第三十一話 仲直りのために
翌日。
「おう、どうした。ずいぶんつらそうじゃないか」
昼休み、昼食をとった後、俺は優七郎に相談をしていた。
グラウンドのベンチに座っている。心地よい風が吹いていた。
「体調がわるいのか?」
「いや、そうじゃないんだけど」
「俺みたいに明るくしていれば、病気なんて寄ってこないぜ」
「そうかなあ」
「そうだよ」
と言って優七郎は、大きな声で笑う。
「お前はいつも元気で明るくて、うらやましい」
「お前だって、大声で笑ってみろよ。スカッとするぜ」
「それはお前だからできることだ」
「そんなことはない。ただこう口を大きく開けて、ワハハハハ、と言うだけだ」
そう言うと、また大声で笑う。
「お前はいいよな。林町さんもいるし」
「何言ってんだい。毎日相変わらずけんかばかりだよ。今日だって怒られたし。お前だって見ていただろう」
「でもけんかするほど、仲がいいって言うし」。
「仲がいいのかなあ、俺たちって。なんか、仲がいいのか悪いのかわからなくなる時があるけど」
「いいと思うぜ。俺は」
優七郎と鈴菜さんが近くにいるのを見ると、すぐあの仲睦まじい光景を思い出してしまう。またふき出しそうになるのを我慢する。
「それはそうと、相談ってなんだ?」
「小由里ちゃんのことだ」
俺は、昨日小由里ちゃんにまた「嫌い」と言われたことを話した。
「まあ後輩の子のことは聞いていたけど、一番会ってはいけない時に出会ってしまったな」
「やっぱりお前もそう思うか」
「うん。ただこれはお前が自分で言っている通り、お前が小由里ちゃんにちゃんと話さないのが原因だな」
「そうだよな。俺がいけないよなあ」
「でも、お前、女性に興味ないって言ってたのにすごいじゃないか。後輩には慕われ、幼馴染には嫉妬されるという」
「嫉妬だなんて、ただ嫌われただけなのに」
「でも『好き』だとも言ってたんだろう。まだまだ脈があるよ」
「そうだといいんだけど」
「だけどお前が逆にうらやましい。俺なんか、好きになってくれる人なんか、今まで一人しかいなかった」
「そんなことはないだろう。お前、サッカー部のホープじゃないか、好きになる人はいっぱいいるんじゃないのかよ」
「いやいや、サッカー選手だから俺のことを好きって言うんだよ。俺本人のことが好きなわけじゃない」
「どっちもお前のことが好きなことは変わらないんじゃないのか?」
「いや、大違いだ。俺本人のことを好きなのは一人しかいない」
「誰? その人は?」
「お前の知っている人だ」
「教えてほしいんだけど」
「自分の口からは恥ずかしくていえない」
「恥ずかしいなんて言わないで、もったいぶらずに」
「恥ずかしいんだよ。俺だって。お前だって知ってる人じゃないか」
優七郎は、顔を赤くしながら横を向く。
「ごめん。ごめん。林町さんだろ。お前の最愛の人」
「そう、そうだよ。彼女だけだ、俺のことが好きなのは、って俺の最愛の人じゃないよ、そりゃ好意は持っているけど」
そして、声を小さくし、
「好きだし、最愛の人と言っていいけど」
と言って顔をさらに赤くしていく優七郎。
「お、俺のことはいいから。とにかく、彼女は怒って帰ってしまった。それからどうすればいいのか、ということだろう」
優七郎は、まじめな顔になっていく。
俺も優七郎の明るさに、少し砕けた気分になっていたが、心を切り替えていく。
「そうなんだ。彼女に謝るはずが、さらに怒らせることになっちゃった。どうして行ったらいいんだろう」
「これはかなり痛いなあ」
優七郎も腕を組んで考え込む。
「ただ、さっきはちょっと脱線しちゃったけど、お前のこと『好き』とも言ったってことは、まだチャンスはあるってことだ」
「お前もそう思うんだ」
「だから、帰り際でも、彼女とお前がいつも通る公園でもいいから、そこでまず説明しろ」
「あの公園で……」
「そうだ。昔、俺たち三人で遊んだ公園だ。まあ、あの頃から、彼女はお前しか見ていなかったし、俺も彼女には興味はなかったけど。とにかく、お前と彼女にとっては大切な場所だろう」
「それはそうだ。お前の言う通りだ」
「だからそこで、今までのことをとにかく説明していけば、彼女の方も、『嫌い』って言ったのは言い過ぎたと思っているはずだから、そのことはわかってくれると思う。そのようにしていけば、仲直りできると思う」
「そこで、うまくいかない可能性だってあるだろう。その時はどうしたら」
「お前さ」
と言って、優七郎はため息をつく。
「まずは、説明することに集中しようぜ。そこから先のことを考えたってしょうがないじゃないか。そう思わない?」
「でもそこで俺を受け入れてくれなかったらどうすればいい?」
「受け入れるまで、誠意を尽くし続ければいい。彼女と恋人になりたいんだろう? なりたくないんだったら別だけど」
「俺は、やっぱり小由里ちゃんを彼女にしたい」
「だったら、それには誠心誠意を尽くさなきゃだめだ」
「林町さんにもそうしてるの?」
「そう。俺だって、そういう対応をするよう心がけているんだ、って違う、違う」
あわてて手を振る優七郎。
「とにかく、今日の帰りにでも公園の入り口で彼女を待つんだ。放課後になったらすぐに行け。こういうことは思ったらすぐ実行した方がいい」
「今日か……」
「そう、今日だ」
急に言われても困る。こちらにも、心の準備と言うものがある。
「面白い」
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