第二十七話 三人との接し方
それから一週間が経った。
だんだん温かくなってきて、心地よい風が吹き始めている。
弥寿子さんとは、クラブがある時、部室でよく話すようになってきた。
もともと女の子とアニメについて話すこと自体は、あこがれていたところがあり、話すのは楽しい。
ただ、帰り際、いつも、
「一緒に帰りましょ」
と甘えた声で言ってくるのには、まいっている。
今日もそうだ。
この声の魅力に、なかなか対抗することは難しい。
小由里ちゃんのことを考えると、本当は断るべきなのだが、ちょっとでもそういう素振りを見せると悲しい顔をする。
それで、俺もついつい、
「うん。まあいいよ」
と言ってしまう。
そうすると彼女は満面の笑みになり、
「ありがとう。先輩のことますます好きになっちゃう」
ということを言うものだから、俺も心が少しとろけてしまう。
ところが、帰る前に一つ大きな関門がある。
そこから、裕子先輩にあいさつをして帰らなければならない。
どうしても、なにか厳しいことを言われるのは、といつも思ってしまう。
心の中では、弥寿子さんのことを嫉妬している可能性があるからだ。
幸い、なにも言われたことはないが、今日も彼女の目は笑っていない。怖い。
今はまだいいけど、彼女の心が俺に傾いてきたら、修羅場になるのではないか、という気がする。
まあそれは考えすぎか。俺なんかのことを、恋の対象と見ることなんて、ありえないと思う。
好意は持っているとは言っても、それは恋とは違うものだろうから。
そう思いながら、俺は部室を離れて行く。
学校を出るまでは、ほんの少し俺と距離を取る彼女なのだが、学校の校門を出ると同時に、俺の手を握り、体を寄せてくる。
俺もそのことをだんだん期待するようになっていた。
こんなことじゃいけないんだが、と思いつつも、彼女の柔らかさを感じたいという気持ちにはなかなか勝てない。
そして、喫茶店に入り、またそこでもアニメの話。
俺も好きなアニメの傾向も結構同じところがあるので、その点、気が合っていると言えるだろう。
ただ、どうしても彼女は、男どうしのキャラクターの愛に、話の方向に持っていきたがるところがある。それは、ちょっとついて行くのは難しいところはないとは言えない。
とはいえ、彼女と話をしていると、楽しいということは言えると思う。
今日も暗くなるまで話をした後、家路についた。
部活があると、こういうパターンになりつつある。
ただ彼女は、部活以外の日は、教室にあいさつにくるくらい。
あいさつをされるのも、少し恥ずかしい気持ちがあるが、これは誰でも普通にすることだし、まあいいのではないか。と思う。
ただ、帰りを待ち伏せしていたりしないのだろうか、と思ったりはした。彼女のあの積極性からすると、そうしたこともありうる、と思っていた。
しかし、今のところそういうことはしていない。
あまりしつこいと嫌われてしまうから、待ち伏せみたいなことはしないのだろうと思う。我慢をしているのだろう。そうして自分の心をさらに燃え立たせているのかもしれない。
また、会わない時間を作ることによって、俺の心が自分に向いてくるのを待っているのかもしれない。
俺の方は、かわいくて、好意を持ち始めているとはいえ、まだ好きになっているわけではないので、毎日親密にされるとつらいところがある。
そういう面では助かっている。
といいつつ、だんだん彼女の思い通りになっていう気はするけれども。
それにしても、俺はこれからどうするべきか。
弥寿子さんとだんだん仲良くなってきているが、本当にこれでいいのだろうか。
少しずつではあるが、彼女と付き合えばいいじゃない、ということを思い始めている。
ちょっと強引だけど、俺のことを好きなのは間違いないし、下手な料理も練習してうまくなり、俺のお弁当を作りたい、と言ってくれる女の子だ。
彼女がほしいという気持ち自体は強いまま。
弥寿子さんだったら、俺がその気にさえなればすぐ彼女になってくれるだろう。
しかし、まだまだ弥寿子さんに恋をする、というところまでは遠い。
裕子先輩に至っては、まだ俺の方は、まだ怖い先輩というイメージのままだ。
彼女は俺に好意を持っていると言っていたが、それはただの気まぐれである可能性もある。
今まで通り、話しかけられた時は対応するけれども、こちらから進んで話をしに行くことは、しなくてもいいのではないか、と思う。
ただ彼女は、温かい面も持っているようなので、その点はもっと感じて行きたいとは思っている。
それが、恋につながっていくかもしれないし、そうではないのかもしれないが……。
では小由里ちゃんはどうなのか。
彼女と結ばれるためには、まず話ができなければ、どうにもならない。
心の中で好きだと言っても、その想いはとどかない。あいさつすらできないのだ。
こんな状態では、時間はすぐ経ってしまう。
とにかく会話をするきっかけがほしい。
なんとかゴールデンウイークまでには、せめて話の出来る関係になれないものか……。
そう思いながら、俺はゲーム機を起動し、なつのちゃんルートの二周目に入っていくのだった。
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