それはそうだろうけど。鈴菜さんだったら、断ることはないと思うんだけどな」
「お前たちはそう思うかもしれないけど、本人にしてみたら、こういうことを言って、今までの関係が壊れちゃったらどうしょう、と思うんだよ。中学校三年生の時だったし、今ほど彼女のことをわかっていたわけじゃないしな」
「そうなんだ。お前たちでも関係が壊れるかもしれない、って思っていたのか」
「俺もな、このままけんかをし合うけど仲がいい、という状態のままでいいと思ってた。だけど、どんどん彼女のことが好きになってきちゃって、想いが抑えられなくなっていたんだ。後で聞いたら、彼女の方もそうだったらしい。本気で俺のことを怒ることも多かったから、その想いには気がつかなかった」
「もうお互いに相思相愛になっていたんだな」
「まあな。ただその時は、彼女が俺のことを好きだとは思わなかったから、断られる可能性が強いと思って告白した、ということになるな」
「なるほど、断られてもいいと思ってチャレンジしたということだな」
「そうだ」
「彼女にOKをもらった時はうれしかっただろう」
「それはもちろん。うれしくて、うれしくて、彼女と踊っちゃったよ」
いつもけんかばかりしている二人に、こういうドラマがあったとは。
あんな風に仲がむつまじいのもあたり前だよな。
「でもずいぶん大胆な告白だね。ほとんどプロポーズに近いっていうか」
俺がそう言うと、ますます顔が赤くなってくる。
「プ、プロポーズじゃないって。だって、中学校一年生の頃から一緒だし、そ、そのだな、友達として当たり前のことを言っただけだって」
さすがにおのろけが過ぎたのだと思ったのだろう。また鈴菜さんとの恋愛を認めたがらない、いつもの優七郎に戻ってしまった。
「ただの友達に『なにがあっても俺はお前の傍にいて守ってやる』なんてこと言うかなあ」
「いや、言うと思うぞ。お前にだって言えると思う。まあ、男どうしなんで、「好き」っていうのはちょっと恥ずかしいけどな」
と言って笑い出す。
そう言われると、最近は、すぐに弥寿子ちゃんの顔が浮かんできてしまう。
ボーイズラブの世界がそれだけ身近になってきているということか。彼女の影響力がここでも出てきているようだ。
「とにかく、今日はまた勝負の日だ。全力を尽くしてこい。そして、何度も言うけど、今日もし失敗しても明日がある。それも忘れずに行くんだ」
「わかった。そういう気持ちでいく」
「いい結果を待ってるぜ」
「ありがとよ。なんとか今日、彼女と話しをする」
「その意気だ。彼女も、お前の誠意は通じない相手じゃないはず。きっと話を聞いてくれる」
「面白い」
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