第三十二話 公園での俺と小由里ちゃん
「明日にしよう、なんて思ったら、明日のことが気になっちゃって、今日の夜は寝られなくなっちゃうぞ。そうしたら明日は眠くてつらくなるぞ」
「それはそうかもしれないけど」
「一日無駄になっちゃうぞ。それでもいいのか?」
「よくはない」
「だったら今日、彼女と会うべきだ」
「でもやっぱり、説明しても受け入れてくれない気がして怖い」
「する前から何をいってるんだ。一回目で受け入れられなくてもいいじゃないか。さっきも言っただろう。何度でも説明し続ければいい」
「それも大変だなあ。何度も何度も、って」
「それくらいできなくてどうするんだよ」
「そんな根気、俺にはないよ」
「小由里ちゃんのこと、ゆくゆくは恋人にしたいんだろう。だったら地道に行くことだ。中学校二年生の時と昨日のことが障害になっているんだから、それをとにかく修復して、新しい世界にいかないと。とにかく根気だ、根気」
「根気の大切さは理解するよ」
「それにもう一つ言っておく。お前は彼女のことが好きなんだろう?」
「す、好きだよ」
「だったら、その「好き」という気持ちをその時絶対に伝えることだ。今の状態からすると、仲直りしたとしても、恋人どうしににすぐなるのは難しいと思う、二年もほとんど話をしていないんだし。でもその言葉を伝えておけば、彼女だってお前に少しずつ恋心を持っていくと思う」
「これがなかなか難しいところがあるんだなあ。「好き」って言うこと自体恥ずかしいし。それにそれこそ彼女に受け入れられない言葉かもしれない」
「気持ちはわからなくはないけど、それを乗り越えて「好き」って言ってこそ、彼女の方も幼馴染としての「好き」ではなくて、恋人としての「好き」に変わってくる。受け入れられないということはないと思う。とにかく今日は彼女に会い、今までのことを説明し、彼女に「好き」という想いを伝えるんだ」
「そうだな。お前の言う通り、恥ずかしさを乗り越えて想いを伝えていかなければいけないな。今日できるかどうかはまだわからないけど」
「お前ならできる」
そうこうしている内に昼休みが終わろうとしていた。
「俺はアドバイスをした。後はお前がどうするか、だな」
優七郎は立ち上がると、
「教室に戻ろうぜ」
と言って、歩き出す。俺もそれに続いていく。
「アドバイスありがとな」
俺がそう言うと、
「いいってことよ」
と言って優七郎は微笑んだ。
俺は優七郎の言う通りにすべきか悩んだ。
とにかく今までは、勇気がなかった。あいさつもできないのだから。
恥ずかしさがどうしても先に立ってしまう。
そして、受け入れられなかった時のことを考えてしまう。
「嫌いなんだから、わたしに話しかけないで。あなたとは口を聞きたくない」
と言われたらどうしょう……。
今は何もしないのが一番なんだろうか。黙って彼女の感情が静まるのを待つべきではないのか。
そう思ってしまう。
しかし、これで二回も怒らせてしまったのだ。関係を修復するのであれば、優七郎の言う通り、早い方がいい。
やはり今日、彼女に会って説明しよう。
俺はようやく心を決めた。
そして、放課後がやってきた。
俺は準備を整えると、席を立ち、教室の外へと歩いて行く。
「今日、まずはチャレンジだ。もし今日がダメだったしても、また明日がある」
優七郎が、そう俺に声をかける。
「わかった。ありがとう」
そう言って、俺は教室を後にした。
いいやつだ。優七郎は。今日相談してよかった。
そう思いながら、公園へと向かって行った。
三人で遊んだ公園。
結構大きい公園で、池もある。桜が満開の時期は、花見をする人たちでにぎわう。
今はもう葉桜だが、新緑が美しい。
晴れていれば、もっときれいなのだろう。だが今日は、陽射しはあるとはいえ、雲の量がだんだん増えている。このままいくと、夕方から雨が降りそうだ。
俺は入り口近くのベンチに座り、小由里ちゃんが来るのを待つことにする。
小由里ちゃんは、美術部に入っているが、今日は部活の日ではないので、そう待たなくてもいいはずだ。
そう思って、公園の風景を眺めている。
ここで、砂場遊びや、かくれんぼをしたっけ……。
いろいろな思い出が心の中に浮かんでくる。
昔は、異性のことで悩むなんてことは全くなかった。ただ夢中で遊ぶことができた。
心の底から楽しんでいたと思う。
それが今では、小由里ちゃんに嫌われて、落ち込んでしまっている。
ちょっと涙が出てくる。
同性だったら、多分今でも仲の良い友達でいることができたに違いない。優七郎との間みたいに。
いつも気楽に話ができるし、遊ぶこともできる。今日のような相談もできる。異性だとそういうことは、なかなか難しいだろうと思う。
でも異性だから、心がときめくのだし、あこがれの対象になるのだし、幼馴染でそういう風になれたら最高なのでは、ということも思ったりする。
しかし、今のままではなあ……。
と思っていると、彼女が向こうから歩いてきた。
緊張してくる。体が思うように動かなくなってくる。
でも行くしかない。もう決断したんだ。
俺は彼女の前に出た。
「小由里ちゃん、は、話があるんだ」
「森海ちゃん!?」
彼女はびっくりした様子。
「驚かせちゃったようで、ごめん。でも、お、俺の話を聞いてほしい」
俺は彼女に頭を下げた。
しかし……。
彼女は、
「ごめんなさい」
と言って、走っていく。
「小由里ちゃん、待ってくれ、お願いだ! ちょっとでいいから俺の話を聞いてほしい!」
俺は彼女に向かって叫んだが、彼女は振り向くことはなく、そのまま走り去ってしまった。
「小由里ちゃん……」
俺はしばし呆然としていた。
お、俺の話を聞いてほしいのに。なんで、なんで行っちゃうんだ……。
無惨な結果だった。一挙に疲れが出てきた。
もう空は一面のどんよりとした雲で覆われている。寒くなってきた。
とぼとぼと家に帰り、ベッドにうつ伏せになる。
晩ご飯の仕度を、通常ならしなければならないが、そういう気力もない。
どうして彼女は。すぐあの場を去ってしまったのだろう。
俺の話を聞いて断るならともかく、それ以前の状況になってしまっている。
俺とそもそも会話するだけでも嫌なのか。そこまで俺のことが嫌なのか。それじゃ、今後も何もできないじゃないか。
そう思うと、ガックリする。もう何もしたくない。
しかし、やがて、俺は思い直した。
俺の話を聞いて、それで受け入れらなかったわけじゃない。
とにかく話を聞いてさえもらえれば、なんとかなるはず。
まだチャンスはある。こんなところで倒れたままではいられない。
俺は明日、もう一度話をすることにした。
「面白い」
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