第二十六話 先輩への告白 (弥寿子サイド)
わたしは居駒弥寿子。今度高校に入学した。高校一年生。
今、中学校の時の先輩、海島森海さんに恋をしている。
先輩は、人付き合いが苦手なようで、雰囲気は明るい方ではなく、彼女もいないという話。
でもわたしは先輩のいいところを知っている。
かさを持っていなくて、困っていたわたしを助け、しかもそれをあたり前のことだとして、誇らない。
そんな先輩にわたしは恋をした。
しかし、ほどなくして、先輩には幼馴染がいることを知った。しかも、幼稚園の頃から仲良くしていたという。幼馴染中の幼馴染のような気がする。
そのことを聞いて、わたしは愕然とした。
一緒にいた年数があまりにも違いすぎる。向こうは十年以上の積み重ねがあるのに、わたしはついこの間知り合ったばかり。
勝ち目は到底なさそうだった。
当時のわたしは、それで半ばあきらめの気持ちになり、先輩のことを忘れようと思った。
しかし、この恋心はそう簡単になくなるものではなかった。
忘れかけたと思えば、またその心は復活してくる。
その間、わたしの告白をしてきた男子が何人かいた。イケメン風の人もいたけれど、先輩以上に素敵な人はいなかったので、全部断った。
その度に、先輩への恋心が強まっていくよう気がした。
そうこうしている内に、先輩の卒業式を迎えた。
先輩は、もう卒業してしまう。
わたしは、この一か月間、先輩に告白するかしないかで悩んだ。
告白したい、でも断られるのが怖い。第一、先輩には幼馴染がいるのに、OKしてくれるわけがない、と思う。
一方で、断られてもいいじゃない、卒業式というのは最大のイベント、そこで告白すれば、必ず先輩の心に残る、そして、いつかはそれが実を結ぶのではないか、とも思う。
しかし、わたしは結局、告白することはできなかった。勇気がなかった。
遠くから先輩を眺めることしかできなかった……。
その夜、わたしは泣いた。泣き続けた。
わたしのいくじなし! なんで、なんで、なにもできなかったんだろう。
せめて一声ぐらいはかければよかったのに……。
もうあきらめようか。
そう思う。それができれば、こういう切ない気持ちにならなくてすむのだろう。
わたしは、先輩のことをあきらめる気持ちになりかけた。
もういいや。先輩のことはすべて忘れよう。仕方がないんだ。
再びわたしは泣いた。
今日泣き続ければ、もう先輩のことは忘れられる、そう思った。
しかし……。
今までもあったことだが、こういうことを思った時は、その後、先輩に対する想いが急激に湧き上がってくる。
やっぱりわたしには先輩しかいないんだ。こんなところでいつもでも泣いていちゃいけない。一年後、先輩と同じ高校に行き、そこから猛烈にアプローチをかけようと思う。これから一年は離れ離れになってしまうけど、そこは我慢しよう。
これからどれくらいかかっても、先輩の恋人になってみせる。
そうわたしは決心した。
でもこの一年間はつらかった。
先輩の姿を見ることができない毎日。今までは、遠くからなら見ることができたのに。
先輩への想いはどんどん熱いものになってくる。でも、なにもできない。勉強をするしかない。つらいが、今はどうしょうもない。耐えるしかない。
その間にも、告白してきた男子が何人かいた。
こんな、先輩に告白する勇気もない、わたしのどこがいいんだろうと思う。
それだけでもありがたい気持ちにはなったが、ここで告白を受けいれたら、この苦労は水のあわとなってしまう。
結局すべてそれを断った。申し訳ない気持ちにはなるが、それは仕方のないこと。
こうしてわたしはつらい一年間を過ごした後、先輩と同じ高校に入学した。
入学式の日、やっと先輩に会える、と思うと、心はものすごく高まってきていた。
苦しい思いをしてきたんだ、これからは、その想いをストレートにぶつけていくぞ、もう今までの引っ込み思案なわたしじゃないんだ、と思う。
ところが……。
学校に着き、自分の教室に入った途端、先輩に相手にされないかもしれないのに、なに熱くなってるの、という思いが心の中に浮かんできた。
またもやテンションが下がってくる。
なんでまた……。せっかく同じ高校に入ったというのに。
すぐにでも先輩の教室に行って、告白しようとしていた気持ちが、だんだんと薄れていく。
今日はダメだなあ……。
結局、わたしはまたもや勇気が出てこない状態になってしまった。
ああ、もう、わたしったらなにをしてるのよ。
自己嫌悪で、心の中がぐちゃぐちゃになる。
またもや苦しみ始めていた時。
放課後、今日もなにもできなかったと、がっくりしながら帰路につこうとしていると、グラウンドに先輩がいた。友達と話をしているようだ。
井頭さんっていったっけ。仲がいいと聞いている。
思わず、男性と男性の愛を思い浮べてしまった。
わたしの好きなボーイズラブの世界。あら、わたしとしたことが、ついつい。
その時、わたしの心が急激に高まった。
今だ、今。井頭さんとの話が終わったら、先輩に告白しよう。
なんだかわからないけど、告白するチャンスが来たと思った。
そして、その時はようやくやってきた。
わたしはもう無我夢中だった。
絶対に先輩を振り向かせるんだ、という一念。
わたしは先輩の手をとった。
夢にまで見た瞬間。
先輩の手は温かい。わたしを包んでくれるような気がする。
ドキドキしてくる。先輩の方はどうだろうか。
体を寄せちゃえ! くっつけちゃえ!
今までのわたしにはない、大胆な気分になってきた。
先輩は、わたしが体を寄せると、顔が真っ赤になった。かわいいところもあるんだ。
ちょっと意外。でもそういうところも好き。
わたしの方も、先輩の体温を感じて、心がフワヅワしてくる。
ああ、先輩。先輩をもっと感じたい。もっともっと感じたい。
そう強く思う。
しかし、ここは学校のグラウンド。これ以上のことはできない。
そうだ、喫茶店に行って、この想いを先輩に伝えよう。
このまま手を握ったまま行こう。今はこの手を離したくない。
わたしは。先輩の手を握り続けながら、喫茶店へ一緒に行く。
喫茶店のような落ち着いたところで、告白したかったからだ。
なるべく平静に、と思ったが、心はどんどん熱くなってくる。
そして、わたしは、先輩にその想いをようやく伝えることができた。
それだけでもうれしい。
ただ先輩の心の中は、浜水先輩に占められているようで、これはなかなか大変だ。
それにしても、疎遠になっているというのに、なぜ想いが続いているんだろう、と思う。
ただ疎遠になっただけでなく、「嫌い」とまで言われた相手をまだ想っているなんて。
ここに先輩のことが好きな子がいるというのに。
「嫌い」って言われたら、相手に怒って、顔も見たくない、という状態になるのが普通だと思うんだけど。
幼馴染の絆というのは、それほど固いということなのかと思う。
わたしは、先輩のそういうところも好きになった。
一途な想い。この想いがわたしの方に向けば、わたしのことを大切にしてくれるだろう。
そして、わたしは、一生懸命、先輩にアプローチした。
彼女にしてほしい、とお願いをした。
まだまだ料理が下手なわたしだけど、
「料理もうまくなって、お弁当を提供できるようになります」
ということも言った。
先輩にわたしの弁当を食べてもらう、なんて素敵なことだろう。
おいしい、なんて言われたら、もう有頂天になっちゃうかも。
あらら、ちょっとわたしとしたことが。少し恥ずかしい。
でも、それも聞いてくれない。うーん残念。
ただ、少しだけどわたしに、心が動き始めた気はする。好意はある、って言ってくれたし。
そこより先に進みたい。
結局、今日は、先輩を彼氏にすることはできなかった。
残念でしょうがない。
しかし、わたしの告白は聞いてもらえた。わたしの想いを受け止めることができないことに対して、思いやりも見せてくれた。
先輩って、本当に優しい。ますます好きになっちゃった。
これからどうしていくのがいいか。
メアドとかルインを教えてもらえれば、どんどん想いを送っていくんだけど、今はまだ無理。
今日も、教えてもらえる雰囲気ではなかったから。
いずれは、好き、という言葉をたくさん送れるようにしたい。
では今はどうするべきか。
休み時間に教室へ行くとか、帰りを待ち伏せするとか、方法はある。
でも、あまりしつこいと、今度は嫌がってしまい、わたしが先輩に「嫌い」だと言われちゃうかもしれない。それは避けたい。
しても、教室にあいさつに行くぐらいしかできないだろうな。
なにかもっと親しくなれる方法はないんだろうか。
そうだ、先輩と同じクラブに入ればいいんだ。
今日の先輩との話で、先輩は漫画部に入っていると言っていた。
わたしも、漫画やアニメは好きなので、ちょうどいい。
そこに入部すれば、先輩といろいろ話ができる。親しくなっていけば、彼氏にできるチャンスは広がっていく。
そこで、わたしは漫画部に入部した。
先輩と好きなことで話ができる。これだけでも幸せなことだ。
これからクラブに来る度に、話ができると思うと、うれしくなってくる。
どんどん親しくなっていこう。
ただ、高田浜先輩が帰り際、先輩を呼んでいた。
わたしは、先輩と一緒に帰りたかったんだけど、高田浜先輩の、氷のような厳しい表情を見て怖くなってしまった。一緒に帰りたいとは言えなかった。せっかくのチャンスだったのに。
それで、一人で帰ることになっちゃたんだけど、それから高田浜先輩は、先輩に何を言ったんだろう。
高田浜先輩のことだから、部活動の相談だとは思うんだけど。
まさか、先輩に愛の告白とか。
わたしは、きみのこと、ずっと好きだったんだ。付き合ってくれ。
そんな風に言っているんだろうか。
いや、そんなことはないよね。現実の世界の恋愛に興味はなさそうだから。
ああ、こんなことを思ってはいけないなあ。
今はまだ先輩に振り向いてもらえない。浜水先輩のこと、「恋のライバル」だと思っているけど、わたしが思っているだけで、実際はまだそのスタートラインにも立てていない。
でもわたしはあきらめない。いや、むしろこれからの話だ。
先輩と絶対相思相愛になる! そしてデートをいっぱいして、もっともっと親しくなって、お互いに楽しい生活をしていくんだ!
わたしは、強くそう思うのだった。
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